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30 学園祭 side 陸
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すっかり憔悴した稲葉を追い立て、教室から鞄と着替えを回収するとそのまま校門の外へ連れて行く。
着替える時間も与えなかったが、稲葉も何も言ってこなかった。
この件は、清人さんの介入込みで菊川には移動しながら電話で報告済みだ。
菊川は、清人さんの名前を出した途端呻いていた。
御愁傷様としか言いようがねぇ。
菊川が動いてる学園祭で、もしかするとあれだけ溺愛しているΩに危険が及んでいたんだからな。
まぁ、ただじゃ済まねえよなぁ。
かなちゃんの学園祭満喫には関係ない範囲だし、結果的には丸く収めたことになる俺には「ありがとう」と感謝していた。
ちょうど本部に寄っていた松野には、俺の前を歩く稲葉の様子がおかしいと向こうから話し掛けられ直接話した。
「あれは、相当だな」
「な」
トボトボと歩き去る疲れ切った背中。
周りの学園祭に向かってくる浮かれた人間とは別次元にいるみてぇだ。
俺の軽い相槌に、松野は溜息をついた。
ルールを破った稲葉に同情の余地はねぇが、清人さんの怒りを買った間の悪さについては哀れに思う。
稲葉は、振替休日明けに登校して来ねぇかもなぁ。
騒ぎに気づいた三組の生徒も、事の顛末を目撃している。
調子に乗り過ぎていた稲葉を、クラスのαは嫌っていたからな。
他のα女子の反感を受けて、逆に悦に入っていた節もある。
気があると思いこんでいた俺からはペナルティーを科せられ、上位のしかも生徒会長の兄である清人さんには睨まれた。
αとしての地位は、誰から見ても急下降。
これからは、下と侮っていたヤツらから揶揄され侮蔑されるようになる。
プライドが高い稲葉には、針のむしろだろう。
「お前が偏ったことをしたせいもあるんだぞ」
暗に一人しか相手にして来なかったことを攻められ、肩をすくめる。
元々、誘いに乗ること自体がメンドーなんだ。
仕方ねぇじゃねぇか。
今まで特に気にもしてなかった許嫁を、高等部に入った途端持ち出して全部断ってる松野に言われてもな。
「偏りがねぇように、お前も相手をしろよ」
「無理だ。
ああ見えて、俺の許嫁は勘が良い」
あっさりとかわされ、今度はこっちが溜息。
噂をすればなんとやら。
松野の許嫁まで現れる。
慣れた匂いに振り返る必要もねぇな。
まだ気付いていない松野の顔をニヤニヤ眺める。
「?
なん、だあっ」
背後からの突撃。
松野の身体が前のめりに傾いた。
「らーいとにぃ~
ねぇ、ねぇ、まだ休憩じゃないんすか?
待ちわびたっす~」
姿勢をすぐに戻せないでいる松野の背中に抱きつき、わぁわぁ喚く麻野。
松野はそれに答えるどころじゃねぇな。
嗤いたいが、嗤えば小言を追加されそうだ。
勢いに押されてぶち撒けた書類を拾うのを手伝ってやる。
「ねぇーってばぁっ」
「お前が仕事を増やしているんだ」
怒りを抑えている松野の額には、血管が浮いていた。
着替える時間も与えなかったが、稲葉も何も言ってこなかった。
この件は、清人さんの介入込みで菊川には移動しながら電話で報告済みだ。
菊川は、清人さんの名前を出した途端呻いていた。
御愁傷様としか言いようがねぇ。
菊川が動いてる学園祭で、もしかするとあれだけ溺愛しているΩに危険が及んでいたんだからな。
まぁ、ただじゃ済まねえよなぁ。
かなちゃんの学園祭満喫には関係ない範囲だし、結果的には丸く収めたことになる俺には「ありがとう」と感謝していた。
ちょうど本部に寄っていた松野には、俺の前を歩く稲葉の様子がおかしいと向こうから話し掛けられ直接話した。
「あれは、相当だな」
「な」
トボトボと歩き去る疲れ切った背中。
周りの学園祭に向かってくる浮かれた人間とは別次元にいるみてぇだ。
俺の軽い相槌に、松野は溜息をついた。
ルールを破った稲葉に同情の余地はねぇが、清人さんの怒りを買った間の悪さについては哀れに思う。
稲葉は、振替休日明けに登校して来ねぇかもなぁ。
騒ぎに気づいた三組の生徒も、事の顛末を目撃している。
調子に乗り過ぎていた稲葉を、クラスのαは嫌っていたからな。
他のα女子の反感を受けて、逆に悦に入っていた節もある。
気があると思いこんでいた俺からはペナルティーを科せられ、上位のしかも生徒会長の兄である清人さんには睨まれた。
αとしての地位は、誰から見ても急下降。
これからは、下と侮っていたヤツらから揶揄され侮蔑されるようになる。
プライドが高い稲葉には、針のむしろだろう。
「お前が偏ったことをしたせいもあるんだぞ」
暗に一人しか相手にして来なかったことを攻められ、肩をすくめる。
元々、誘いに乗ること自体がメンドーなんだ。
仕方ねぇじゃねぇか。
今まで特に気にもしてなかった許嫁を、高等部に入った途端持ち出して全部断ってる松野に言われてもな。
「偏りがねぇように、お前も相手をしろよ」
「無理だ。
ああ見えて、俺の許嫁は勘が良い」
あっさりとかわされ、今度はこっちが溜息。
噂をすればなんとやら。
松野の許嫁まで現れる。
慣れた匂いに振り返る必要もねぇな。
まだ気付いていない松野の顔をニヤニヤ眺める。
「?
なん、だあっ」
背後からの突撃。
松野の身体が前のめりに傾いた。
「らーいとにぃ~
ねぇ、ねぇ、まだ休憩じゃないんすか?
待ちわびたっす~」
姿勢をすぐに戻せないでいる松野の背中に抱きつき、わぁわぁ喚く麻野。
松野はそれに答えるどころじゃねぇな。
嗤いたいが、嗤えば小言を追加されそうだ。
勢いに押されてぶち撒けた書類を拾うのを手伝ってやる。
「ねぇーってばぁっ」
「お前が仕事を増やしているんだ」
怒りを抑えている松野の額には、血管が浮いていた。
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