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30 学園祭 side 陸

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教室に向かう俺のテンションは再び上がっていた。
走った先に、俺のΩがいるんだと。
逸る気持ちが抑えられず、気付けば通行人の間をすり抜け走っていた。
生徒会役員の俺が走っていても、誰も注意をしてこねぇ。
何かあったのかと気にするヤツがいても、声を掛けてもこねーしな。

だが。

近付けば近付くほど、歓喜に満ちていた心に綻びが生まれる。
綻びから、どんどんその気持ちが零れ落ちていく。
渡り廊下から校舎に入り、軽快に走っていた足が二年の教室が並ぶ廊下に入ると徐々にスピードが落ち。
教室まで、後数m。
廊下に構えた受付で、整理券を受け取る人間が人混みの間から見えてくると足が止まりそうになった。

どこにいるんだと、見つかるかもしれない可能性にがむしゃらになっていたときには無かった。
具体的に迫る再会への緊張と不安がもたげてくる。

この先にカッキーがいる。

俺のΩに、会える。

もし、この場から去っていても、それほど時間は経ってねぇ。
かなちゃんの残り香を感知出来たんだから、教室に残った発情フェロモンを辿って追いかけることが出来る筈だ。
そう、アイツに会えるんだ。

長年、諦めてきた。
だが、番にしたい気持ちが消えることはなかった相手が射程範囲に入った。
緊張はわかる。
それだけなら、殺せる。

だが、不安は。

現実味を帯びた俺とカッキーの再会に、カッキーは喜ぶか?

カッキーに会って、番にしたい。
それは、変わらずここにあり続けてきた俺の願い、欲望だ。
ギリギリ締め付けられる胸を抑え、俺のΩへの気持ちに迷いは無かっただろうと弱気な自分を鼓舞しても。
それは俺が願っていたことで、カッキーの気持ちはどうなんだと。
その一方で、冷静な声が聞こえる。

俺は、会ってアイツに何を言えば良い?
親父と千里さんみてぇに、笑って暮らせる日が来るとか。
それはαの都合のいい夢だと、名前の無い墓標が否定する。

憎まれ、罵られ、嫌われても。
番になれるのなら、俺はなんだってやれる。
けど、赦されることなんか、あるのか。

一歩一歩、なんとか足を前に出す。

まずは、会わないと。
そうだ、会わなければ他のαに獲られる。


「・・・おい」


中に入るために、受付に声を掛けたが。
情けねぇことに、それは震えていた。


「はい?
あ、巡回ですか?
さっき、菊川君とかなちゃんも来てたけど?」

「騒ぎになっていたらしーからな」

「なるほど、なるほど。
お疲れ様です」


自分でも顔が強張ってんのがわかるのに、受付のメガネは怯えもせずニコリと笑う。
どうぞと言われ、締め切られた扉に手を掛けようとしたが。


「えー、笹部ぇ、なんで先に自分のクラスに来ないのよぉ」


邪魔が、入った。
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