上 下
831 / 911
34 準備 side 陸

15

しおりを挟む
今回のカレーは、千里さんが単独で作ったもんじゃねぇ。
だけど、親父にとっちゃ貴重な千里さんが作ったカレー。
お替りすんのは控えて、あと、朝食は俺が作れば残るか・・・?

「いただきます」と五人で手を合わせ、頼子さんのおしゃべりを中心に夕飯が進む。
渡が今日から突然長期で休むことを気にして、俺に今日の学校の様子を聞いてこられたんだが。
同じクラスじゃねぇし、今日は合同の体育も無かった。
三組では大きな話題にはなって無かったと、そう答えるくらいしか出来ねぇ。

同じ生徒会とはいえ、わざわざ俺に面と向かって渡のことを聞いてくるヤツはいねぇしな。
かなちゃんとこの系列病院に検査入院してるってことになってるから、昼休みになんかかなちゃんがそのことを話していた気もするが。
早く帰りてぇとぼんやり聞き流していたから頭に残ってねぇな。

俺がひと足早く食い終わる頃には、話が千里さんが渡に教えたことに移っていた。
順序立ててβには伏せられているような番やΩの差別についても細かく教えるつもりだったらしいが、あまり進まなかったようだ。
深刻な内容をいくら教えても、Ω向けの恋愛小説で上澄みの偏った知識を持っている渡が前向きに解釈しては話が脱線。

千里さんが「もっと現実的に考えた方が良いと思うんだが」とボヤけば、「じゃあ、一番身近な鋼さんと千里さんの馴れ初めを聞きたいっ」と渡が言い出してそれに頼子さんも便乗。
千里さんは、キラキラ目を輝かせて迫る二人に「渡君が作ってくれたマロンケーキを持ってこようっ」と退散の一手。
千里さんが狼狽えてる姿が珍しく、思わず吹き出したら出て行こうとしていた千里さんから頭を叩かれた。

空になったカレーやサラダで使った食器を全員分回収して台所まで運べば、そこで切り分けたケーキを皿に並べていた千里さんが俺の顔を見るなり溜息。
なんだ、その反応は。


「なんだよ?」

「・・・いや、お前のこれからの苦労が見えてしまってな」

「苦労?」


話が長くなるのかと、流しに重ねて持ってきた皿を並べ、スプーンや箸、皿の汚れを水で落としてから食洗機に並べていく。
逆に、千里さんの手は完全に止まってしまった。


「渡君は、恋愛小説と今の自分を混同してΩになった危機感がまるで無い。
どこまで自分がΩになっていることを自覚出来ているのか怪しい。
あの子を守るにしても、危険に自ら突撃していきそうだからな」

「・・・しそうってか、するだろうな」


かといって、周りからの迫害に怯えて暮らせなんて俺の口から言えるわけねぇ。
卒業するまでβのふりをして過ごすより、今は俺と番になることを渡も選んでくれている。
本人に変異種Ωであることを隠す気がねぇんなら、俺は俺の持てる力、俺が属してる群れのリーダーの親父や菊川の力も最大限利用して渡を守るだけだ。
渡だけじゃなく、俺のことも含めて心配してくれる千里さんを黙って見返す。


「・・・どうやら、覚悟は出来ているようだが。
自分が相手の人生を大きく変えたこと、相手から好かれることが奇跡であることを忘れず、渡君やその御家族も含め守り抜くことに全力を注げよ」


それが、変えた側の責任だと千里さんは切り込む視線で俺に求める。
俺は頷き、それに応える。
渡が俺と共に生きてくれるなら、自分の命も惜しまねぇよ。
しおりを挟む
感想 961

あなたにおすすめの小説

堕とされた悪役令息

SEKISUI
BL
 転生したら恋い焦がれたあの人がいるゲームの世界だった  王子ルートのシナリオを成立させてあの人を確実手に入れる  それまであの人との関係を楽しむ主人公  

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版)

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

嘘の日の言葉を信じてはいけない

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
嘘の日--それは一年に一度だけユイさんに会える日。ユイさんは毎年僕を選んでくれるけど、毎回首筋を噛んでもらえずに施設に返される。それでも去り際に彼が「来年も選ぶから」と言ってくれるからその言葉を信じてまた一年待ち続ける。待ったところで選ばれる保証はどこにもない。オメガは相手を選べない。アルファに選んでもらうしかない。今年もモニター越しにユイさんの姿を見つけ、選んで欲しい気持ちでアピールをするけれど……。

完結・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら、激甘ボイスのイケメン王に味見されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

僕の番

結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが―― ※他サイトにも掲載

上手に啼いて

紺色橙
BL
■聡は10歳の初めての発情期の際、大輝に噛まれ番となった。それ以来関係を継続しているが、愛ではなく都合と情で続いている現状はそろそろ終わりが見えていた。 ■注意*独自オメガバース設定。■『それは愛か本能か』と同じ世界設定です。関係は一切なし。

Ωの不幸は蜜の味

grotta
BL
俺はΩだけどαとつがいになることが出来ない。うなじに火傷を負ってフェロモン受容機能が損なわれたから噛まれてもつがいになれないのだ――。 Ωの川西望はこれまで不幸な恋ばかりしてきた。 そんな自分でも良いと言ってくれた相手と結婚することになるも、直前で婚約は破棄される。 何もかも諦めかけた時、望に同居を持ちかけてきたのはマンションのオーナーである北条雪哉だった。 6千文字程度のショートショート。 思いついてダダっと書いたので設定ゆるいです。

処理中です...