ロスト オメガ

三日月

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Case 6

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「そういやさ」


気まずい顔の岩田に、矢吹はカラッと話題を変えてくる。


「最短記録、更新したな」

「最短記録?」


そんなデータ報告あっただろうかと、記憶を遡るが思い当たらずに岩田は首を傾げる。


「お前な⋯アリシアのことだよ、アリシア」


呆れた矢吹から平らな眼差しを向けられてしまった。
三ヶ月前、お仕掛け女房同然で他国の研究機関から転職してきたアリシア。
白衣の下のたわわな胸を惜しげも無く見せびらかし、短期間だったが研究所を我が物顔で闊歩。
頭は切れるしコミュニケーション力も高く、馴染むのも早かった。
着任早々岩田目当てだと露骨にアピールし、矢吹の記憶では昨日までを含めると直近78日間の岩田の恋人だ。

斜陽分野とはいえ、ロストセックスの若きエースとして岩田は期待されている。
しかも、所長に就任して将来も安定。
研究者としの評価も、矢吹のためにあらゆる情報を頭に叩き込み、一番間近でその成長過程を見てきただけあり折り紙つきだ。
生真面目な性格も、清潔感のある外見も好ましい。
同じ研究者として惹かれる独身女性は多く、春に所長就任の情報を聞きつけて真っ先に飛んできたのがアリシアだった。
学会で顔を合わせたことはあったらしく、グイグイ言い寄るアリシアの申し出を根負け同然だったが岩田は受け入れた。


「あぁ、アリシアなぁ」


出会いの無いド田舎。
岩田も初めは浮かれていたはずなのに、名前を口にする横顔に未練は無さそうだ。
矢吹は、内心ホッとする。
昨日、研究所から荷物を引き上げていったアリシアは、個人的にそれほど親しくしてなかった矢吹の顔をわざわざ覗きに来て、ありったけの愚痴まがいな苛立ちをぶつけて帰って行った。

岩田が矢吹のことばかり話すだの、デートに矢吹も誘おうとするだの、ロストセックスバカとは聞いていたが、アレはΩバカ、イオリバカだっ
その気が無いなら、さっさとそっちでくっつけとまで言われてしまった。
矢吹に喧嘩をふっかけてくる率の高かった歴代の彼女の中で、一番おせっかいな性格だった。

「岩田とのことを聞かれたら、イオリバカぶりを洗いざらいぶち撒けてやるわ」と、最後は笑っていった。
狭い業界だけに、アリシアの口から岩田のイオリバカぶりが広がるのは早いだろう。
所長就任につられ、アリシアが去ってもまた新しいお仕掛け女房が来るんだろうと覚悟していた矢吹にとっては有り難い援護射撃だ。

(まぁ、俺にだけその気があっても仕方ないんだけどさぁ)

くっつけと言われても、「何が行けなかったんだろうなぁ」と他人事のように話す肝心の岩田にその気が無いのだから仕方ない。
岩田が矢吹の話題をつい出してしまうのは、ロストセックスについて熱く語り合える相手に飢えているからだ。
それが行き過ぎて、アリシアもその前の彼女達も、恋人になっても同僚の域を出たと感じられずに岩田の元を去っていった。
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