例えβに生まれても

三日月

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36 計略の王子様

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「清人、お前も今のでわかったろ?
ハルちゃんが危険な状況に陥っても、止められてねぇ。
微塵も正常な判断が出来ねぇくらい、浮かれてるってことがな。
今のお前の役割は、椅子だ、椅子。
動くな、口を出すな。
良いな?」

「・・・」


言葉遣いは荒かったけれど、陽太様の声は、さっきまであんなに怒っていたのとは別人みたいに優しかった。
清人様に、一言一言言い含めるように穏やかに語り掛けられてるみたい。
清人様は、納得・・・は、してないのかな?
俺を膝の上に乗せたあとは、ギュッとお腹に回った腕に力を込め、うなじに唇をふわりと寄せながら溜め息で応えてられていた。
うぅ、くすぐったいよ、清人様。
気を紛らわせるためにも、正面に座られた陽太様と目を合わせて・・・ヒヤッとしたよ!
声はあんなに優しく聞こえたのに、目が、目があっ
怒りを滞留して爆発寸前の飛鳥様並に怖いっ
まるで、「これでわからなかったら強硬手段に出るぞ」って迫ってるみたいだよ!
俺と目があった途端、ニッコリ微笑んでくださいましたが、目の奥は清人様を冷徹に値踏み中。
やっぱり親子なんだなぁって、なんだか納得しちゃったよ。
俺が怖がったのが伝わったみたいで、バツが悪そうに頭を掻きながら「まぁ、なんだな」と、強引に話題を変えられた。


「俺も、焦ってことを進めようとしてたし、当事者のハルちゃんの考えも聞かなきゃな」

「あ、ありがとうございますぅ」


声が震えちゃう。
自分から言うぞって勢いをつけようとしたけど、いざとなると一歩も踏み出せそうになかったからね。
だって、相手は、陽太様と、清人様なんだから。
二人を前にして、俺から話を切り出すタイミングなんてわからなさすぎる。


「あ、あの、俺は、が、学校に行きたいです」


緊張して掠れた声で、つっかえそうになりながらもなんとか言い切れた。
陽太様の口が開いてなにか言いかけられたけれど、すぐにムグッと閉じてくださったよ。
ビクッと清人様の身体も抱っこされてる俺ごと震えたけど、次の言葉を待ってくださっているのが背中越しに伝わってくる。
よし、頑張れ、俺。
皆と卒業したい、卒業したい、卒業したいっ
キッと気合を入れて、お腹から声を絞り出す。


「ら、来年になったら、進学とか就職で町から出ていく子もいて、中学の卒業のときよりもバラバラになるんです。
だから、あの、残りの時間を一緒に過ごしたいし、み、皆で卒業したいんです」


よーし、最後まで言えたぁっ
心の中でガッツポーズ。
中退するのは、陽太様が俺のうなじの噛み跡を心配されて言ってくださったことだけど、なんとか隠して3月まで通いたい。
清人様に隠すのを嫌がられても、説得、は、うん、俺は出来そうにないからね。
陽太様にも手伝っていただいて、なんとかならないかな。


「その、俺がβなのは変わらないし、今の高校を卒業ちゃんとしたいです。
えっと、あの、清人様のことは、その、すすすすす、好きなんですっ
でも、その、けけけけ結婚とか、へ、変異種Ωのふりとか、それはあの、か、考えもついてなかったからびっくりしちゃってて」


耳まで真っ赤になっているのがわかるくらい顔が熱い。
陽太様に告げるのは、清人様本人に言うときとは別の恥ずかしさで思わず目を閉じちゃったよ。
ギュウッと清人様の腕に力を込められ、俺もその腕をギュウッと抱えるようにして胸に引き寄せる。
清人様のこと、好きです。
大好きです。
畏れ多いなとか、思っちゃったりするけど。
今日の清人様の牙を見て、嬉しくて堪らない俺がいて。
清人様のこと、独り占めして、こんなふうにギュウッて俺からもしたいんです。
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