鬼ごっこ～あのこがほしい～

修行編(瑠璃丸＆京一郎) ４

歌 １

『亥のこ亥のこ　今宵の亥のこ
めでたい亥のこ　今夜亥のこ
鶴や亀やが　まいさがれ

亥のこ亥のこ　今宵の亥のこ
めでたい亥のこ　今夜亥のこ
鶴や亀やが　まいさがれ　まいさがれ

亥のこ亥のこ　今宵の亥のこ
めでたい亥のこ　今夜亥のこ
神や鬼やが　まいさがれ

亥のこ亥のこ　今宵の亥のこ
めでたい亥のこ　今夜亥のこ
神や鬼やが　まいさがれ　まいさがれ』

意識を集中させ、身体の中心から波紋が広がっていくのを感じる。
波紋を歌にのせることで、外への広がりが紋章となって表れる。
澄んだ空に、自分の声が溶けていく。

御山での歌唱は、心地いい。
街中のように、反射する物が少なく。
邪魔をされる音が他に無い。

広がる紋章は、まだ脆く薄い。
たちまち大気に消えていく。

白銀さんから教えて貰った囲め歌の重ね歌。
囲め歌は、一定の領域や記憶を閉じ込める歌。
この重ね歌は、その強化として用いるらしい。
単独で歌えば、自分の力を高める効果があるとか。

「だいぶ形になってきたんちゃう？」

後方。
木の上からする声を仰ぎ見る。
幹に寄りかかり、片足だけ腕ほどの太さの枝に乗せて。
瑠璃丸も、その消えていく紋章を眺めていた。

この歌が私には合うだろうと、口伝で教えて貰った。
驚くべきは、白銀さんの力。
弥勒家は詠唱派ではないのに、その歌には力が宿っていた。
描かれる紋章も、私が作り出すものとは比較にならない。
複雑で美しく、幾重にも重なって見えた。

歌の力は、歌自体の口伝により師と弟子が重ねる。
そうすることで、その身の力を互いに高めあう。
そして、歌の歴史や目的、背景を知ることで、効果を更に細かく設定できる。

鬼となるまで、歌への力の宿し方を会得していなかった白銀さん。
それが今では、歌うだけで術を完成出来てしまえる。
属性持ち、だからなのか？
もしこれを、瑠璃丸が歌えばどうなるのだろう。

そういえば、テレビで歌が流れていても。
それがどれだけ好きな特撮やアニメでも。
瑠璃丸が歌っているところを見たことは無かったな。