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30 学園祭 side 陸

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「何か、あったんですか?」


嗅覚の感度を上げっぱなしにして疲れが溜まっていたせいか、集中力が途切れたと同時に気も抜けていた。
背後から芝浦に声を掛けられるまで、近寄られていたことにも気付けていなかった。


「いや、特に何もねーよ」


振り向けば、自分の腕に番を抱き上げた芝浦が立っていた。
隣には、籠を持った柴田。
それぞれ右頬に赤いキスマークシールをつけている。
そんな3人の後には、十名くれぇの私服姿の女子がぞろぞろとついてきていた。
同じクラスで練り歩いてるようには見えねぇし、呼び込みか?

黒のフリルが目立つ衣装の樟葉に、黒のスーツ姿の芝浦だけなら色的に馴染むが。
そこにジーンズ生地のジャケットとパンツの衣装を身に着けた柴田が加わると、バランスがわりぃ。
確か、お伽話がモチーフなんだろ?
こんな話、あったか?


「なんの話なんだ、ソレ?」

「みこと芝浦は、赤ずきんにみこからインスピレーションを受けて黒ずきんらしいです。
俺は、不思議の国のアリスの帽子屋です」

「肝心の帽子がねーじゃねぇか」

「教室に置いてきてます」


それで、帽子屋って言えんのか?
柴田は俺が聞きたいことを察し、先回りで「自由時間ですから」と付け加えた。
あーってことは、この時間は菊川とかなちゃんの長靴をはいた猫が担当か。
疲れたし、寄ってくか。
朝の打ち合わせを抜けたのに、見失ったまんまなことも直接伝えてぇし。
菊川がいんなら、食べても差し支えがねぇしな。
昼飯以外は、ずっと気を張って歩き回っていた。
休憩しとかねぇと、最後のアレでミスしかねねぇ。


「後で寄るって、菊川に伝えといてくれ」

「了解しました」


ぞろぞろ歩いていくのを見送り、四組の手前で自分のクラスも覗く。
朝から一度も顔を出してねぇしな。
扉の横に掲げた和風喫茶の看板は、一枚板に書道部の生徒が毛筆でしたためたものだ。
内装は、簾と布を組み合わせ、個室のように仕切りを作って落ち着いて食べられるように工夫してある。


「任せきりでわりーな。
売れ行きは?」

「あ、笹部君っ」


受付に声を掛けると、なにか言いたげな顔をされたが結局諦めたらしい。
仕入れ品の在庫について答えが来た。
まぁ、聞きてぇのは今朝の稲葉のことだろうな。
目と鼻の先での出来事だし、稲葉が荷物を取りに寄ったときも鉢合わせた生徒は好奇心が抑えられていなかった。
接客中の生徒の中には、俺を気にしてソワソワ落ち着かなくなっている者もいるから睨み返しておく。

こんなところで聞かれても、客も入ってんだから答えれねぇよ。
俺は、テイクアウトの出来る市販の団子やわらび餅、あとどら焼きを適当に購入。
割引こうとするから「仲間内で割り引いて売上落としてどうすんだ」と止めた。
一人二千円ずつ集め、清算後の儲けで後日打ち上げをするんだとゴリラが吠えて生徒も盛り上がっていたしな。
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