可愛いΩのナカセカタ

三日月

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 うわぁぁ・・・

 部屋に充満していた、αとしての強さと優位性を誇る俺のフェロモンが、あっという間に由良の求愛フェロモンに塗り替えられていく。由良を中心に、台風のように回転しながら拡大する強さと速さに圧倒されて抵抗も出来ない。由良の求愛フェロモンが、俺のフェロモンを凌駕するなんて・・・
 いや、これは塗り替える、じゃないな。二人の周りのフェロモンの変化を注意深く観察し、自分のフェロモンを強めてみてわかった。二つのフェロモンが、混ざり溶け合っていっている・・・俺のフェロモンだけを強化して由良の求愛フェロモンを押し出そうとしたが、混ざったフェロモンが強化されてしまった。

 こんなこと、あり得るのか?目の当たりにしていても、理解できずに俺は言葉を失った。

 αのフェロモンを操作する力は、生まれもった資質が関係している。ただ強さを周囲に誇示するだけのフェロモンしか出せないαもいれば、標的を絞り自分が示したい相手に容赦なくぶつけることが出来るαもいる。それは、教えられれば誰もが出来る訳じゃない。
 ただ、いくら操作に長けたαでも、こんなことは出来ない。相手のフェロモンを自分のフェロモンで押し出し、掻き消す力はあっても、だ。相手のフェロモンを勝手に変える力を身に付けたなんて話は聞いたことがない。
 そんなことが出来れば・・・相手のαの、αとしての存在価値を全て否定することだって出来てしまえる危険な力にだってなり得る。

 けど、この由良のやり方はそんな悪意がひと欠片も混じっていない。由良の力を委ねられ上乗せしたような・・・αとしての強さじゃない何かが加えられ、俺のフェロモンが妙に落ち着いてしまった。
 
 俺自身が書き換えられるような気恥ずかしさに、思考が固まり、由良の言葉も直ぐには頭に入ってこなかった・・・由良が告げた「好き」の言葉は、ただの言葉じゃない。フェロモンにも影響を及ぼして、俺自身の存在も変えられるような力があるのか。


「疾風が、好き。
 好きだ、疾風」


 何度も泣きながら、口にする由良。感情も顔もグチャグチャになってるくせに止めようとはしない。俺に伝えたいと。何度も何度も、言葉を、気持ちを重ねて、繋げて、俺に捧げてくる。
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