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32 挨拶 side 渡

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あーぁ、きっとあのステージの笹部君見て、ファンになった子もたくさんおるんやろなぁ。
ラップもダンスもめっちゃ格好良かったし。
ファンレター、来そうちゃう?
付き合ってるって、公言しときたいなぁ。
笹部君は、そう言うの嫌がるやろか?

考えごとしてたら、「早く帰ろうぜ」って声掛けられた。
笹部君は、カードキーを目安箱に戻した後、当たり前みたいに俺が持ってた衣装の入ってる袋を持ってくれてん。
ココアの缶も袋に入れて「お前が飲んどいて」って言われた。
「持つで?」って言ったけど、かわりに手ぇ繋いでくれてな。
もぉ、めっちゃ彼氏やんっ

ウキウキしながら、昇降口から校舎を出てんけどな。
ちょうど学園を24時間警備してくれてる警備員さんが、これから掃除してくれる業者の人を案内してくれてるとこやった。

学園祭、終わってしもたなぁ。
来年は、二人でいっぱい回りたいなぁ。
こう言うことは、ちゃん口にした方がえぇやんなっ


「なぁなぁ、笹部君?」

「ん?」

「来年は、いっぱい回ろうなっ」

「あぁ」


電灯に照らされた笹部君の、マスクから覗いてる目元がな。
優しくてふんわり笑ってるみたいで。
俺、照れくさなって俯いてしもた。
なんか、胸いっぱいやわぁ。
無言で駅まで歩いてんけど、ふわふわ雲の上を歩いてるみたいやった。

改札口入って、方向が逆やしな。
袋貰って帰ろうとしたんやけど、笹部君に壁際に引っ張られてん。
え、え、ここでお別れのキスとかしてくれたりすんの??
ドキドキして笹部君を見上げたんやけど、思いつめた顔と眉間のシワに違うことはすぐにわかった。


「どないしたん?」

「・・・校舎巡回してから、松野と麻野が飲み物買いに行ったろ?
そのとき、かなちゃんから色々聞かされた、つーか、まぁ、教えられたんだが。
三枝の親も、俺の家のことを色々知ってんだよな?」

「うん、親同士で連絡も取りおうてるみたいやで」

「俺の家に寄ってからになるけど、お前ん家に挨拶に行って良いか・・・聞いてもらえないか」


挨拶??
両想いになれて、お付き合いはじめますってことやろか?
黙って考え込んでしもてる笹部君に、これ以上深く聞ける雰囲気やなかったしな。
言われるままに、目の前で家にスマホで電話してん。


『はいはーい、渡、どないしたん?』


ディスプレイで俺やって確認してたみたいで、おかんが出てくれた。
えー、どう言うたらええの?
笹部君を見上げたんやけど、無言でな。
俺と繋いだ手しか見てへん。
ほんま、どうしたんやろ?
ギュッて手ぇに力入れたら、こっちをやっと見てくれてんけどだんまりや。


「あんな、もうちょっとしたら帰るんやけどな。
えーっと、今、笹部君と一緒にいんねん。
これから俺の家に挨拶に行きたいんやて。
えぇやろか?」

『え、あの陸君ってこと?』

「うん、そうやねん」

『・・・わかった。
実物の陸君に会えるんやなっ
楽しみに待ってるわ』


沈黙があったけど、おかんは明るい声で許可してくれた。
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