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25 体育祭

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まぁ、今の流れなら、βの友達感覚のそれだと流されるだけだろうしな。
三枝が自覚して挙動不審になる前に、撤収した方が良いな。


「三枝、そろそろもど・・・」

「・・・お前が、俺を好き?」


このとき、笹部が繰り返えした言葉は。
三枝が無意識に気持ちを告げたのと同じ内容なのに、あまりに寒々と冷え、感情が籠っていなかった。
笹部の瞳は、声音と同じく冷たい。
優しさの欠片もなく、微笑む三枝を映す。
同じ群れの人間に向けるものじゃない。

さっきまで、俺と軽口をたたいていた笹部とは別人だ。
好きだと言われたことに明確な拒絶で返し、馬鹿にするなと三枝を蔑んでいるのが伝わってくる。
一転した空気に、ピリピリ肌が痛む。

何が笹部の気に障ったのか検討もつかないが、ヤバイ。
笹部は、本気で三枝を相手にしようとしている。
しかも、潰すつもりで。
まるで、α同士の決闘のように。

三枝は、笹部の変化よりも自分が失言していたことに頭がいっぱい。
「すっ・・・?!」と一音目で言葉を切り、笹部の前で瞬時に真っ赤に顔を染めた。


「あ、あの、その・・・」

「嘘つくんじゃねぇよ」


言い訳も許さず淡々と言葉を紡ぐ笹部。
三枝は、やっと目の前の変わってしまった笹部を認知したようだ。
自分を敵と見なした強面αを前に、ヒュッと息を飲んだ。
オレンジジュースが入ったままの紙コップが床に落ちて、上履きを濡らし、足元にオレンジ色の水溜まりが広がるが動けない。

笹部が三枝の気持ちを否定した言葉に、一切の迷いはない。
嘘と決めてかかっているんじゃない。
まるで、自分の中に揺るぎない根拠があるかのように断言し、これに関わる反論は認めないと三枝に迫っていた。

その迫力と怒気に、当事者じゃない俺さえ身がすくむ。


「う、嘘やないもんっっ」


それでも、三枝は声を振り絞った。
自分の気持ちを否定され、クシャリと顔を歪ませながら。
なんで、そんなことを言われるんだと、理不尽な笹部を睨み返す。


「俺に嘘は通用しねーよ。
一体俺を惑わしてどうしたいんだ。
β風情が」


笹部の身体からフェロモンが溢れてくる。
それは、今まで限界を越えて閉じ込めていた感情の蓋が弾けとんだように、俺達目掛けて一気に襲い掛かり、食堂をあっという間に飲みこんでいく。
その勢いの荒々しさとは真逆の、一瞬で周囲を凍てつかせるようなフェロモンに、Ωの俺達は抵抗なんて出来ない。

厨房で物が落下し、散乱する音が響く。
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