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30 学園祭 side 陸

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菊川は、なんの感情も映さない顔で一歩一歩無言でこちらに近づいてくる。
冷気でも出てんじゃねーかと疑いたくなる目が、俺に逃げ場を与える気は無いと迫ってくるから動けねぇ。

さっきみてぇなフェロモンを至近距離で放ってきてさ。
問答無用で屈服させられるのかと身構えそうになったんだが。
剥き出しの敵意を向けられた方が、まだこちらもやりようがあんのにな。
今の菊川は、無防備に見えて何か裏がありそうな、底知れないモノを隠し持っているんじゃねぇかと。
俺が挙動を間違えば、菊川が牙を向けてくるんじゃねぇかと。

そんな不穏な気配に身体が竦み、正直、何も出来ない。
さっきのフェロモンで、自分との差を見けつけられたせいだ。
完全に、ビビっちまった。

空は、菊川が許してもかなちゃんの発情フェロモンを嗅いでしまった後ろめたさも残ってるし、俺がダメージを負うほどの何かしらの攻撃を受けてるのは察してるからな。
俺が真横でビビってしまうと、見えない恐怖に煽られてまた震えだしていた。

菊川は、動けないでいた俺の正面で立ち止まると、静かに口を開いた。


「いいか、笹部。
俺にとって、今年の学園祭は2つの意味がある。
一つは、カナの思い出を塗り替えるための絶好の機会だ」


・・・は?

菊川は、この学園祭の責任者である生徒会長だ。
その菊川が取り仕切る学園祭を、たかが呼ばわりしたことに腹を立てたとかさ。
今までの付き合いから、そんなまともな理由じゃないとは思っていたが。

思い出の塗り替え?
何を言い出すんだ?
そんな真顔で。


「去年の学園祭は、俺が油断したせいでカナに最悪の思い出を残してしまった。
それを払拭するために、今回の学園祭を逃す手はない。
去年のことを忘れるくらい、俺はこの学園祭をカナに楽しんでもらうために人事を尽くす。
そして、同じくらい大切な意味でこの学園祭を利用する。
カナが卒業するまでバース性での差別を感じることなく、カナらしく学園生活を安心して過ごすための土壌作りだ。
誉と空や海には話したよな?」


不意に名前を呼ばれた空は、「え、空ちゃん??」と自分の顔を指差した。
まさか自分が巻き込まれるとは思ってなかったらしく、ビクビク怯えている。


「良い機会だから、松野や竹居にも後で話しておく。
まぁ、気を使いそうだからカナと。
あと、カナにすぐ漏らしそうな三枝には知らせる気はないけどな。
俺が生徒会長の立候補資格を失う来年の新生徒会長選挙。
それにΩの誉が立候補して、次の生徒会長を引き継ぐ。
Ω初の生徒会長が誕生すれば、バース性の垣根は今よりもっと取り払われる。
今は、誉を受け入れようとしない生徒もいるからな。
今回の学園祭で、誉の好感度を上げておく」


・・・は?
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