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37 牙 side 渡

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帰りのことは、そんとき考えよう。
気持ちを切り替えて、陸が連れてきてくれた場所を改めて見回す。

そこだけ、頭の上に空がぽっかりと開いてた。
丸い円になってる広場みたいなとこには、木が生えてなくて。
代わりに、地面を覆う白やら黄色やらの見たことない小さな花がいっぱい咲いてた。周りの、木がニョキニョキ生い茂ってた森とここだけ明らかに違うかった。


「ここ、陸が世話してんの?」

「世話・・・?
んな、大層なことはしてねぇよ。
俺がここを見つけたときから、ここだけ木が生えて無ぇんだ」


そんなことあるんや。
まるでここだけお花畑みたいやん。
足元気をつけてんと、踏み荒らしてしまいそうや。


「日当たりが良いから、色んな木の実が成りやすいんだろう。
今は生憎喰えそうなもんはねぇけどな」


陸は、色付き始めてる木に視線を泳がせて残念そう。
俺が目を凝らしても何もわからへんけど、今見たあたりになんか成ってるんかな。
それから、陸にどの木の実を取って食べたかとか話を聞いた。
引っ越しの間預けられてたらしいけど、おとんやおかんと離れても、俺、きっと寂しく無かったんやろな。
陸と遊んで、こんなとこにも連れてきて貰っててもん。

陸は、気に入った花があるなら持ち帰って飾るって言ってくれたんやけど。
俺、勿体無くて断った。
花を見たかったら、また来たらえぇ。
何回も通ったら、自分の足で歩いてこれるかもしれへんし。

陸はそこから俺を背負って帰ろうとしてくれたんやけどな。
肝心の場所に行けてへん。


「俺が変異種Ωになった場所にも行きたいねん。
あかん?」


咄嗟に目を逸らそうとする陸。
もぉ、ほんまに気にしすぎやわ。
そんな悲しい顔にならんといてほしい。
傷つけたいわけや無いし、ちっとも責める気は俺には無いのに。
両手を伸ばして、陸の頭を胸に抱き寄せる。
陸の身体には力が全然入ってなくて、されるがままや。


「陸、大好きやで」


今の俺がはっきり言えるんは、今の気持ち。
もしかせんでも、そんときの俺は新しい友達としてしか陸のこと見てへんかったんやろなぁ。
だって、男同士やし。
いろんなことを教えてくれる友達と思って、一緒に村の広場でボール遊びして、かけっこで競争して、森で木の実をもろて。
二人の縁は、あの夏から友達としてずっと続いてたかもしれへん。
親友になって、今みたいに学校も申し合わせて同じとこに行けてたかもしれへん。
でも、今は違う。
違うねん。


「俺、大好きな陸と友達だけやなくて家族にもなれるんがめっちゃ嬉しいねん。
せやから、陸がそうできるようにしてくれた場所も見たいねん」
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