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28 学園祭準備 side 陸

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階段を上り特別棟の四階に着くと、一層匂いがきつくなる。
さっさと巡回を終わらせて離れるか。
調理室は、当日ここを使用する料理部が火元と戸締りの管理もしてるからな。
ここの巡回は、生徒会役員が顔を見せることで、数が足りてない調理器具なんかのいざこざが起きないよう抑止力になんのがメイン。

中を覗けば、グループ毎に分かれて真剣に顔を突き合わせ、話し合っていたり、作ったものを並べて盛り合わせに試行錯誤していたり。
まぁ、一週間切ったからな。
自分のところで手ぇいっぱい。
他のところにちょっかいをかける余裕もねぇわな。
中には、つくったもんを交換して意見を聞き合ってるところもある。
こういった下準備は、どこもβがメインで動く。
αのようなマウントの取り合いも、教室ほどない。

扉が開いた音に反応してこっちを見た生徒も、俺しか居ないとわかると会釈だけで終わる。

去年、なら。
いもしねぇのに、自分の右側に自然と目が行っていた。
監視役も兼ねてる庶務の巡回を、「情報先取り出来てお得やなぁ」と楽しんでいた三枝。
ファイルを手に、「当日はどこを回ろうかなぁ」と呑気なもんだった。
調理室に顔を出した時は、話に巻き込まれて作ってるやつらのアドバイスまでしてたっけ。

去年のことを思い出し。

体育祭で、俺が好きだとさらりと嘘をついたあのときの三枝の姿まで思い出し。

ゆらり、と。
怒りのフェロモンが溢れそうになったんで慌てて廊下に出た。
思い出しただけなのに、鳥肌が立つほど許せねぇ感情に振り回されるのは、それだけ三枝に俺が気を許していたからなのだともう自覚している。
ざらつく腕を摩りながら、深呼吸。
体育祭のときのように、怒りに任せたフェロモンの暴走も流石にしねぇ。

だが、あんなヤツに未だに振り回されてる苛立ちは完全には収まらない。
去年の学園祭で、三枝から受け取ったチョコレートを求愛給餌特化型の俺が食べてもアイツは変異種Ωにならなかった。
俺から食べ物を事前に受け取りその後に返すという、求愛給餌特化型が相手を変異種Ωに変えてしまう条件が揃ったのにΩにならなかった事実。
それは、一欠片も三枝が俺に好意が無いってことだ。

けど、そのときには同じ群れの一員だったしな。
無視するわけにもいかねぇし、俺が割り切って、適当に優しくして、表面上合わせていればいいんだと思い込もうとしていたのに。

群れの外からちょっかいをかけてきた桂木とは手作りケーキを食い、菓子もわざわざ別で用意して渡す周到さ。
好きでもない俺にも、笑顔で欺き菓子を寄越し、あんな嘘で惑わしてくる狡猾さ。

αを手玉に取る性根の悪さに反吐が出そうだ。

もし、チョコレートをあのとき食べていなければ、全然気付かずあの外面に騙され続け、良いように利用されてたんだと思うと、尚更苛つく。
βなんかと、関わるんじゃなかった。
くそっと舌打ちし、前髪をかきあげながら階段を降りかけたら、前方から養護教諭の田栗が上がってくるところだった。
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