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単話『ハロウィーンのその前に』

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 純粋と言うか少し心配性な千代子の目に映っているのは“セックスレス”の文字。仕事と掃除も終わり、お昼ご飯が軽かったので午後のお茶のひと時に、と冷凍しておいたホットケーキを出していつものようにリビングのソファーで楽しんでいた昼下がり。
 テレビをつけるのも、と買ってきてから読んでいなかったファッション誌を捲っていれば飛び込んでくるタイトルに目を丸くさせ……広い部屋には自分一人なのだとなぜか辺りを確認してしまう。

 ごくり、とホットケーキを飲み込む。
 最近の司と千代子は暫く……していなかった。
 もとから頻度は少な目なのかよく分からないが司も忙しく、一緒に暮らしているだけでわりと満足してしまっている自身に千代子は今更ながらに気づいてしまう。

 司は、したいのだろうか。
 自分は……と考えてみると疑問が生じてしまう。
 こうして暮らしているだけで充実してしまっているせいでその先の男女の仲をどうの、と言うのをあまり意識した事が無かった。
 いつも司は優しいし、体の事も気を使ってくれている。

 それで、今月ってしたっけ。

 もう月末が近い。
 あれ?と考えてしまう。
 まだ自分たちは同棲をはじめて一年も経っていない。春に出会って秋を過ぎて、今は肌寒くなってきた秋の終わりごろ。ハロウィーンフェアに華やいでいるデパートやスーパーの棚。千代子も何となく当日やその近辺では南瓜と蕪で美味しい物を作ろうかな、と考えていた。

 雑誌のページを捲れば今度は“マンネリ解消”の文字。
 図星を突かれているようで千代子の唇がぎゅ、となるが以前疲れていた司にマッサージジェルでスキンシップをはかった事はある。その時はその流れで、司に良いようにされてしまったけれどあれはあれで楽しかった――とは言えそれ以上に奇をてらったことなんてできない。

 司もきっと、あまりそう言うのは望んでいないと思う……と千代子は雑誌を閉じてしまう。あのマッサージジェルはまだ残っていて時々、千代子が足のマッサージに使っていた。

 お皿に残っていたホットケーキをフォークに刺そうとして、それで手が止まってしまう。自分は、子供じみているだろうか。
 可愛い物が好き、ホットケーキとか甘い物が好き、司の事は大好き――でも、どうしても自分に自信が持てなくなる時がある。
 完璧な男性としてある司の隣に自分は肩を寄せて立っていてもいいのだろうか。

 もっと、彼にはふさわしいパートナーが。

 それがよくない考えだと分かっていても涙が滲んでしまう。
 残りのホットケーキが食べられない。

 しまっておこう、とキッチンに行ってラップを掛ける。
 冷蔵庫を開けたついでだからもう夕飯の支度をしてしまおうと千代子は何事も無かったかのように、いつものように、司と自分の為に調理を始め――その間に司からメッセージが送られてきた。

 食事会が入ってしまったから遅くなる、先に寝ていて構わないから。

 見慣れてしまったその文。
 この寂しさは我が儘なのだと、自分に言い聞かせてしまう。

 夜が遅いなら、と千代子は出来たおかずから保存容器に詰めてカウンターに置いて冷まし始める。自分の分はプレートに取ったのであとは帰って来た司が好きなように、見繕ってくれたら。

 こう言った急な事に対応する為に炊き過ぎないようにしているごはんもお茶碗に取り分けて自分の分だけ分けておく。
 残りは一食分ずつラップに取り分けて冷凍室へ。

「ふう……」

 考えすぎ、と言い聞かせる。
 本当に自分は心配性で……すぐに落ち込んでしまう。


 そうして風呂も食事も済ませて一人で眠る夜。
 司は多分二次会か何かが長引いているのかまだ帰って来ない。

 いくらお酒に強いからって無理はしないで欲しい、と与えてくれた自分の部屋のベッドに横になって考えるのは司の事ばかり。

 ふと、体がじんわり……ごく淡く疼く。
 意識してしまうと余計に強く、自慰をしたくなるような気分じゃなかった筈なのに、と千代子はごろんと横になっておやつの時間に読んでいた雑誌のページを思い出す。
 自分のこの体に、魅力はあるのだろうか。

「ん……っく」

 胸は?ウエストは?お尻は?
 そして大切な場所は……司は、本当に相手が自分で良いのだろうか。

 夕方に滲んだ涙がまた一つ……こぼれてしまえばあとは自然と流れて枕を濡らしてしまう。くすん、と小さく鼻を啜る千代子。疲れているのか良くない事ばかりを考えてしまう自分の体を抱き締めるように、掛布団を強く抱いて瞼を閉じる。眠ってしまえば朝が来るから、そうすれば目覚めて来た司に「おはようございます」と「いってらっしゃい」が出来る。
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