ヘタレαにつかまりまして ２

25 体育祭

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スタッフは、この騒動について高等部の教師に連絡していたようだ。
笹部があのまま暴れたら、大事になっていただろうからな。


「おい、大丈夫か？」


程なく、田栗養護教諭が走って食堂に入ってきた。
離れた保健室から、全力疾走で駆け付けて来たんだろう。
肩で息をし、手にはスリッパ。
どうやら靴下で冷たい廊下を走ってきたらしい。

生徒からも、高等部におけるフェロモントラブル責任者と黙認されている田栗養護教諭。
α性の教師の中では一番強い、らしい。
Ωの俺には、α同士の格付けを日頃の態度から読み解くことしか出来ないからな。
実際のところは、萩野から聞いただけだ。

無精髭に、シワだらけの白衣は相変わらず。
あのΩには見えない微笑みの貴公子田栗と、番になり入籍してもスタイルを変えるつもりは無いようだ。
だが、大抵保健室に籠っているか、スリッパを引っ掻けてヤル気無さげに廊下を歩いているか、集会で居眠りをしているかの田栗養護教諭にしては、走っての登場は珍しい。
焦った顔も、田栗の入学式以来だな。

三枝は、扉が開いた音に反応して顔をあげたが、その目は赤く充血し、涙で濡れた頬も赤く染まっていた。
田栗養護教諭の顔を見ると、安心したのかまたぽろぽろ大粒の涙を流してしゃくりあげる。


「せ、せん、せぇ・・・」

「三枝と、桜宮か。
生徒がフェロモン撒き散らしたって聞いて来たんだが、当事者はどっかに消えたのか？
あ、すんません、迷惑かけて」


この場は収束していると見なした田栗養護教諭は、一先ずカウンター越しに食堂のスタッフへ謝り、その場から三枝に歩けるか尋ねる。
尋ねながら、スリッパを床に落として、いつも通り足に引っ掻けている。
三枝は、フルフルと首を横に振って「無理」と短く答えた。
笹部のフェロモンが直撃した後遺症だな。


「三枝は保健室まで背負ってやるから、桜宮も手を貸せ。
事情は向こうに着いてから聞いてやる」


確かにここで話すにはスタッフもいるし、試合も応援も午後からの生徒が昼休みよりも早く集まってくる可能性が高い。
三枝が、田栗養護教諭の背中に上手く掴まれるよう肩を貸し、三人で保健室まで移動した。