可愛いΩのナカセカタ

三日月

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 右手に収まっているスマホは、軋んだ音を立てるだけでそれ以外の全く反応を示さない。黒一色の画面を眺め、待つことしかできない自分の非力さが情けない。
 由良が、俺に何も言わず姿を眩ませるわけがない。これだけの時間所在が掴めないのは、異常事態。力加減を誤り、スマホを握り潰しそうなくらい動揺している一方で、由良に何か起こったと、最悪の覚悟を迫る冷静なもう一人の俺がいる。

 仕事も順調、群れを持つことも許され、正直一人前になったつもりでいたからな。ここに来て、何も出来ないこの状況は思った以上に精神を抉られる。身の丈を知らなかった自分に、萩野の血は冷静であれと迫るが、無理だ。


「直接呼んでないよね、俺?」


 玄関からノックもせずに現れた侵入者に目を細め笑って見せる。この余裕のないときに、何しに来た。


「落ち着け、ぼっちゃん」


 アングラ支配人、萩野 律郎(はぎの りつろう)が、両手を上げて宥めてくる。この男にしては珍しく黒のつなぎ、萩野の仕事着姿。白髪混じりの髪を後ろに撫で付け、いつも笑顔を絶やさない銀色の狐目は俺と同じ。この男が俺の元に派遣されてきたのなら・・・


「引退したりっちゃんが出るってことは、アングラ顧客なんだな」
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