ヘタレαにつかまりまして ２

16 社宅

25

三枝が、廊下の突き当たりにあった部屋の扉を開けると、クーラーの涼しい風に乗って三枝の母親の明るい声が早速流れてくる。

「あぁぁぁ、よう、似合うわぁ。
おんなじシリーズもんで、わんこもにゃんこも可愛かったしつい買ってしもたんやけど。
なかなか使い道無くて、眠ったままやってん。
今日のために、うちは買ってたんやわ！」


部屋に入った俺と樟葉に、待ち構えていた三枝の母親がパチパチ手を叩いて近付いてくる。
土産の入った紙袋は、壁際に置かれていた。
歩いてくる足元は、三枝と同じウサギだった。


「よりちゃん、先ずは座って貰ったらどうかなぁ。
渡、椅子が足りなかったから、部屋の椅子を借りたよ」


その後方には、四人掛の木目調のダイニングテーブルと椅子があり、眼鏡を掛けた人の良さそうな男性が一人だけ他と違うキャスターのついた椅子に座っていた。
三枝の母親と同じくらいふっくらした体型だ。
この感じからすると、三枝の父親だよな？
今じゃないと、挨拶を言う隙間がなさそうだ！
この切れ目に割り込まないと！


「はじめまして。
桜宮　奏と申します。
渡さんには・・・」

「えぇよ、えぇよ、そんな堅苦しいっ
みち君、こちらがかなちゃんで、こちらがみこちゃん。
渡の話していた通りで二人とも可愛ぃやろ？
うちは、三枝　頼子、よりちゃんね。
あっちに座ってるのが道成(みちなり)で、みち君。
外、暑かったやろ？
麦茶でえぇんかなぁ？」


勢いに圧倒され、頷く。
隣で樟葉も頷き、三枝は「人数分用意してくるわ」と離れていく。
う、挨拶も最後まで出来ない・・・
このままで、三枝のことを話す機会は訪れるのか？