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34 準備 side 陸

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おまっ

驚きすぎて息すら止まった俺を、イタズラが成功した子どもの無邪気さで、渡は笑いながらあっけらかんと話しかけてくる。


「11cmやで。
千里さんに、健康診断の紙も見せてもらってん。
そんなに差がないし、立ったままでもキスがいっぱい狙えるで」


キス、といっても、まだ渡とは触れるだけの軽いヤツしかしてねぇ。
だが、それは全て俺から。
渡からの、は、今回が初めてだった。
視覚と触覚からのあまりの衝撃と威力に、頭の処理速度が追いつかねぇ。
完全にフリーズしている俺に気付かず、渡は肩から地面に滑り落ちたカバンを代わりに拾い、先に家へ上がっていく。


「後で二人で話せるんやったら、先にご飯食べよう~
千里さんに、『カレーをよそっておくから早く戻って来るようにっ』て言われてたん、忘れてた」


若干、千里さんのモノマネを交える渡。
それに、「・・・あぁ」と力なく答えはしたが、足は一歩も動かねぇ。
その離れていく背をぼんやり眺めている内に、やっと自分の身に何が起こったのか理解出来た。

出来た、が。

ヘナヘナと力が入らない膝から崩れ、口だけじゃなく顔ごと両手で覆い隠す。

渡、マジで俺とキスすることに抵抗がねぇのかーーーーーっ

嬉しい誤算に叫びそうになる。
βとして生きて来たなら、いくら小説で刷り込んでいたところで男同士の恋愛はハードルが高ぇ。
やっぱり無理だと、俺と番になることも含めてそのうち拒否されるんじゃねぇかという懸念が残っていた。

これまでに、せがまれたり、意識させるためにこっちからキスして拒まれたことは無かったが、それをこれからの二人の未来への保証として信じるには弱すぎたんだ。

なのに、このタイミングで、あっさりキスしてくるか・・・

サラリと流す自然な態度が、嬉し過ぎた。
まるで、渡から俺とキスすることは当たり前のことなんだと言われているみてぇだった。
改めて、渡からの好意を、番相手として意識されていることが実感出来た。

あの、全てが変わった学園祭からまだ四日。
たった四日。
一週間にも満たねぇ、わずか四日。
そう、四日しか経ってねぇのに。

なんだよ、これ。

渡といるだけで、どんどん高まる幸福度がやべぇ。
息苦しい、いや、時間をこの瞬間に少しでも留めたくて息をするのが辛いのか。

興奮して伸びた牙を引っ込めるために、ゆっくりと深呼吸を繰り返していたんだが。
その俺の背に、影が伸びてきた。


「おい、扉も開けたまま何をしているんだ?
あちらの家を待たせるな」


顔を上げると、訝しげに眉をひそめて廊下を歩いてきた千里さんと目が合う。
あ"ーー・・・、流石に親の顔を見ると萎えるな。
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