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36 牙 side 陸

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「も・・・ほ、ほんまにタンマ。
お、俺、一回に何辺もイッたこと無いし、こんなん気持ちよすぎて怖なってくる。
頼むし、手加減してぇな。
これ以上されたら、頭ん中どないかなってしまうわ」


渡の余韻の残った瞳には、言葉通り僅かだが怯えが混じっていた。
グズグズ鼻を鳴らしながら、抗議の意味を込めてぺしぺしと軽く手の甲を叩いてくる。
力がろくに入っておらず、痛くも痒くもねぇ。
慣れていないと自白する言葉とその仕草に、思わずククッと笑いが漏れていた。

この様子じゃ、まだ女と経験が無いかもしれねぇな。
去年から、渡とは生徒会庶務として一緒に行動する時間が増えていたが、その間女子生徒から呼び出しを受けているのを何度も見ていた。
俺と違って、誰にでもフラットに笑顔で対応する渡は取っつきやすいんだろうとそんときゃ呑気に見送っていたんだが。
こうなってみると、話は別だ。
自分がΩだと知る前なら、そのうちの誰かと関係を持っていてもおかしくねぇってことだしな。

こんだけ迷惑を掛けた身で、お手付きは嫌だとか言うつもりはさらさらねぇし、過去に経験があろうが無かろうが、渡の相手はこれから先俺だけだ。
番持ちのΩが、番以外の人間に抱かれると酷え拒否反応が出るってのもあるが、渡は俺のΩ、俺だけのΩだ。

けど、俺しか知らねぇのは素直に嬉しいと思っちまうんだから仕方ねぇ。



「陸、なんで笑うん?
も、もしかして、俺、面白がられてる?」

「アホ、んなわけあるか」


勘違いして眉をひそめた渡に呆れる。
お前相手にそんな余裕があるわけねぇだろう。
俺を振り回して面白がってんのは、渡じゃねぇのか?
あぁ、でもお前の場合、この俺を簡単に振り回してるなんてまるで自覚がねぇんだろうな。
なんも考えずに全力、全方位からブン回してくるからタチがわりぃわ。

学園祭からこっち、渡には度肝を抜かされてばかりだ。
さっきも番避けを外して柵にとりつけて来ちまうし・・・んグッ。
あの時の衝撃を思い出しただけで喉奥で詰まる。
俺は、意識してそこから息をゆっくり吐き出した。
人の気も知らず、「ほんまに?」と口を尖らせる渡に黙って頷く。

Ωにされた相手にどうぞ噛んでくれと宣言するこの天使がっ
千里さんに万一知られたら、絶対説教されるぞ。
都合が良いにも程がある白昼夢でも見てんのかと、自分でも正気を疑ったからな。

発情期が来る前に渡に番避けを外して貰えるか。

これは、俺に取っちゃ最難関の壁だっだんだ。
それをコイツは、二人きりになった途端に・・・こっちは1ミリも嫌われたく無ぇから、番になる不安や躊躇いを消して考える時間を持たせるつもりだったんだぞ。
あんときも、付け直せっつったのに聞かねぇし。
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