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30 学園祭 side 陸

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メガネ女子の肩を抱き寄せたまま、怒りに顔を歪める稲葉を嘲笑う。
稲葉は、そんな俺にムカついたんだろう。
続けてフェロモンの狙いを俺に定めようとする。
何回も、打たせるわけねぇだろうが。

俺は、墓穴を掘った稲葉を嘲笑ったまま宣告した。


「生徒会から、攻撃性を含むフェロモンを他人に向けたお前にペナルティーを科す」


ギクリ。

生徒会の名前を出した俺の言葉に、稲葉の顔が強ばる。
流石に自分が何をしてしまったか、判断出来るくらいには頭が冷めたか。
生徒会が、学園祭開催中に定めているルールはそれほど数はねぇ。
代々引き継がれたまんまの、楽しく過ごすための最低限の内容だ。
だが、稲葉はその中でもαが決して破ってはならない重罪対象行為。
それを俺の目の前でやりやがった。


「学園祭からの即時退去を命じる」

「そ、そんなのってないわっ
今のフェロモンの威力なんて知れてるものっ」


両手を振り回し、稲葉は必死に撤回させようと俺に弁解を試みる。
コイツなりに、この学園祭は楽しみにしていたらしい。
どうでもいいと言い捨て、さっさと出ていくかと思ったんだが。


「威力の大小に関わらず、それが禁止事項になっているのは、学園祭前の総会で菊川が全校生徒に通達しているだろうが。
それに否を唱えるなら、ここに菊川を呼ぶことになるぞ」


まぁ、呼びたくはねぇが。

かなちゃんと巡回デートを楽しんでいるところに呼び出しなんかかけたら、何を言われるかわからねぇ。
ここで引き下がれと念じたのが効いたのか、稲葉は下唇を噛み、目で見てわかるくらいに肩を落とした。

諦めたか。

長引かずに済んだことで、まずは良しとするしかねぇよな。
確かに稲葉の攻撃フェロモンは弱いものだったからな。
既に拡散して教室の前から消えかかっている。
これ以上、追加で攻撃もしてこねぇだろう。

庇っていたメガネ女子の肩を引いて、被害がねぇか正面から確認する。
直接当たってはねぇが、フェロモンに慣れていないβはそれを向けられただけでも恐怖を感じて精神的にヤラれるからな。
生徒会室や食堂で、自分が怯えさせた三枝の顔が過ぎり自嘲する。


「大丈夫だったか?」

「だ、大丈夫です・・・」


青白くなってるかと思ったんだが、俺を見上げた顔は妙に血色がいい。
声を震わせているが、それは恐怖からというには口元がニヤついてねぇか?
本当に・・・大丈夫かよ?
反応がおかしいだろう。

気分が悪そうには見えねぇが、やけに興奮してるしな。
周りに人も集まってきたから、コイツを受付に座らせてから散らすか。
喜色を浮かべてニヤニヤしだしたメガネ女子を、椅子に座らせるため扉の前に戻ったとき。

ガラッ

二年四組の、俺が開けそびれた扉が全開になった。
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