未来の殺戮王は愛に溺れる

三日月

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信心する神に選ばれましたが全力でお断りしたい

3 まさかの失態に冷や汗が止まりません

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許可が降りたツィードとレオンは、城内へ通された。
国王と王妃に謁見を許され、城内にある祈りの間で心行くまでこの旅の無事に感謝を捧げたツィード。
用意された部屋に入ると、ベッドに無言で倒れた。

「お行儀が悪いですよ」

レオンは、口では注意してもそれ以上の追求はしない。
ツィードは、好きなときに好きなだけ神に祈りを捧げ、神殿の蔵書を読む引きこもり生活のプロ。
それが、早朝から馬車に揺られ、大人数からジロジロ見られ、王族と言葉を交わしているのだ。
無理もない。

グゥ~

ツィードの口より先に腹の虫が返事をした。
赤面したツィードは、腹部を押さえてなんとか誤魔化そうと焦る。

「こっこっこれはっ」
「朝から全部吐いてますからね。
昼食はこちらに運んで貰えますから、それまでお待ちください。
流石に、神殿のように台所に入らせて貰えませんから」

やっと気が抜けたか。 
レオンは狼狽える主に笑みを浮かべる。
実年齢や見た目と比べ精神年齢は低い。
神事に纏わることなら年老いた神官に負けず劣らずの知識を持っているが、基本それ以外のことに興味すら無かった。
隔離されたあの神殿で、そうなるように仕向けていた自分が言うのもなんだが純粋培養の箱入り引きこもり神官だ。
ここは変化のない神殿と流れる時間も環境も違う。
少しは休憩する時間も必要だと、このときのレオンは思っていたのだが。
昼食の後、ツィードの元へひっきりなしに他国の使者がやって来ては八百長取引を匂わせてくる。
その度に、神への冒涜だと説教モードに入る堅物神官に手を焼いた。

休憩させたい本人が一番その時間を減らそうとしてくる!

頭を抱えるレオンをよそに、ツィードはこれはチャンスだと嬉々として国の使者に布教を始めようとする。
夕食の後もそれが続き、ツィードが準備を終えたのは真夜中。
今回の神事は、神官が日の出と共に身を清める必要があったため、レオンはこれまで好きな時間に起きていたツィードを目覚めさせるのに苦労した。


ーー翌朝、祈りの間ーー

神事の中心を担うツィードは、始まりこそ緊張の面持ちで身を固くしていたが、始まってしまうと恙無く進行を務めていた。
選択の儀のために誂えた、特別な紋様の銀刺繍が映える白生地の神官服を身に纏い、ショールの代わりに王子から前以て預けられていた赤布を肩に掛け、まずはルルドへこの国の豊かな未来を祈願する。
カーテンで締め切られた部屋の中、神の像の前で蝋燭の炎が揺らぐ。
両壁際で膝をついた姫君達は、自国のきらびやかな衣装を身に付けていても闇に溶け込み埋没していたが、ツィードの肌はまるで仄かに発光しているように浮いていた。
その姿は、荘厳にして刹那の美を含み、姫君達がここいる目的も忘れて見とれるほど。

どうか次の世も、ルルド神の意思が数多に及ぶ世となりますように。

一心にルルドのために祈りを捧げるツィード。
この儀の主役、最後にこの部屋に入り真後ろに控える王子のことなど視界に入っていない。
ツィードの祈りを捧げる姿が、この選択の儀への期待に繋がり部屋の雰囲気を変えた。
形ばかりに膝を折っていた姫君の頭が垂れ、自国の神へと祈り始める。

この選択の儀で相手が選ばれる確率は二割を切っていた。
誰も選ばれなければ、最後は王子自ら相手を選ぶのが習わし。
神官に袖の下を通すか、王子に媚びるか。
ここにくるまで、そのどちらかしか姫君達の頭には無かったのに。
ツィードは最後の神言を数度繰り返すと、神の像の前に捧げられていた水の張られた深皿を両手で持ち上げた。
その場で向きを変え、頭を垂れていた背後の王子の真正面で膝をつき、俯いたまま掲げられた両手に神の意思が満ちた深皿を授けた。
続いて、深皿と共に捧げていた深紅の花弁の入った小皿を両手で持ち上げ、右側に控えていた姫君へ届ける。
一枚、一枚、震える指で受け取られると、続けて左側の姫君達へ。
最後の一人が花弁を受取り、後は神の御意志を確認するだけだとほっと一息ついたツィード。
台座に返そうとした小皿の中に、まだ一枚花弁が残っている事態を確認して咳き込みそうになった。

何故一枚ここにあるんだ?!
私は候補者12名分用意していない!
選択の儀の資料に則り、神殿の森でそこにしか自生しない花弁を選んで摘んできた。
予備を用意することは許されていないし、何度も何度も確認した!

その背後では選択の儀が着々と進んでいた。
姫君達は、次々王子の前に進み手にした花弁を水面に浮かべる。
途端に、深紅の花弁から色が消えて白色へと変わる。
その変化の早さに驚いた顔が、すぐに神託の意味を理解してひきつる。

王子の守護色に染まらぬ者に、共にこの国に仕える資格無し。

また一人、また一人。
遂に最後の一人も、王子の元へと進みその花弁が白へと変わった。

『全員が資格無し』

言葉にしなくても、最後の一人の表情がその結果を伝える。
ビリッ、他の姫君達の表情が変わった。
自分が選ばれなかったことは悔しいが、全員選ばれなかったのならチャンスはある。

12人の目が王子に注がれる中、アルス王子は器を掲げたまま立ち上がりツィードの元へ向かった。
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