上 下
609 / 911
25 体育祭

18

しおりを挟む
武道館は、既に第三試合が始まり騒がしくなっていたので廊下に出るぞと離れている笹部にジェスチャー。
笹部は、同じクラスの生徒に話をつけてから出てくるようだ。
先に、武道館内は上履きを脱いでいたので履き替えて扉前で待つ。


「なぁ、かなちゃん・・・笹部君、どんな感じやった?
ちゃんと来てくれるかなぁ」


不安で仕方ないと、三枝はおどおど視線をさ迷わせている。
ここで、怒らせているのは三枝の勘違いのようだぞと言ったところで納得も安心もしないだろうしな。
どう言えば、三枝の不安を少しでも取り除けるんだろうか。
言葉に迷っていたら、三枝の表情がますます暗くなったので「大丈夫だ」と肩を軽く叩いてみた。

笹部が出てきたのは、それから数分後。
ペタペタ上履きの踵を踏みつけ、のろのろとやって来る。
ひどく億劫な態度は、三枝への言葉がまだ決まってないからだろう。
だが、それを見た三枝には、嫌々来ているとしか見えないだろうがッ


「食堂にでも行くか?」


わざと三枝の正面に立ち、笹部の姿を隠して話し掛ける。
三枝は、本人を前に緊張がピークに達したようだ。
強張った表情で頷いた。

ちらりと笹部を振り返ると、向こうは向こうで考え込んだままの無反応。
3人で食堂に向かう道中も、どんよりとした雰囲気で息苦しい。
中等部は授業中らしく、廊下を行き来するのは応援や掛け持ちのために移動する高等部の生徒だけだ。
同じ無言でも、体育祭で興奮している生徒のそれとは大違い。

食堂には、持て余した時間を潰しに来ている生徒もいたが、俺達が入っていくとそそくさと席を立って出ていってしまった。
ランチの準備をしているスタッフはいるが、ここなら邪魔もされないし、多少Ωの俺がαの笹部に怒鳴っても騒ぎにはならないだろう・・・まぁ、怒鳴るようなことにならないのが一番なんだが。


「なんか、飲みもん買ってやるよ」


壁際の自販機前で笹部がコインを投入。
さぁ、選べと言われたので氷無しのストレートティーのボタンを遠慮なく押した。
カコンと乾いた音がして、出てきた紙コップに注がれるのを待つ。
試合後でちょうど喉が乾いていたしな。

ピーピーと完了を知らせる電子音が響き、笹部から紙コップを受け取った。
「ありがとう」と告げ、自販機前の笹部に近寄れないでいる三枝に、何が良いのか尋ねようとしたんだが。
それより先に笹部がボタンを押し、出てきた氷無しのオレンジジュースを三枝に向かって突き出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

平凡でモブな僕が鬼将軍の番になるまで

月影美空
BL
平凡で人より出来が悪い僕、アリアは病弱で薬代や治療費がかかるため 奴隷商に売られてしまった。奴隷商の檻の中で衰弱していた時御伽噺の中だけだと思っていた、 伝説の存在『精霊』を見ることができるようになる。 精霊の助けを借りて何とか脱出できたアリアは森でスローライフを送り始める。 のはずが、気が付いたら「ガーザスリアン帝国」の鬼将軍と恐れられている ルーカス・リアンティスの番になっていた話。

生まれ変わりは嫌われ者

青ムギ
BL
無数の矢が俺の体に突き刺さる。 「ケイラ…っ!!」 王子(グレン)の悲痛な声に胸が痛む。口から大量の血が噴きその場に倒れ込む。意識が朦朧とする中、王子に最後の別れを告げる。 「グレン……。愛してる。」 「あぁ。俺も愛してるケイラ。」 壊れ物を大切に包み込むような動作のキス。 ━━━━━━━━━━━━━━━ あの時のグレン王子はとても優しく、名前を持たなかった俺にかっこいい名前をつけてくれた。いっぱい話しをしてくれた。一緒に寝たりもした。 なのにー、 運命というのは時に残酷なものだ。 俺は王子を……グレンを愛しているのに、貴方は俺を嫌い他の人を見ている。 一途に慕い続けてきたこの気持ちは諦めきれない。 ★表紙のイラストは、Picrew様の[見上げる男子]ぐんま様からお借りしました。ありがとうございます!

【完結】人生2回目の少女は、年上騎士団長から逃げられない

櫻野くるみ
恋愛
伯爵家の長女、エミリアは前世の記憶を持つ転生者だった。  手のかからない赤ちゃんとして可愛がられたが、前世の記憶を活かし類稀なる才能を見せ、まわりを驚かせていた。 大人びた子供だと思われていた5歳の時、18歳の騎士ダニエルと出会う。 成り行きで、父の死を悔やんでいる彼を慰めてみたら、うっかり気に入られてしまったようで? 歳の差13歳、未来の騎士団長候補は執着と溺愛が凄かった! 出世するたびにアプローチを繰り返す一途なダニエルと、年齢差を理由に断り続けながらも離れられないエミリア。 騎士団副団長になり、団長までもう少しのところで訪れる愛の試練。乗り越えたダニエルは、いよいよエミリアと結ばれる? 5歳で出会ってからエミリアが年頃になり、逃げられないまま騎士団長のお嫁さんになるお話。 ハッピーエンドです。 完結しています。 小説家になろう様にも投稿していて、そちらでは少し修正しています。

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

異世界日帰りごはん【料理で王国の胃袋を掴みます!】

ちっき
ファンタジー
異世界に行った所で政治改革やら出来るわけでもなくチートも俺TUEEEE!も無く暇な時に異世界ぷらぷら遊びに行く日常にちょっとだけ楽しみが増える程度のスパイスを振りかけて。そんな気分でおでかけしてるのに王国でドタパタと、スパイスってそれ何万スコヴィルですか!

強制結婚させられた相手がすきすぎる

よる
BL
※妊娠表現、性行為の描写を含みます。

記憶を無くした少女は世界を破滅へと導くーCoffin of Dollー

イトカワジンカイ
ファンタジー
この世界には人間の血肉を勝てとして生きるイシューという化け物が存在する。あるものは獣の形をしており、あるものは人間に近い体を持つ。それに共通するのは漆黒の翼と赤い瞳。 そしてその化け物は人間の武器では決して倒すことが出来ない人類の驚異だった。 イシューによる一方的な搾取される人間を哀れんだ女神ラーダは自分の身を裂き、人にイシューと戦う力を与えた。 大国がイシューによって滅ぶ中、その女神ラーダの力を用いて唯一反映を極める国があった。それがアストラーン国。 女神ラーダに守られし、人類のただ1つの希望の国。だがその繁栄は長年のイシューの戦いと疲弊した女神の籠によって、綻び始めていた。 国存亡の危機に際し、代々女神の力が強力な神官長を務めるヘルヴォール家の娘・クリスティナ―は女神の力の強化を目的に王家へ政略結婚をすることになった。 王妃としての適性を見るために城への2週間の滞在を余儀なくされたクリスだったが、その婚姻には権力者達の陰謀が渦巻いていた!! そんななか戸惑うクリスに夢の中で見知らぬ少年と少女が語りかける。  「君の選択がすべてを決めるから…。甘い夢を望む…?それとも全き真実を望む…?」 真実を望んだ先、300年の時を経て、世界の破滅が待っていることも知らずに。

寵愛を受けた"元"公爵令嬢は、帝国で本当の幸せを掴む

天音 翔
恋愛
(旧題:寵愛を受けた“元”公爵令嬢) 貴族の中で一番位の高い公爵家に生を受けた ソフィア・アメリア・リリアン。 ソフィアは父にも母にも似ていない髪と瞳のせいで差別を受けていた。 家族だけではなく、この国全体から。 ただ、母は愛してくれた.........。 だが、唯一愛してくれた母は突然亡くなり、悲しむこともなくそれを喜んだ父は堂々とメイドと再婚。 しかも、ソフィアより年上の2人の兄姉、年下の妹を連れて.........。 国外留学という形で行った差別のない国でソフィアの人生をも変える人々に出会うことに。 だが、ソフィアはその時の大切な記憶を失ってしまう。 残っているのは、あの男の子に貰った大切なピアス......。 ソフィアの『大切な宝物』だけ。 留学が終わり、公爵家に戻ると12歳になるまでメイドや執事・血の繋がらない家族からの暴言・暴力を受ける。 ある日突然4年位会っていなかった父に呼び出され“事件”は起こる。 事件のあと、やはり唯一残ったのは あの男の子から貰った 『彼の瞳の色のピアス』だけ。 その頃、ソフィアのことを迎えに デーヴィド帝国の皇帝・皇妃・皇太子たちが向かって来ていた。 なぜならソフィアは“神・精霊・妖精の寵愛を受けた姫” であり“帝国の国民に愛された姫”でもあるから。 ライラット王国はこの時、もうすでに破滅への歩みを自ら進めていた。 傷ついたソフィアを見た『彼ら』の反応は!? まさかの主神がソフィアの本当の父親!? 神界で起きた事件の今まで明かされなかったまさかの真実......。 いったいソフィアたちはどうなっていくのか?

処理中です...