魔法道具のお店屋さん

森野ゆら

文字の大きさ
上 下
39 / 46
8章

大ピンチ

しおりを挟む
「お、お兄ちゃん、どうして」

 きくけど、うつろな目をしたお兄ちゃんは、返事をしてくれない。

「つれてこい」

 魔術師が言うと、お兄ちゃんが私を思い切り引っ張った。
 片手なのに、すごい力!
 魔術師は目の前に来た私を見てニヤリと笑い、ロープで両手を後ろ手に縛ってきた。

「しっかりつかんでおけ」

 お兄ちゃんはうなずいて、私の背中をわしづかみにした。

「はははっ。君のお兄さんも私の魔術がよくきいているようだね」

 魔術師が愉快そうに高笑いをする。

「やめてよ。魔術をといて! お兄ちゃんも町のみんなも……おかしくなっちゃう」

「いやぁ。よくできた魔術だよ。この魔術はね、ある記録書に書いてあったものをアレンジして作り上げたものなんだ。炎の術なのに、湿気の力を利用するとは感心したよ。さすがだねぇ」

「……もしかして、ある記録書って、お父さんの記録書?」

「他に何があるんだい?」

 不敵な笑みを浮かべる魔術師に、怒りがこみあげてくる。
 悔しい。お父さんの長年の積み重ねの記録書が、技術がこんなことに使われるなんて。
 しかも、お父さんを崖から落としたヤツに。
 お兄ちゃんも、エリカちゃんも、町の人もこんなヤツの思い通りにされて。
 悔しくて、悔しくて、喉の奥が熱くなってきた。

「心配することはない。これから君もお兄さんと一緒だよ。これから私のためだけに生きるんだ。こんな幸せなことはないだろう?」

 満足そうに行って、魔術師は炎の方へ向かった。

「さぁ、連れてこい」

 魔術師がくいっと手を振ると、お兄ちゃんが私をつかんだまま、歩きだす。
 炎の前に連れていかれると、魔術師が私の顔の前に手をかざした。

「こわがることはない。私が呪文を唱えてから一瞬だ」

 あぁ。これで終わりだ。
 これから、自分の心はどこかに行っちゃって、何も分からず一生魔術師の言うことをきくゾンビみたいに生きていくんだ。
 もっと学校で勉強しておけばよかった。
 もっとお兄ちゃんと魔法道具をいっぱい作りたかった。
 残った私たちのお店はどうなるんだろう? 
 きっと、つぶされちゃうんだろうな。
 いやだ。そんなのいやだ。

「離して! 離してよっ!」

 背中をつかんでるお兄ちゃんの手を払おうと暴れたら、

 カツーーーン……

 バッグから、何かが落ちた。
 地面の上に、緑の宝石がついたペンダントが転がってる。
 ミレイにもらったペンダントだ。
 そう言えば、ミレイ、大丈夫だったかな。
 魔術にやられて、この人だかりのどこかにいるんだろうか。
 私、ミレイが魔術師だって、疑っちゃったな。

(本当に困った時、呼んで)

 あんな風に言ってたけど、ミレイはどこにいるの?
 呼んだって、ここにいないなら意味ないじゃない。

(何があっても君を守るよ)

 やっぱり、ウソだった。魔術師じゃなかったけど、ウソつきだったじゃない。ばかー!
 心の中でミレイに叫んで、ペンダントをにらみつけたら。
 あれ?
 ペンダントの側面のところに何かが書いてあるのに気がついた。
 ル……ラ……?
 その文字をじっと読み取ってみる。

「ルララ ルララ ツキノユメ」

 ぼそりとつぶやくと、足元の地面が急にぽわっと光った。
 緑色の魔法陣がふわりと浮かんできたと思ったら、そこからヒュッと白い何かが飛びだしてきた。

「ぐわぁっ……」

 魔術師が悲鳴を上げた。
 見ると、魔術師の手首に何かがかみついてる。

 クウちゃんだ!

 魔術師は鈍い声を出しながら、手をブンッと振ってクウちゃんを地面に落とした。
 クウちゃんは、くるっと一回転して着地。
 なんで? なんでクウちゃんがこの魔法陣から出てきたの?
 そう言えば、この魔法陣……お父さんが持ってた本で似たようなものを見たことがある。
 確か、あるものを呼び出す、召喚の魔法陣だ。

「なんだコイツは……」

 魔術師が手首を押さえながら、顔をゆがませてクウちゃんをにらんだ。

「ふざけたことをしおって……消してやる」

 怒りで顔を真っ赤にした魔術師がクウちゃんに向かって手をかざし、呪文を唱え始めた。

「危ない、クウちゃん! 逃げて!」

 叫んだけど、遅かった。
 デリーさんのかざす手から、炎が出てきてクウちゃんを包んだ。

「クウちゃん!」

 信じられない光景に、私は体中から力が抜けるような感覚におそわれた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

おねこのさんぽみち

はらぺこおねこ。
児童書・童話
おねこのうたを詩や物語にしてみました。 今まで書いた詩を…… これから書く詩を…… 徒然るままに載せていきます。 また。ジャンルがなにになるかわかりませんのでおそらく一番近い「児童書・童話」で書かせていただきます。

不死鳥の巫女はあやかし総長飛鳥に溺愛される!~出逢い・行方不明事件解決篇~

とらんぽりんまる
児童書・童話
第1回きずな児童書大賞・奨励賞頂きました。応援ありがとうございました!! 中学入学と同時に田舎から引っ越し都会の寮学校「紅炎学園」に入学した女子、朱雀桃花。 桃花は登校初日の朝に犬の化け物に襲われる。 それを助けてくれたのは刀を振るう長ランの男子、飛鳥紅緒。 彼は「総長飛鳥」と呼ばれていた。 そんな彼がまさかの成績優秀特Aクラスで隣の席!? 怖い不良かと思っていたが授業中に突然、みんなが停止し飛鳥は仲間の四人と一緒に戦い始める。 飛鳥は総長は総長でも、みんなを悪いあやかしから守る正義のチーム「紅刃斬(こうじんき)」の あやかし総長だった! そして理事長から桃花は、過去に不死鳥の加護を受けた「不死鳥の巫女」だと告げられる。 その日から始まった寮生活。桃花は飛鳥と仲間四人とのルームシェアでイケメン達と暮らすことになった。 桃花と総長飛鳥と四天王は、悪のあやかしチーム「蒼騎審(そうきしん)」との攻防をしながら 子供達を脅かす事件も解決していく。 桃花がチームに参加して初の事件は、紅炎学園生徒の行方不明事件だった。 スマホを残して生徒が消えていく――。 桃花と紅緒は四天王達と協力して解決することができるのか――!?

婚約破棄られ令嬢がカフェ経営を始めたらなぜか王宮から求婚状が届きました!?

江原里奈
恋愛
【婚約破棄? 慰謝料いただければ喜んで^^ 復縁についてはお断りでございます】 ベルクロン王国の田舎の伯爵令嬢カタリナは突然婚約者フィリップから手紙で婚約破棄されてしまう。ショックのあまり寝込んだのは母親だけで、カタリナはなぜか手紙を踏みつけながらもニヤニヤし始める。なぜなら、婚約破棄されたら相手から慰謝料が入る。それを元手に夢を実現させられるかもしれない……! 実はカタリナには前世の記憶がある。前世、彼女はカフェでバイトをしながら、夜間の製菓学校に通っている苦学生だった。夢のカフェ経営をこの世界で実現するために、カタリナの奮闘がいま始まる! ※カクヨム、ノベルバなど複数サイトに投稿中。  カクヨムコン9最終選考・第4回アイリス異世界ファンタジー大賞最終選考通過! ※ブクマしてくださるとモチベ上がります♪ ※厳格なヒストリカルではなく、縦コミ漫画をイメージしたゆるふわ飯テロ系ロマンスファンタジー。作品内の事象・人間関係はすべてフィクション。法制度等々細かな部分を気にせず、寛大なお気持ちでお楽しみください<(_ _)>

英国物語

月雪美玲
児童書・童話
 薔薇戦争時代の貴族をモデルに書いた童話風の話。ざまあ要素(?)あり。 注意:ひらがなが多いので読みづらいです。後から漢字版も出そうとは考えています。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

異世界のんびり料理屋経営

芽狐
ファンタジー
主人公は日本で料理屋を経営している35歳の新垣拓哉(あらかき たくや)。 ある日、体が思うように動かず今にも倒れそうになり、病院で検査した結果末期癌と診断される。 それなら最後の最後まで料理をお客様に提供しようと厨房に立つ。しかし体は限界を迎え死が訪れる・・・ 次の瞬間目の前には神様がおり「異世界に赴いてこちらの住人に地球の料理を食べさせてほしいのじゃよ」と言われる。 人間・エルフ・ドワーフ・竜人・獣人・妖精・精霊などなどあらゆる種族が訪れ食でみんなが幸せな顔になる物語です。 「面白ければ、お気に入り登録お願いします」

ミシオン王子とハトになったヴォロンテーヌ

ねこうさぎしゃ
児童書・童話
その昔、天の国と地上がまだ近かった頃、自ら人間へ生まれ変わることを望んだ一人の天使が、ある国の王子ミシオンとして転生する。 だが人間界に生まれ変わったミシオンは、普通の人間と同じように前世の記憶(天使だった頃の記憶)も志も忘れてしまう。 甘やかされ愚かに育ってしまったミシオンは、二十歳になった時、退屈しのぎに自らの国を見て回る旅に出ることにする。そこからミシオンの成長が始まっていく……。魂の成長と愛の物語。

転生幼女具現化スキルでハードな異世界生活

高梨
ファンタジー
ストレス社会、労働社会、希薄な社会、それに揉まれ石化した心で唯一の親友を守って私は死んだ……のだけれども、死後に閻魔に下されたのは願ってもない異世界転生の判決だった。 黒髪ロングのアメジストの眼をもつ美少女転生して、 接客業後遺症の無表情と接客業の武器営業スマイルと、勝手に進んで行く周りにゲンナリしながら彼女は異世界でくらします。考えてるのに最終的にめんどくさくなって突拍子もないことをしでかして周りに振り回されると同じくらい周りを振り回します。  中性パッツン氷帝と黒の『ナンでも?』できる少女の恋愛ファンタジー。平穏は遙か彼方の代物……この物語をどうぞ見届けてくださいませ。  無表情中性おかっぱ王子?、純粋培養王女、オカマ、下働き大好き系国王、考え過ぎて首を落としたまま過ごす医者、女装メイド男の娘。 猫耳獣人なんでもござれ……。  ほの暗い恋愛ありファンタジーの始まります。 R15タグのように15に収まる範囲の描写がありますご注意ください。 そして『ほの暗いです』

処理中です...