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単話 『千代子とチョコ(バレンタインデー話)』

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 デザートビュッフェににこにこしている千代子が可愛い。
 いつもの千代子だって可愛い。

 つまり全部可愛かった。

 その日の夜。
 明日も休みの二人は一つのベッドの中にいたがお風呂上りの千代子の耳元にはもうピアスは無い。帰って来てからもお風呂に入るまでずっと着けていてくれたその耳の柔らかい所を撫でたり、摘まんだりしている司に千代子は次第にとろんととろけてしまう。

 昼間、チョコレートフォンデュも出来ると知ってにこにこしながら滑らかなチョコレートソースに舌鼓をうっていた千代子だったが今は司の情熱にとろけさせられていた。

 くすぐったいような、不思議な感覚。

 恥ずかしそうに視線をずらしている千代子の首筋からその柔らかい耳たぶにかけての美しいラインを何度も撫でる司。お風呂に入るまでずっとピアスを着けていてくれた事も、あの時店員に申し出てくれた事も本当に嬉しかった。

 きゅうと身を縮ませている千代子の左手を取り、今度はすりすりとお揃いの指輪がある薬指を撫でていれば「つかささん、それ……」とどうやらスキンシップのつもりだった行為がもっと熱を含んだ愛撫に近い物になってしまっているのだと言われてしまう。

 司にとっての千代子は小さくて柔らかいから、いつまでも触れていたくなる。

 ・・・

 考え得る、持ち合わせている全ての優しさを千代子に捧げる司が少し苦しそうにしながら自分の中に入って来るのを感じている千代子は深く息を吐き、どうしてもぎゅうと締め付けてしまうのを緩めようとするが上手く行かない。

「ふ、う……っ」

 それが司には苦しそうに見えてしまったのか額を撫でられて、また耳たぶを少し。

「ひ、あ」

 すっかり気に入ってしまったらしい司に眉を寄せて堪えてもぞわぞわとした小さな感覚はあっという間に全身に伝わって、足の先まで震えてしまう。

 ごく普通に交わるにしても一回り違うような体格、千代子の縋りつくような仕草を受け入れて体を密着させる司は昼から感じていた愛おしさを発散するかのようにそのまま深くまで千代子を愛そうとする。自分の持つ強い衝動は今はもう、千代子の為だけにある。

 傷付けたりしない、ただ愛する為にある。

「ちよちゃん」

 優しく呼んでくれる名前に千代子は司の素肌に立てていた爪の先の力を抜いて、二人だけの秘密の時間を共有する。

 司の持つ墨色と、千代子の素肌の色が重なり、熱を持つ。
 探るように深く愛してくれる司に心も体も甘やかされ、離してくれそうにない重みも心地いい。

 擦り合った唇から不思議と感じる甘さも束の間、深い繋がりは互いの心をしっとりと濡らして……それ以上の事を求めてしまう。

 少し前に出るように体勢を整えた司の肩口の皮膚に唇を寄せる千代子の可愛い悪戯心が最近、上手になってきている気がした。ちゅ、と短くしか吸えなかったのに柔らかな唇はちゅう、といつもよりきつく、赤い痕を残そうとしている。

 いつも司の真似をして試してみてはちゅ、と小さな音が立つだけだったが今日は皮膚を吸われ、鈍い痛みのような刺激を司は感じ取る。千代子は強めに吸えたものの「んんっ」と小さく呻いた後にやっぱり苦しかったのか大きく息をしている。そんな彼女の姿に司の欲が増す。

「ちよちゃん、少し上手になった?」

 ふ、と笑って沸き立つ愛欲を流した司は嬉しそうな、恥ずかしそうな千代子の下腹部の敏感な部分を押し潰すように少し腰を動かし、そのまま喘いでしなぐ背を抱き込んでしまう。

 耳元にある吐息交じりの甘い声を受けながら大切な千代子を抱いていると心が満たされるどころか、気持ちが溢れてしまう。
 それを掬って、宝物のように胸に抱いてくれるのが千代子だった。

 優しくて、甘くて、傍に寄り添ってくれる。

 揺すればくぷ、くぷと音がする。
 ぴたりと寄り添って、その衝動を受け止めている美しい千代子も限界らしく、司は自分の腕を掴んでいた爪の先が立てられるのを感じて体の奥底から溢れ出てしまった熱情を迸らせた。

「や、あ……っ、あ」

 奥歯を噛んだ司と眉を寄せて涙を滲ませた千代子。
 司の次第に脱力していく体をぎゅっと抱き締めて受け止める千代子はいつにも増して司を胸に強く抱く。

 体は熱くて、心臓はどきどきしている。

「汗かいちゃった」

 彼女にとっては何気ない言葉だったのだろうが砕けた言葉づかいになっている千代子に危うくまた欲が膨らみそうになる司は「それなら冷えないようにしないとね」と心の中では少々焦りながら素肌の千代子に掛ける物を、と厚手のバスローブを引き寄せる。
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