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27 学園祭準備
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「菊川先輩と桜宮先輩にとって、去年の学園祭はとても辛い事件があり良い思い出とは言えません。
特に、私達Ωの立場で番を解除されることは、未遂であっても心に深い傷を残し、暗澹たる思いをするのは避けられません。
重要な会議であることは、私も理解しています。
けれど、今のように無意識に考え込んでしまうこと、バース性の違い全てをご理解頂くことは出来なくても許していただけませんか?」
切々と語る田栗。
松野は真摯な田栗に態度を軟化、いや、むしろ「考えが及ばず悪かったな」と謝られてしまう。
田栗の口を通すと、まるで俺は思い悩む儚いΩのようだ。
確かに、番解除の危機は深い傷として残り引きずってはいるが、印象が随分違って聞こえる。
あれは、自分の脇の甘さが招いた結果だ。
あの事件を機に、自分がどれ程ヤマのことが好きか自覚も出来た。
負の面でばかり囚われている訳じゃない。
田栗の隣の海や、その隣の空にまで「「副生徒会チョー、辛かったよね」」と憐憫の眼差しを向けられ居心地が悪い。
竹居も、仕方ないなと肩を竦めるだけ。
俺は、そこまで弱いΩじゃないからな。
庇ってくれた田栗には悪いんだが、生徒会室のこのしんみりした空気をどうしたものかと戸惑ってしまう。
田栗の言葉を聞いたヤマは、俺の足元まで慌てて走ってくるとその場で両膝を折った。
驚いている間に、俺の両手はペンごと一回り大きいヤマの手に包み込まれていた。
「ご、ごめんっ、カナッ
俺、そこまで考えられてなくて。
そうだよな、辛いこと、思い出させてしまうよな」
「え、あ、いや・・・」
どうしよう。
対策を練ることに夢中になり、聞いていなかっただけだと言いづらくなってしまったぞ。
ヤマに手を取られた際、ヒラリと机から落ちた資料を松野が拾う。
そこに書いていた俺の案が、だめ押しになってしまった。
「桜宮、盗み見てしまい申し訳ないんだが・・・風紀委員の広報、これは他のΩへ牽制になる良い案だな。
俺としても、群れのリーダーである菊川に安易に手を出されるのは看過できない」
「・・・そ、そう言って貰えて良かった」
このあと、中等部の参加や新聞の特集記事についても求められるままに説明。
どちらも検討案件として、学園祭用に書き込まれた進行ボードに追加された。
普段は壁際に置かれている透明のボードは、既に半分が埋まっている。
松野が余白部分に追加している間に全体を眺めたら、どうやら俺が話し掛けられたのは当日の役割分担の確認だったことが予想できた。
『野外ステージ担当 竹居、海、空』の真下、『巡回担当』の欄に書かれたヤマの隣が空白で止まっていたんだ。
特に、私達Ωの立場で番を解除されることは、未遂であっても心に深い傷を残し、暗澹たる思いをするのは避けられません。
重要な会議であることは、私も理解しています。
けれど、今のように無意識に考え込んでしまうこと、バース性の違い全てをご理解頂くことは出来なくても許していただけませんか?」
切々と語る田栗。
松野は真摯な田栗に態度を軟化、いや、むしろ「考えが及ばず悪かったな」と謝られてしまう。
田栗の口を通すと、まるで俺は思い悩む儚いΩのようだ。
確かに、番解除の危機は深い傷として残り引きずってはいるが、印象が随分違って聞こえる。
あれは、自分の脇の甘さが招いた結果だ。
あの事件を機に、自分がどれ程ヤマのことが好きか自覚も出来た。
負の面でばかり囚われている訳じゃない。
田栗の隣の海や、その隣の空にまで「「副生徒会チョー、辛かったよね」」と憐憫の眼差しを向けられ居心地が悪い。
竹居も、仕方ないなと肩を竦めるだけ。
俺は、そこまで弱いΩじゃないからな。
庇ってくれた田栗には悪いんだが、生徒会室のこのしんみりした空気をどうしたものかと戸惑ってしまう。
田栗の言葉を聞いたヤマは、俺の足元まで慌てて走ってくるとその場で両膝を折った。
驚いている間に、俺の両手はペンごと一回り大きいヤマの手に包み込まれていた。
「ご、ごめんっ、カナッ
俺、そこまで考えられてなくて。
そうだよな、辛いこと、思い出させてしまうよな」
「え、あ、いや・・・」
どうしよう。
対策を練ることに夢中になり、聞いていなかっただけだと言いづらくなってしまったぞ。
ヤマに手を取られた際、ヒラリと机から落ちた資料を松野が拾う。
そこに書いていた俺の案が、だめ押しになってしまった。
「桜宮、盗み見てしまい申し訳ないんだが・・・風紀委員の広報、これは他のΩへ牽制になる良い案だな。
俺としても、群れのリーダーである菊川に安易に手を出されるのは看過できない」
「・・・そ、そう言って貰えて良かった」
このあと、中等部の参加や新聞の特集記事についても求められるままに説明。
どちらも検討案件として、学園祭用に書き込まれた進行ボードに追加された。
普段は壁際に置かれている透明のボードは、既に半分が埋まっている。
松野が余白部分に追加している間に全体を眺めたら、どうやら俺が話し掛けられたのは当日の役割分担の確認だったことが予想できた。
『野外ステージ担当 竹居、海、空』の真下、『巡回担当』の欄に書かれたヤマの隣が空白で止まっていたんだ。
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