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37 牙 side 渡

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「着いたから降ろすぞ」


俺に声をかけた陸の身体が、ゆっくり下がっていくのを感じて足先を伸ばしたら地面に着いた。
陸の背中から降りると、ぴったり身体をつける口実が無くなってしもて寂しい。


でも、遂に陸の秘密の場所に着いたんやもん。
目に焼き付けようと勇んだ気持ちはすぐには満たされへん。
だって、俺の視界は真っ暗やねんもん。

目を閉じてんのもあるんやけど、実は陸のニットセーターで頭ぐるぐる巻にされてるから開けられへんねん。
それを自分で外す前に、陸が引き抜いてくれた。

ふぁー・・・ほんまに、ふあぁぁあやで。
陸の匂いって意識したことなかってんけど、シャツの上についさっきまで着てたニットセーターを頭に被らされたらな。
意識してまうやんっ
陸の家の匂いによく似てんねんけど、それよりうーん、男らしい?
うまく表わせへんなぁ。
とにかく、ドキドキする匂いやねん。

きっと暑いよりそういう意味で赤くなってた俺の顔を、陸は「きつかったか?」と心配してくれてんけど全然そんなことなかったし首を横に振った。
まだ景色が頭に入ってこおへん。
陸に目が釘付けや。

陸はニットセーターを着直さずに、簡単に畳んで手に抱えた。
か、帰りも巻かれるんやろかぁ。
ドキドキしてへんなこと考えんようにしなあかんな。

俺が目隠しされたのには、ワケがあんねん。
言われた場所から早速陸に背負ってもらってんけど、目を閉じてたせいやろか。
音に敏感になって、段々川の流れる音が近づいてくのがわかってん。
それで、陸の歩みがちょっとぶれて。
陸の足元から伝わってくる振動が変わって。
いよいよ丸太の橋やってわかってしもたらもうあかん。
つい確認したくなって目を開けてしもた。
ほんで、チラッと下を見てしもてんっ
陸には、着くまで開けるなよって言われてたのに。

で、や。
そこにあったんは、思ったより流れがゆっくりで下の石まで透けて見える川面。
横幅は、2メートルくらいありそうやった。
それでもって、そこに掛かってた丸太がな。
思ったよりほっそい丸太やってんっ

ほら、丸太って言うたらそれまでに太い木を見てたんもあるんやけど横幅が両足で立てるくらいのを想像しててん。
せやのに、向こう岸まで続いてるのはその半分くらい。

こんなん、二人一緒やったら折れるっ
落ちて流されるっ

ゾッとした途端、歩き出してた陸の背中に力いっぱい抱きついて悲鳴上げてしもうてた。
陸のこと信頼しとるし、それまではお任せ気分でおったのに・・・
陸がとっさに岸まで戻ってくれたから良かってんけど、下手したら俺のせいでほんまに落ちるとこやったわ。

帰りは違うこと考えて絶対に目を開けんとこ。
あれ、でもそれやとへんなこと考えてしまいそうやで?
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