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38 記憶 side 陸

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こんな渡とこれから飯を食うとか、俺にとっちゃ拷問にちけぇわ。
手を出さずに最後まで保つ気が全くしねぇ。
急に抱き上げられた渡は、驚いて俺と料理を見比べキョドキョド。


「り、陸、どうしたん??
俺、自分で洗面所に歩いて行けんで??」

「それも、後にしてくれ」

「も?
もって、なんなん??」


余裕がねぇ俺は、答えながら寝室に向かう。


「朝飯の前に、触りてぇ」

「へ?」


理解が出来ず、目を瞬き言葉を失くす渡。
起きて飯だと思ってたとこに、こんなこと言われりゃそうなるわな。
けど、こんなお預け状態のまま飯を喰うのはマジで無理だ。
答えを待たずに、寝室のレバーハンドルに肘を引っ掛け中に入る。
急いで出てきたらしく、ベットの上の掛け布団は抜け殻のように歪曲して重なっていた。
脇に下ろしてベットに座らせると、やっと理解が追いついたらしい。
渡はモジモジ身体を所在なげに動かしながら、頬を赤く染めてエヘヘと笑い俺を見上げてきた。


「えぇっ、えっと、あの、うん、え、えっ、えぇんやで?
陸に触ってもらえんのは、えぇんやけど、その、今すぐこれからとかは心の準備が間に合わへんのやけど」

「心配すんな。
触るっても、服の上からでそれ以上のことはしねぇよ」

「え、そうなん?!」


ヘニョッと眉を下げ、残念そうに口を尖らせる、とか。
心の準備がどーこー言っといて、んな顔すんな。
本当にこのまま喰っちまうぞ。
ったく、今の俺の状態、ちゃんと話しとく方が良いな。


「あのな、食べもんのやり取りを千里さんはラブレターなんて可愛いらしいもんに例えてたがな。
俺には、お前が俺の作ったもんを食べてる姿は、俺の気持ちを受け入れてくれてるようにしか見えねーんだよ。
口に出して言われんのより、直接魂が揺さぶられて喜んじまう。
意識するより早く、身体と直結する。
ここに来てから散々煽られて、我慢の限界が正直近ぇ。
飯の途中に襲いかかりたくねーから、気持ちを落ちつけんのに触りてぇんだ」


あ"ーーーっ、言葉にするとクッソ恥ずかしいっ
食い入るように見てくる強い視線に耐えかね、ガリガリ頭を掻いて気を紛らわせる。
なんて野蛮なと、相手に敬遠されて来た恋愛給餌特化型の性質。
渡なら、んなこと言わねぇと思ったから口に出来たことだ。

なのに、この、エロ天は予想外の返しばかりしてくる。
「そ、それやったら」と、何故かジャージの上衣をシャツごと脱ぎだしたんだ。
慌てて手を掴んで止めさせたが、何を始めようとしてんだ、このアホは。


「お前、俺の話、聞いてたよな?」

「うん、聞いてたで。
俺が怖がってしもたから、陸、我慢してくれてたんやろ?
それやったら、練習を今からしよ?」

「は?」

「え?
せやから、服の上からとかそんなん俺に気をつかんでえぇよ。
昨日の陸の指、めっちゃ気持ち良すぎて怖かったけど、なんべんもしてくれたら慣れてくるかもしれへんし、慣れたら我慢せんでよぉなるやん・・・お、お互いに」


俺の視線から両手で顔を隠し、恥じらう渡。
見下ろした耳朶もうなじもほんのり朱色に染まって誘惑して来るが、今はそれどころじゃねぇ。

お前、俺とすんのに怖気づいたんじゃ無かったのかよっ
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