可愛いΩのナカセカタ

249 α

｢は、やて？｣


　考え事をしていたせいで、思ったより由良を待たせたらしい。目を閉じた由良の顔を黙って眺めていたのが長すぎたか。焦れた由良が、戸惑いながらうっすらと目を開ける。
　瞼の隙間から覗く、期待に潤んだ瞳からは今にも涙が零れそうだ。あぁ、本当に由良はどこもかしこも旨そうで困るな。目を離した隙に、他のαをこれ以上引っ掻けてくるなよ？

　由良には仕置きと言ったが、薬が飲み込めない由良を手伝う意味で始めたことだ・・・由良がこんなに飲みたがってるなら、自分からもっとねだるくらいやれるよな？


｢由良、チュウしながら薬飲みたいです、って言って？｣


　ニヤニヤ嗤いながら求めたら、由良の顔が一気に湯だった。ハハッ、顔や首だけじゃない。病院支給の寝巻きから覗く鎖骨も腕も赤いじゃないか。入院してから、ずっと俺が近くに居るからだろうか。求愛フェロモンは、俺の周りをふわふわ漂う霞のような儚いものだったのに、蜘蛛の糸のように俺の身体を縛りに来る。
　求愛フェロモンが、本体の怪我に遠慮せず、俺が欲しいと絡み付いてくる様子に誘われ、危うく俺まで発情しそうになる。濡れたような、煌めく糸を握りながらもう少し俺もお前もお預けだと心の中で苦笑い。
　もう、由良を泣かせてまで他のΩを抱く気なんてないからな。

　なぁ、由良。こっちは、由良が望むから石を砕くのも諦めて、身体が癒えるのを待ってるんだぞ？ちょっとずつ、台詞のハードルをあげる憂さ晴らしくらいは付き合って貰おうか？
　こっちが譲歩してるのに、由良は恥ずかしがって抵抗しようとする。


｢ばっ、バカっ
自分をいくつだと思ってるんだっ｣