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32 挨拶 side 渡

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「ごめんっ、こっちこそ、ごめん」


俺、自分のことしか考えてへんかったっ
やってしもたことで、どんだけ笹部君のこと傷つけてたんやろ。
本当のことがわかって、どんだけ笹部君のこと後悔させてしもたんやろ。

あのときのフェロモンが、その裏返しやって分かってしまうと、とんでもない事をしてたんやなって実感出来る。
優しい笹部君があんな怖いフェロモンをぶつけるようなことするわけないやん。
俺が、笹部君に酷いことをさせてしもてたんや。

俺、笹部君の正面に立って頭を下げた。
このまま地面に穴が開いて、俺を飲み込んでくれへんやろか。
あぁ、あかん、あかん。
逃げてどうすんのっ
こんなことしか出来ひんのが情けないけど・・・好きになって欲しいとか、呑気なこと考えてた自分が情けなくて、笹部君の前にいてんのも辛い。


「ちょっと、待て待てっ
なんで、三枝が謝んだよっ」


狼狽えてる笹部君の声は上擦って、頭を下げる俺から身を引くように身体はベンチに乗り上げてた。
俺の視界からやと、笹部君の体の一部も見えへんなる。


「俺、めっちゃ笹部君のこと傷付けてしもてた」

「いやいや、それを言うなら、俺はお前をΩにしてるんだからな?
謝るのはこっちだろ?」

「そんなん、別にえぇねん」

「は?
よくねーだろう?!
ってか、顔を上げろっ
お前が頭を下げるなら、こっちは土下座しても足りねぇことしてんだからっ」


「あ"ー、わけがわからねぇ」と呻いてる笹部。
ほんまに、そんなんえぇねん。
俺、笹部君と番になれるかもしれへんて分かって嬉しかったんやもん。
でも・・・ほんまにこんな俺でえぇんやろか。
恐る恐る顔を上げると、ベンチに座り直してる笹部君の困りきった顔と目があった。


「あんな、ほんまに、ほんまにな。
俺のこと、Ωにしたから番になるとか、ちょっとでも笹部君が思ってるんやったらな。
俺、笹部君の番になんのは諦めるしな」

「・・・は?
なんで、そうなんだよ。
俺は、誰にもお前をやるつもりはねぇし、カッキーだって気づく前からお前のことが好きだったんだ。
Ωにしたからじゃねぇよ。
もう一回、三枝を俺のΩにしたいくらいお前は俺にとって特別な人間なんだぞ」


「話が通じねぇ」と怒ってる笹部君の言葉こそが。
俺が、好き、より欲しかった言葉。

もう一回、うん、もう一回。

俺が忘れてしもてる夏の思い出だけやなくて。
今の俺もΩにしたいって思ってくれてるんや。

感動が押さえきれへんくて、笹部君の胸に飛び込んでた。
笹部君、笹部君。
俺の大好きな笹部君。


「おい、三枝??」


俺を受け止めるために、咄嗟にベンチに横倒しになって俺が気の済むまで無抵抗でいてくれる笹部君。
きっと、笹部君はこう言おうって構えて言ったわけやないしな。
なんで俺が泣き出したんかも、わからへんのやろうけど。

えぇねん。
うん、わからへんままで居てくれた方がえぇねん。
もう一回、は、俺だけが知ってたらえぇんやもん。
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