上 下
651 / 911
27 学園祭準備

11

しおりを挟む
「菊川先輩と桜宮先輩にとって、去年の学園祭はとても辛い事件があり良い思い出とは言えません。
特に、私達Ωの立場で番を解除されることは、未遂であっても心に深い傷を残し、暗澹たる思いをするのは避けられません。
重要な会議であることは、私も理解しています。
けれど、今のように無意識に考え込んでしまうこと、バース性の違い全てをご理解頂くことは出来なくても許していただけませんか?」


切々と語る田栗。
松野は真摯な田栗に態度を軟化、いや、むしろ「考えが及ばず悪かったな」と謝られてしまう。
田栗の口を通すと、まるで俺は思い悩む儚いΩのようだ。

確かに、番解除の危機は深い傷として残り引きずってはいるが、印象が随分違って聞こえる。
あれは、自分の脇の甘さが招いた結果だ。
あの事件を機に、自分がどれ程ヤマのことが好きか自覚も出来た。
負の面でばかり囚われている訳じゃない。

田栗の隣の海や、その隣の空にまで「「副生徒会チョー、辛かったよね」」と憐憫の眼差しを向けられ居心地が悪い。
竹居も、仕方ないなと肩を竦めるだけ。
俺は、そこまで弱いΩじゃないからな。
庇ってくれた田栗には悪いんだが、生徒会室のこのしんみりした空気をどうしたものかと戸惑ってしまう。

田栗の言葉を聞いたヤマは、俺の足元まで慌てて走ってくるとその場で両膝を折った。
驚いている間に、俺の両手はペンごと一回り大きいヤマの手に包み込まれていた。


「ご、ごめんっ、カナッ
俺、そこまで考えられてなくて。
そうだよな、辛いこと、思い出させてしまうよな」

「え、あ、いや・・・」


どうしよう。
対策を練ることに夢中になり、聞いていなかっただけだと言いづらくなってしまったぞ。
ヤマに手を取られた際、ヒラリと机から落ちた資料を松野が拾う。
そこに書いていた俺の案が、だめ押しになってしまった。


「桜宮、盗み見てしまい申し訳ないんだが・・・風紀委員の広報、これは他のΩへ牽制になる良い案だな。
俺としても、群れのリーダーである菊川に安易に手を出されるのは看過できない」

「・・・そ、そう言って貰えて良かった」


このあと、中等部の参加や新聞の特集記事についても求められるままに説明。
どちらも検討案件として、学園祭用に書き込まれた進行ボードに追加された。
普段は壁際に置かれている透明のボードは、既に半分が埋まっている。

松野が余白部分に追加している間に全体を眺めたら、どうやら俺が話し掛けられたのは当日の役割分担の確認だったことが予想できた。
『野外ステージ担当 竹居、海、空』の真下、『巡回担当』の欄に書かれたヤマの隣が空白で止まっていたんだ。
しおりを挟む
感想 961

あなたにおすすめの小説

堕とされた悪役令息

SEKISUI
BL
 転生したら恋い焦がれたあの人がいるゲームの世界だった  王子ルートのシナリオを成立させてあの人を確実手に入れる  それまであの人との関係を楽しむ主人公  

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版)

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

嘘の日の言葉を信じてはいけない

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
嘘の日--それは一年に一度だけユイさんに会える日。ユイさんは毎年僕を選んでくれるけど、毎回首筋を噛んでもらえずに施設に返される。それでも去り際に彼が「来年も選ぶから」と言ってくれるからその言葉を信じてまた一年待ち続ける。待ったところで選ばれる保証はどこにもない。オメガは相手を選べない。アルファに選んでもらうしかない。今年もモニター越しにユイさんの姿を見つけ、選んで欲しい気持ちでアピールをするけれど……。

完結・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら、激甘ボイスのイケメン王に味見されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

僕の番

結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが―― ※他サイトにも掲載

欠陥αは運命を追う

豆ちよこ
BL
「宗次さんから番の匂いがします」 従兄弟の番からそう言われたアルファの宝条宗次は、全く心当たりの無いその言葉に微かな期待を抱く。忘れ去られた記憶の中に、自分の求める運命の人がいるかもしれないーー。 けれどその匂いは日に日に薄れていく。早く探し出さないと二度と会えなくなってしまう。匂いが消える時…それは、番の命が尽きる時。 ※自己解釈・自己設定有り ※R指定はほぼ無し ※アルファ(攻め)視点

上手に啼いて

紺色橙
BL
■聡は10歳の初めての発情期の際、大輝に噛まれ番となった。それ以来関係を継続しているが、愛ではなく都合と情で続いている現状はそろそろ終わりが見えていた。 ■注意*独自オメガバース設定。■『それは愛か本能か』と同じ世界設定です。関係は一切なし。

処理中です...