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34 準備 side 陸

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直球勝負。
どんな言い方、理由をつけたところで、あそこが渡にとって最悪の分岐点になったことは変わらねぇ。
案の定、道成さんの笑顔が引きつり俺を見る目は厳しいものに変わる。
頼子さんは一瞬顔を強張らせ、何か俺に言おうとしたように見えたんだが。


「里山って、あの夏休みに行ったとこ??」


先に、前のめりになった渡が口を開いた。
俺がそうだと頷くと、手を合わせ、目を輝かせながら嬉しそうに笑う。


「俺な、俺な。
もう一遍、あそこに行きたかってんっ
初めて会った覚えてへんときの話、どこでどんなことして遊んだとか、陸から聞いてみたかってん」


まずは、渡本人が乗り気なことにホッとした。
渡が嫌だと拒否れば、いくら親父に頼まれたことでも断るつもりだったからな。
「どういうことだ」と、声を潜めて探ってくる千里さんは後回し。
この人は、最悪親父が戻ってきたら任せてしまえばいい。


「渡は、行きたいのか?」

「うん、行きたい。
あ、でも二人やったら心配させるやんな?
おとんとおかんは仕事で一緒には行けへんやろし・・・」

「流石に、仕事終わりに会いに行って日帰り出来るところじゃないからね」


渋る道成さんの肩に、頼子さんの手が触れた。
急な提案に混乱し苛立っているその背を宥めるように、後ろに回った手が上下に優しく動く。


「まぁまぁ、みち君、えぇんやない?
二人が出会った場所で番になるとか、めっちゃロマンチックやもん、なっ、渡」

「あ、おかんもそう思った??」

「シチュエーションとしては、満点やんっ
それに、そんなニコニコされたら口で言うほど全然不安そうに見えへんよ。
まぁ、うちは心配は心配やで?
ほんまに安全なとこなんかなとか、二人でどうやって生活すんのとか、万一渡が番になるん怖がったりしたときに誰か助けてくれるんかとか・・・」

「安全面で言えば、ここより安全です。
近隣の村からは離れていて、身元がハッキリした定年後の老齢βしかいないので他のαが渡に出会う機会はここにいるよりも無い。
二人での生活は、その里山の中に限定されます。
生活に必要なものはすべて運び込んでいることを父に確認しました。
周りに住む人間の協力も得られますが、二人暮しの練習にもなるので出来ることは自分達でしていくつもりです」


そこまでは、淀みなく答えられたんだが。
ゼロでは無い可能性のこの話を口にすんのは、な。
言葉が止まる。
声に出せば、それが現実になりそうで・・・一気に続けることは出来なかった。
だが、これこそが一番心配されていることだとわかってるから避けれねぇ。
俯いて短く息を吐いてから、三人に改めて向き直る。


「渡に番になることを無理強いしないように、俺は里山にいる間抑制剤を飲み続けます。
渡にも、常に抑制剤を持ち歩いて貰い、発情期が始まったときに選択できるように備えます。
・・・同意も無く、Ωにしてしまったこんな俺を受け入れてくれた渡やご家族の信頼を裏切るようなことは決してしません」


どんなことをしても、過去は覆らねぇ。
だからこそ、これからの俺のことを信用してもらうしかねぇ。
座布団から降りて、その場で頭を下げる。

顔を合わせてまだ数日。
信用しろと迫るには、担保に出来るような深い関わりもねぇ。
一人息子をΩに変えておいて、なんて勝手なことを言ってるんだと心の中で自嘲していた。
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