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24 体育祭 side 陸

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去年の入学式。
あくびを噛み殺しながら講堂に入り、受付で渡された座席番号を手に階段を登る。
まだ開始時間まで10分もあるってぇのに、空席は殆どねぇ。
皆、ご苦労なこった。

自分のクラスが横一列に座る端にたどり着けば、自席に行くまでの空席はひとつだけしかねぇ。
菊川の席だな。
首席で挨拶でもするんだろう。
講堂を見渡すと、壁際に座っている姿が見えた。
アイツも眠そうだな。

その間に、俺が通路の端に立っただけで座っていた生徒は次々立ち上がり、歩くスペースが確保されていた。

まぁ、例外もあるが。


「今年もかなちゃんと一緒か」


進んでいく内に、ひとつ頭が沈んでいる席があった。
親のフェロモンに包まれた箱入り息子の桜宮 奏。
他は俺が通過するまで直立不動だってぇのに、立ち上がらずに足をずらしてさっさと通りすぎろと睨んでくる。


「不本意だが・・・」

「え、かなちゃんって呼ばれてんの?」


いつものように、キャンキャン言い返してくるかと思ったが、手前のβにその言葉は遮られた。
見慣れない顔だな。
編入組か?

ドカッと席に座ると、かなちゃんが珍しく戸惑った顔で相手を続けていた。


「なぁ、なぁ、俺もかなちゃんって呼んでえぇ?
奏ちゃんで、かなちゃんなんて可愛い呼び名やなぁ」

「は?!
な、なんで、お前にまで・・・」

「俺やとわたちゃん・・・めっちゃ変やんっ
な、かなちゃんっ」

「いや、あの、な?」

「あ、あんな、あんな、俺な、三枝 渡。
高等部から編入してきてん。
よろしくっ
えっと、君は何君なん?」


身体を乗り出して、俺にまで馴れ馴れしく話し掛けてくる。
茅野学園には名札が存在しない。
中等部からの持ち上がりが多いし、名前をイチイチ覚える気もねぇ俺には不便もねぇが。
コイツ、三枝のような編入組はイチイチ聞いて回る必要が出てくる。

このときの三枝は、前の中学と同じノリで相手をイチイチ気にせず手っ取り早く周りから名前を聞いていただけなんだろう。


「はぁ?」


俺は、眠いのと面倒なのとで不機嫌な声が自然と出た。
かなちゃんからは睨まれ、周りのβがざわつくくらいには態度が悪かったはずなんだが。
三枝は、ニコニコ笑って俺の目を真っ直ぐ見返してくる。
物怖じもねぇ、俺が自分に危害を加えるとも思ってねぇ。
油断しきった緩い笑顔。

わざわざ俺の方を向いて、答えを待っている。
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