魔法道具のお店屋さん

森野ゆら

文字の大きさ
上 下
9 / 46
2章

うれしい大量注文

しおりを挟む
 心がぽかぽかと温かい。思わずステップを踏んでしまいそうになる。
 さっき、デリーさんが言ってくれた言葉がうれしくてたまらない。
 お父さんが店をやっていたのは、もう何年も前。
 お父さんのこと、覚えててくれて、しかも認めてくれてる人がいるなんて。
 ふわふわした気持ちで帰ってきたら、お店の前でちょこんと座っている白いモフモフした子が見えた。

「クウちゃん!」

 声をかけると、クウちゃんが私の方へトトッとかけてきた。
 クウちゃんを抱き上げて、よしよしと頭をなでる。

「いつもありがとね、クウちゃん。もしかして私が帰るの待っててくれた?」

 うなずくように頭を下に向けるクウちゃん。
 のぞきこんだクウちゃんの瞳の色は、森を映した湖みたい。

「今日はね、落とし物を届けに行ってたの。ミレイってやつの」

 クウちゃんの瞳が一瞬だけふわっと大きくなる。
 同時に、ガチャリとドアノブをまわす音がした。
 びくりと耳をふるわせたクウちゃんは、私の腕から飛び降り、走って逃げちゃった。

「おー。セアラ、帰ってきたか。遅かったじゃねぇか! 待ちくたびれたぞ」

 ふぁとあくびをしながら出てきたお兄ちゃんは、何だかにやけてる。

「どうしたの? お兄ちゃんが出迎えてくれるなんてめずらしい」 

「実はさ、大量注文が入ったんだ! なんと、百個も!」

「百個!?」

「マギさんがさっき来てさ、注文してくれたんだ。この前買った、たまご型ペンダントがすごく気に入ったって。親戚に配りたいからって」

「そうなんだ! やったね! っていうか、マギさん、どれだけ親戚いるんだ……」

 マギさんは、うちの数少ないお得意様。
 定期的にお兄ちゃんが作った道具を買いに来てくれるんだ。
 この間買ってくれた(たまご型ペンダント)は、たまご型水晶がついていて、その日の天気で色が変わるんだ。
 晴れの日は、オレンジ。曇りはグレイシルバー、雨の日はブルーっていう具合に。
 しかも虫よけになるんだよ。
 おしゃれに虫よけができるっていうのがウリなんだ。(チラシも作ったんだから!)
 いつもマギさんはたくさん買ってくれるけど、今回は百個も注文って……すごい!
 やった! まとまったお金が入ってくるよ!
 しばらくごはんを買うのも困らない。ひゃっほーい。

「また十日後くらいに取りにくるって。いや~忙しくなるなぁ」

 お兄ちゃんは困った顔を作りながらも、口元がにやけてしまってる。
 そういう私もにやけちゃってるけど。

「よーし、今度大通りに行って、セアラの服を買おう!」

「え? いいの?」

「ちょっとはオシャレしたいってぼやいてただろ?」

「お兄ちゃんだって、新しい工具がほしいって言ってたでしょ?」

「まぁ、そうだけど。でも、セアラには日頃我慢させちゃってるしな。あ、髪飾りも買ってやろうか?」

 お兄ちゃんの手がポンポンと私の頭の上で弾む。
 たくさん注文が入った時は、こうやってお兄ちゃんと喜び合えるのがとってもうれしい。
 魔法道具店、やっててよかったなって思えるんだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

こうなったら、頑張るしかないよね〜両親大好きっ子平民聖女様とモフモフ聖獣様との出稼ぎライフ〜

井藤 美樹
児童書・童話
 私の両親はお人好しなの。それも、超が付くほどのお人好し。  ここだけの話、生まれたての赤ちゃんよりもピュアな存在だと、私は内心思ってるほどなの。少なくとも、六歳の私よりもピュアなのは間違いないわ。  なので、すぐ人にだまされる。  でもね、そんな両親が大好きなの。とってもね。  だから、私が防波堤になるしかないよね、必然的に。生まれてくる妹弟のためにね。お姉ちゃん頑張ります。  でもまさか、こんなことになるなんて思いもしなかったよ。  こんな私が〈聖女〉なんて。絶対間違いだよね。教会の偉い人たちは間違いないって言ってるし、すっごく可愛いモフモフに懐かれるし、どうしよう。  えっ!? 聖女って給料が出るの!? なら、なります!! 頑張ります!!  両親大好きっ子平民聖女様と白いモフモフ聖獣様との出稼ぎライフ、ここに開幕です!!

不吉な九番目の子だろうと、妾が次代のドラゴニア皇帝に決まっておろう!

スズキヒサシ
児童書・童話
妾はドラゴニア帝国皇帝の九番目の子である。 九番目は不吉だなどと、下々の民が言うておるようじゃが、そんなものは関係ない。 誰がなんと言おうと、妾が次代のドラゴニア皇帝になる! 妾の宮では毎日、何かしらの事件が起きるのでな。 日記でもつけてみることにした。 先に言うておくが、読めるのは妾が次代のドラゴニア皇帝であると認め、崇める者のみじゃ。 文句があるヤツはお呼びじゃないからの。 あと、銀河一かわゆい妾に懸想しても良いが、妄想だけにとどめておくのじゃぞ。 妾は竜族。人族とは一緒にはなれぬからな。 追記:学園もの→バトルもの→恋愛ものになる予定です。

公爵令嬢の私を捨てておきながら父の元で働きたいとは何事でしょう?

白山さくら
恋愛
「アイリーン、君は1人で生きていけるだろう?僕はステファニーを守る騎士になることにした」浮気相手の発言を真に受けた愚かな婚約者…

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

理想の王妃様

青空一夏
児童書・童話
公爵令嬢イライザはフィリップ第一王子とうまれたときから婚約している。 王子は幼いときから、面倒なことはイザベルにやらせていた。 王になっても、それは変わらず‥‥側妃とわがまま遊び放題! で、そんな二人がどーなったか? ざまぁ?ありです。 お気楽にお読みください。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

夫に隠し子がいました〜彼が選んだのは私じゃなかった〜

白山さくら
恋愛
「ずっと黙っていたが、俺には子供が2人いるんだ。上の子が病気でどうしても支えてあげたいから君とは別れたい」

「私は○○です」?!

咲駆良
児童書・童話
マイペースながらも、仕事はきっちりやって曲がったことは大の苦手な主人公。 一方、主人公の親友は周りの人間を纏めるしっかり者。 偶々、そんな主人公が遭遇しちゃった異世界って?! そして、親友はどうなっちゃうの?! これは、ペガサスが神獣の一種とされる異世界で、主人公が様々な困難を乗り越えていこうとする(だろう)物語です。 ※まだ書き始めですが、最後は「○○○だった主人公?!」みたいなハッピーエンドにしたいと考えています。 ※都合によりゆっくり更新になってしまうかもしれませんが、これからどうぞよろしくお願いいたします。

処理中です...