上 下
846 / 911
35 準備 side 渡

11

しおりを挟む
去り際、何度も振り向いてくれた千里さんとおとんに両手を大きく振り返して、三人の背中が完全に見えへんなるまで見送ると・・・静まり返ったこの場所にいるのは、俺と陸だけになった。

い、いよいよ、陸と二人や。

おとんと離れて、取り残されたような寂しい気持ちもあってんけど。
それに、ドキドキの緊張がバッサーッと被さってきたから思わず胸を押さえた。
いつになるかはわからへんけど、この柵の向こう側に俺が出ていくときは、陸と番になったとき。
そう思ったら、この柵見てるだけで心臓が痛なるわ。

俺が変異種Ωやってわかってから、かなちゃんにはΩにとって番は一生ものの特別なことだからよく考えるようにっていっぱい言われてきたし。
陸だけやなくて、俺が心変わりする日が来ても相手を変えられないんだぞって怖い顔で言われたときもあってんけどな。
菊川君とめちゃめちゃ愛しあってるかなちゃんに言われても説得力無いし、そんときは思わず笑ってしもて怒られたなぁ。

確かにこれから先、おとんやおかんみたいに小さいのから大きいのまで喧嘩することもあるやろうし、もしかしたらかなちゃんが言うみたいな日がくるかもしれへんけど・・・陸以外のαに、ここを噛んでほしいって思うことは絶対に無い。

それは、βから変異種Ωになった俺やからわかることや。

目を閉じても解除できるようになった水色の番避けを首から外す。
すると、俺の気がすむまで戻るんを待ってくれてた陸が隣で息を飲む音が聞こえた。

陸やから、噛んで欲しい。
陸やから、Ωになったことも嬉しいと思える。


「おい、なんで外し・・・」

「ここに預けとくな」


陸の言葉を遮って、近くの柵の格子に巻き付けてカチリと嵌めてしまう。
着けてても全然違和感無かったけど、外したら気持ち軽くなった気がするなぁ。
開放された首を擦ってたら、陸から怒られた。


「このアホッ、何考えてんだっ」

「アホて、酷い。
もう必要ないし外しただけやで?
もう、ここには陸しかαは居らへんし、鋼さんは不法侵入してくるαはいぃひんから安心しろってお昼に言ってはったやん」

「そういう問題じゃねぇ。
これをしてる限り、お前は保留にしとけるんだぞ」

「俺、保留になんてする気無いもん」

「そんなの、いざとなったら分からねぇだろうが。
・・・俺は、千里さんに誓わされたからじゃなくて、お前に無理強いは本当にしたくねぇんだよ」


この番避けの解除の仕方は、説明書も持ってきてへんから俺にしか分からへん。
陸は、番避けを手に取って引っ張ってんけど柵がギシッて音を出すだけでそれ以上はビクともせぇへん。
番避けって、αの牙が通らへんようにめっちゃ頑丈に作られてるんやて。

陸は、番避けにロックがかけられてることを確認したからやろな。
弱りきった顔で俺を見下ろした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

弦先輩と千尋の日常は晴れ時々くもり所によりドキドキするでしょう! ~硬派先輩×可愛い後輩 幼馴染だった二人は恋に落ちていく……のか?~

大波小波
BL
 私立北陽高校3年生の海江田 弦(かいえだ げん)と、1年生の河島 千尋(かわしま ちひろ)は、男子寮の 同室で日常を共に過ごしていた。  幼い頃、その少女のように可憐な容姿を理由に、いじめられていた千尋。  泣き虫の彼を助け、守ってくれた唯一の存在が、弦だった。  強く逞しく、そして優しい弦に憧れた千尋は、彼を慕って同じ高校に進学したのだ。  寮も同室になり喜んでいたのだが、共に暮らすうちに弦の悪い面も見えてくる。  風呂上がりに全裸でうろついたり、柔道にハマって千尋を放っておいたり。  しかし、それを上回る素敵な表情を見せてくれる、弦先輩だった。  夏休みに、体育祭。  誕生日に、文化祭。  弦と千尋は、同じ時間をきらめきの中で過ごしていく。  腐女子・坂井の様々な画策も手伝って、千尋は弦に対して先輩以上の思慕を抱き始める。  弦もまた、そんな千尋の気持ちに気づき、二人は恋に落ちていく……のか?

【続篇完結】第四皇子のつがい婚―年下皇子は白百合の香に惑う―

熾月あおい
BL
嶌国の第四皇子・朱燎琉(α)は、貴族の令嬢との婚約を前に、とんでもない事故を起こしてしまう。発情して我を失くし、国府に勤める官吏・郭瓔偲(Ω)を無理矢理つがいにしてしまったのだ。 その後、Ωの地位向上政策を掲げる父皇帝から命じられたのは、郭瓔偲との婚姻だった。 納得いかないながらも瓔偲に会いに行った燎琉は、そこで、凛とした空気を纏う、うつくしい官吏に引き合わされる。漂うのは、甘く高貴な白百合の香り――……それが燎琉のつがい、瓔偲だった。 戸惑いながらも瓔偲を殿舎に迎えた燎琉だったが、瓔偲の口から思ってもみなかったことを聞かされることになる。 「私たちがつがってしまったのは、もしかすると、皇太子位に絡んだ陰謀かもしれない。誰かの陰謀だとわかれば、婚約解消を皇帝に願い出ることもできるのではないか」 ふたりは調査を開始するが、ともに過ごすうちに燎琉は次第に瓔偲に惹かれていって――……? ※「*」のついた話はR指定です、ご注意ください。 ※第11回BL小説大賞エントリー中。応援いただけると嬉しいです!

室長サマの憂鬱なる日常と怠惰な日々

BL
SECRET OF THE WORLD シリーズ《僕の名前はクリフェイド・シュバルク。僕は今、憂鬱すぎて溜め息ついている。なぜ、こうなったのか…。 ※シリーズごとに章で分けています。 ※タイトル変えました。 トラブル体質の主人公が巻き込み巻き込まれ…の問題ばかりを起こし、周囲を振り回す物語です。シリアスとコメディと半々くらいです。 ファンタジー含みます。

2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~

青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」 その言葉を言われたのが社会人2年目の春。 あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。 だが、今はー 「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」 「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」 冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。 貴方の視界に、俺は映らないー。 2人の記念日もずっと1人で祝っている。 あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。 そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。 あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。 ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー ※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。 表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。

ざまぁ!をされるつもりが… こんな展開、聞いてないっ

BL
そう、僕は姉上の戯言をいつものように聞き流していた。ここが乙女ゲームとやらの世界の中で自分は転生者なのだと。昔から、それはもう物心ついた頃には子守唄の代わりに毎日毎日、王太子がどうで、他の攻略者があーで、ヒロインがこんな子で、自分はそんな中でも王太子の婚約者でヒロインを苛め抜く悪役令嬢に転生したのだと、毎日飽くほど聞かされていた。 ───だから、僕はいつもと同じように気にも留めず聞き流していた。 それがまさか自分の身に降りかかる受難の始めになろうとは… このときはまだ思いもしなかった。 『…すまない、アラン。姉の代わりに殿下の… 王太子の婚約者を務めてほしい』 「は?」 呼び出された父の言葉に、一瞬 自分が何を言われたのか理解が出来なかった。 ───… これは王太子の婚約者だった姉上が平民と駆け落ちしたことにより、降りかかる僕の受難の物語である─。

嫌われ愛し子が本当に愛されるまで

米猫
BL
精霊に愛されし国フォーサイスに生まれたルーカスは、左目に精霊の愛し子の証である金緑石色の瞳を持っていた。 だが、「金緑石色の瞳は精霊の愛し子である」という情報は認知されておらず、母親であるオリビアは気味が悪いとルーカスを突き放し、虐げた。 愛されることも無く誰かに求められることも無い。生きている意味すら感じれなくなる日々を送るルーカスに運命を変える日が訪れ少しずつ日常が変化していき····· トラウマを抱えながら生きるルーカスが色んな人と出会い成長していきます! ATTENTION!! ・暴力や虐待表現があります! ・BLになる(予定) ・書いたら更新します。ですが、1日1回は更新予定です。時間は不定期

クマちゃんと森の街の冒険者とものづくり ~転生赤ちゃんクマちゃんのもふもふ溺愛スローライフ~

猫野コロ
ファンタジー
転生したもこもこは動揺を隠し、震える肉球をなめ――思わず一言呟いた。 「クマちゃん……」と。 猫のような、クマのぬいぐるみの赤ちゃんのような――とにかく愛くるしいクマちゃんと、謎の生き物クマちゃんを拾ってしまった面倒見の良い冒険者達のお話。 犬に頭をくわえられ運ばれていたクマちゃんは、かっこいい冒険者のお兄さん達に助けられ、恩返しをしたいと考えた。 冷たそうに見えるが行動は優しい、過保護な最強冒険者の青年ルークに甘やかされながら、冒険者ギルドの皆の助けになるものを作ろうと日々頑張っている。 一生懸命ではあるが、常識はあまりない。生活力は家猫くらい。 甘えっこで寂しがり屋。異世界転生だが何も覚えていないクマちゃんが、アイテム無双する日はくるのだろうか?  時々森の街で起こる不思議な事件は赤ちゃんクマちゃんが可愛い肉球で何でも解決!  最高に愛らしいクマちゃんと、癖の強い冒険者達の愛と癒しと仲良しな日常の物語。 【かんたんな説明:良い声のイケメン達と錬金系ゲームと料理と転生もふもふクマちゃんを混ぜたようなお話。クマちゃん以外は全員男性】 【物語の主成分:甘々・溺愛・愛され・日常・温泉・お料理・お菓子作り・スローライフ・ちびっこ子猫系クマちゃん・良い声・イケボ・イケメン・イケオジ・ややチート・可愛さ最強・ややコメディ・ハッピーエンド!】 《カクヨム、ノベルアップ+、なろう、ノベマ!にも掲載中です》

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします。……やっぱり狙われちゃう感じ?

み馬
BL
※ 完結しました。お読みくださった方々、誠にありがとうございました! 志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、とある加護を受けた8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 独自設定、造語、下ネタあり。出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

処理中です...