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34 準備 side 陸
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今回のカレーは、千里さんが単独で作ったもんじゃねぇ。
だけど、親父にとっちゃ貴重な千里さんが作ったカレー。
お替りすんのは控えて、あと、朝食は俺が作れば残るか・・・?
「いただきます」と五人で手を合わせ、頼子さんのおしゃべりを中心に夕飯が進む。
渡が今日から突然長期で休むことを気にして、俺に今日の学校の様子を聞いてこられたんだが。
同じクラスじゃねぇし、今日は合同の体育も無かった。
三組では大きな話題にはなって無かったと、そう答えるくらいしか出来ねぇ。
同じ生徒会とはいえ、わざわざ俺に面と向かって渡のことを聞いてくるヤツはいねぇしな。
かなちゃんとこの系列病院に検査入院してるってことになってるから、昼休みになんかかなちゃんがそのことを話していた気もするが。
早く帰りてぇとぼんやり聞き流していたから頭に残ってねぇな。
俺がひと足早く食い終わる頃には、話が千里さんが渡に教えたことに移っていた。
順序立ててβには伏せられているような番やΩの差別についても細かく教えるつもりだったらしいが、あまり進まなかったようだ。
深刻な内容をいくら教えても、Ω向けの恋愛小説で上澄みの偏った知識を持っている渡が前向きに解釈しては話が脱線。
千里さんが「もっと現実的に考えた方が良いと思うんだが」とボヤけば、「じゃあ、一番身近な鋼さんと千里さんの馴れ初めを聞きたいっ」と渡が言い出してそれに頼子さんも便乗。
千里さんは、キラキラ目を輝かせて迫る二人に「渡君が作ってくれたマロンケーキを持ってこようっ」と退散の一手。
千里さんが狼狽えてる姿が珍しく、思わず吹き出したら出て行こうとしていた千里さんから頭を叩かれた。
空になったカレーやサラダで使った食器を全員分回収して台所まで運べば、そこで切り分けたケーキを皿に並べていた千里さんが俺の顔を見るなり溜息。
なんだ、その反応は。
「なんだよ?」
「・・・いや、お前のこれからの苦労が見えてしまってな」
「苦労?」
話が長くなるのかと、流しに重ねて持ってきた皿を並べ、スプーンや箸、皿の汚れを水で落としてから食洗機に並べていく。
逆に、千里さんの手は完全に止まってしまった。
「渡君は、恋愛小説と今の自分を混同してΩになった危機感がまるで無い。
どこまで自分がΩになっていることを自覚出来ているのか怪しい。
あの子を守るにしても、危険に自ら突撃していきそうだからな」
「・・・しそうってか、するだろうな」
かといって、周りからの迫害に怯えて暮らせなんて俺の口から言えるわけねぇ。
卒業するまでβのふりをして過ごすより、今は俺と番になることを渡も選んでくれている。
本人に変異種Ωであることを隠す気がねぇんなら、俺は俺の持てる力、俺が属してる群れのリーダーの親父や菊川の力も最大限利用して渡を守るだけだ。
渡だけじゃなく、俺のことも含めて心配してくれる千里さんを黙って見返す。
「・・・どうやら、覚悟は出来ているようだが。
自分が相手の人生を大きく変えたこと、相手から好かれることが奇跡であることを忘れず、渡君やその御家族も含め守り抜くことに全力を注げよ」
それが、変えた側の責任だと千里さんは切り込む視線で俺に求める。
俺は頷き、それに応える。
渡が俺と共に生きてくれるなら、自分の命も惜しまねぇよ。
だけど、親父にとっちゃ貴重な千里さんが作ったカレー。
お替りすんのは控えて、あと、朝食は俺が作れば残るか・・・?
「いただきます」と五人で手を合わせ、頼子さんのおしゃべりを中心に夕飯が進む。
渡が今日から突然長期で休むことを気にして、俺に今日の学校の様子を聞いてこられたんだが。
同じクラスじゃねぇし、今日は合同の体育も無かった。
三組では大きな話題にはなって無かったと、そう答えるくらいしか出来ねぇ。
同じ生徒会とはいえ、わざわざ俺に面と向かって渡のことを聞いてくるヤツはいねぇしな。
かなちゃんとこの系列病院に検査入院してるってことになってるから、昼休みになんかかなちゃんがそのことを話していた気もするが。
早く帰りてぇとぼんやり聞き流していたから頭に残ってねぇな。
俺がひと足早く食い終わる頃には、話が千里さんが渡に教えたことに移っていた。
順序立ててβには伏せられているような番やΩの差別についても細かく教えるつもりだったらしいが、あまり進まなかったようだ。
深刻な内容をいくら教えても、Ω向けの恋愛小説で上澄みの偏った知識を持っている渡が前向きに解釈しては話が脱線。
千里さんが「もっと現実的に考えた方が良いと思うんだが」とボヤけば、「じゃあ、一番身近な鋼さんと千里さんの馴れ初めを聞きたいっ」と渡が言い出してそれに頼子さんも便乗。
千里さんは、キラキラ目を輝かせて迫る二人に「渡君が作ってくれたマロンケーキを持ってこようっ」と退散の一手。
千里さんが狼狽えてる姿が珍しく、思わず吹き出したら出て行こうとしていた千里さんから頭を叩かれた。
空になったカレーやサラダで使った食器を全員分回収して台所まで運べば、そこで切り分けたケーキを皿に並べていた千里さんが俺の顔を見るなり溜息。
なんだ、その反応は。
「なんだよ?」
「・・・いや、お前のこれからの苦労が見えてしまってな」
「苦労?」
話が長くなるのかと、流しに重ねて持ってきた皿を並べ、スプーンや箸、皿の汚れを水で落としてから食洗機に並べていく。
逆に、千里さんの手は完全に止まってしまった。
「渡君は、恋愛小説と今の自分を混同してΩになった危機感がまるで無い。
どこまで自分がΩになっていることを自覚出来ているのか怪しい。
あの子を守るにしても、危険に自ら突撃していきそうだからな」
「・・・しそうってか、するだろうな」
かといって、周りからの迫害に怯えて暮らせなんて俺の口から言えるわけねぇ。
卒業するまでβのふりをして過ごすより、今は俺と番になることを渡も選んでくれている。
本人に変異種Ωであることを隠す気がねぇんなら、俺は俺の持てる力、俺が属してる群れのリーダーの親父や菊川の力も最大限利用して渡を守るだけだ。
渡だけじゃなく、俺のことも含めて心配してくれる千里さんを黙って見返す。
「・・・どうやら、覚悟は出来ているようだが。
自分が相手の人生を大きく変えたこと、相手から好かれることが奇跡であることを忘れず、渡君やその御家族も含め守り抜くことに全力を注げよ」
それが、変えた側の責任だと千里さんは切り込む視線で俺に求める。
俺は頷き、それに応える。
渡が俺と共に生きてくれるなら、自分の命も惜しまねぇよ。
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