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8章
大ピンチ
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「お、お兄ちゃん、どうして」
きくけど、うつろな目をしたお兄ちゃんは、返事をしてくれない。
「つれてこい」
魔術師が言うと、お兄ちゃんが私を思い切り引っ張った。
片手なのに、すごい力!
魔術師は目の前に来た私を見てニヤリと笑い、ロープで両手を後ろ手に縛ってきた。
「しっかりつかんでおけ」
お兄ちゃんはうなずいて、私の背中をわしづかみにした。
「はははっ。君のお兄さんも私の魔術がよくきいているようだね」
魔術師が愉快そうに高笑いをする。
「やめてよ。魔術をといて! お兄ちゃんも町のみんなも……おかしくなっちゃう」
「いやぁ。よくできた魔術だよ。この魔術はね、ある記録書に書いてあったものをアレンジして作り上げたものなんだ。炎の術なのに、湿気の力を利用するとは感心したよ。さすがだねぇ」
「……もしかして、ある記録書って、お父さんの記録書?」
「他に何があるんだい?」
不敵な笑みを浮かべる魔術師に、怒りがこみあげてくる。
悔しい。お父さんの長年の積み重ねの記録書が、技術がこんなことに使われるなんて。
しかも、お父さんを崖から落としたヤツに。
お兄ちゃんも、エリカちゃんも、町の人もこんなヤツの思い通りにされて。
悔しくて、悔しくて、喉の奥が熱くなってきた。
「心配することはない。これから君もお兄さんと一緒だよ。これから私のためだけに生きるんだ。こんな幸せなことはないだろう?」
満足そうに行って、魔術師は炎の方へ向かった。
「さぁ、連れてこい」
魔術師がくいっと手を振ると、お兄ちゃんが私をつかんだまま、歩きだす。
炎の前に連れていかれると、魔術師が私の顔の前に手をかざした。
「こわがることはない。私が呪文を唱えてから一瞬だ」
あぁ。これで終わりだ。
これから、自分の心はどこかに行っちゃって、何も分からず一生魔術師の言うことをきくゾンビみたいに生きていくんだ。
もっと学校で勉強しておけばよかった。
もっとお兄ちゃんと魔法道具をいっぱい作りたかった。
残った私たちのお店はどうなるんだろう?
きっと、つぶされちゃうんだろうな。
いやだ。そんなのいやだ。
「離して! 離してよっ!」
背中をつかんでるお兄ちゃんの手を払おうと暴れたら、
カツーーーン……
バッグから、何かが落ちた。
地面の上に、緑の宝石がついたペンダントが転がってる。
ミレイにもらったペンダントだ。
そう言えば、ミレイ、大丈夫だったかな。
魔術にやられて、この人だかりのどこかにいるんだろうか。
私、ミレイが魔術師だって、疑っちゃったな。
(本当に困った時、呼んで)
あんな風に言ってたけど、ミレイはどこにいるの?
呼んだって、ここにいないなら意味ないじゃない。
(何があっても君を守るよ)
やっぱり、ウソだった。魔術師じゃなかったけど、ウソつきだったじゃない。ばかー!
心の中でミレイに叫んで、ペンダントをにらみつけたら。
あれ?
ペンダントの側面のところに何かが書いてあるのに気がついた。
ル……ラ……?
その文字をじっと読み取ってみる。
「ルララ ルララ ツキノユメ」
ぼそりとつぶやくと、足元の地面が急にぽわっと光った。
緑色の魔法陣がふわりと浮かんできたと思ったら、そこからヒュッと白い何かが飛びだしてきた。
「ぐわぁっ……」
魔術師が悲鳴を上げた。
見ると、魔術師の手首に何かがかみついてる。
クウちゃんだ!
魔術師は鈍い声を出しながら、手をブンッと振ってクウちゃんを地面に落とした。
クウちゃんは、くるっと一回転して着地。
なんで? なんでクウちゃんがこの魔法陣から出てきたの?
そう言えば、この魔法陣……お父さんが持ってた本で似たようなものを見たことがある。
確か、あるものを呼び出す、召喚の魔法陣だ。
「なんだコイツは……」
魔術師が手首を押さえながら、顔をゆがませてクウちゃんをにらんだ。
「ふざけたことをしおって……消してやる」
怒りで顔を真っ赤にした魔術師がクウちゃんに向かって手をかざし、呪文を唱え始めた。
「危ない、クウちゃん! 逃げて!」
叫んだけど、遅かった。
デリーさんのかざす手から、炎が出てきてクウちゃんを包んだ。
「クウちゃん!」
信じられない光景に、私は体中から力が抜けるような感覚におそわれた。
きくけど、うつろな目をしたお兄ちゃんは、返事をしてくれない。
「つれてこい」
魔術師が言うと、お兄ちゃんが私を思い切り引っ張った。
片手なのに、すごい力!
魔術師は目の前に来た私を見てニヤリと笑い、ロープで両手を後ろ手に縛ってきた。
「しっかりつかんでおけ」
お兄ちゃんはうなずいて、私の背中をわしづかみにした。
「はははっ。君のお兄さんも私の魔術がよくきいているようだね」
魔術師が愉快そうに高笑いをする。
「やめてよ。魔術をといて! お兄ちゃんも町のみんなも……おかしくなっちゃう」
「いやぁ。よくできた魔術だよ。この魔術はね、ある記録書に書いてあったものをアレンジして作り上げたものなんだ。炎の術なのに、湿気の力を利用するとは感心したよ。さすがだねぇ」
「……もしかして、ある記録書って、お父さんの記録書?」
「他に何があるんだい?」
不敵な笑みを浮かべる魔術師に、怒りがこみあげてくる。
悔しい。お父さんの長年の積み重ねの記録書が、技術がこんなことに使われるなんて。
しかも、お父さんを崖から落としたヤツに。
お兄ちゃんも、エリカちゃんも、町の人もこんなヤツの思い通りにされて。
悔しくて、悔しくて、喉の奥が熱くなってきた。
「心配することはない。これから君もお兄さんと一緒だよ。これから私のためだけに生きるんだ。こんな幸せなことはないだろう?」
満足そうに行って、魔術師は炎の方へ向かった。
「さぁ、連れてこい」
魔術師がくいっと手を振ると、お兄ちゃんが私をつかんだまま、歩きだす。
炎の前に連れていかれると、魔術師が私の顔の前に手をかざした。
「こわがることはない。私が呪文を唱えてから一瞬だ」
あぁ。これで終わりだ。
これから、自分の心はどこかに行っちゃって、何も分からず一生魔術師の言うことをきくゾンビみたいに生きていくんだ。
もっと学校で勉強しておけばよかった。
もっとお兄ちゃんと魔法道具をいっぱい作りたかった。
残った私たちのお店はどうなるんだろう?
きっと、つぶされちゃうんだろうな。
いやだ。そんなのいやだ。
「離して! 離してよっ!」
背中をつかんでるお兄ちゃんの手を払おうと暴れたら、
カツーーーン……
バッグから、何かが落ちた。
地面の上に、緑の宝石がついたペンダントが転がってる。
ミレイにもらったペンダントだ。
そう言えば、ミレイ、大丈夫だったかな。
魔術にやられて、この人だかりのどこかにいるんだろうか。
私、ミレイが魔術師だって、疑っちゃったな。
(本当に困った時、呼んで)
あんな風に言ってたけど、ミレイはどこにいるの?
呼んだって、ここにいないなら意味ないじゃない。
(何があっても君を守るよ)
やっぱり、ウソだった。魔術師じゃなかったけど、ウソつきだったじゃない。ばかー!
心の中でミレイに叫んで、ペンダントをにらみつけたら。
あれ?
ペンダントの側面のところに何かが書いてあるのに気がついた。
ル……ラ……?
その文字をじっと読み取ってみる。
「ルララ ルララ ツキノユメ」
ぼそりとつぶやくと、足元の地面が急にぽわっと光った。
緑色の魔法陣がふわりと浮かんできたと思ったら、そこからヒュッと白い何かが飛びだしてきた。
「ぐわぁっ……」
魔術師が悲鳴を上げた。
見ると、魔術師の手首に何かがかみついてる。
クウちゃんだ!
魔術師は鈍い声を出しながら、手をブンッと振ってクウちゃんを地面に落とした。
クウちゃんは、くるっと一回転して着地。
なんで? なんでクウちゃんがこの魔法陣から出てきたの?
そう言えば、この魔法陣……お父さんが持ってた本で似たようなものを見たことがある。
確か、あるものを呼び出す、召喚の魔法陣だ。
「なんだコイツは……」
魔術師が手首を押さえながら、顔をゆがませてクウちゃんをにらんだ。
「ふざけたことをしおって……消してやる」
怒りで顔を真っ赤にした魔術師がクウちゃんに向かって手をかざし、呪文を唱え始めた。
「危ない、クウちゃん! 逃げて!」
叫んだけど、遅かった。
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「クウちゃん!」
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