魔法道具のお店屋さん

森野ゆら

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2章

オーシュランの支配人

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 真っすぐに見つめてくる、落ち着いた紫がかった瞳。
 サラサラ流れる銀色の髪が、陽の光に当たってつややかできれい。
 上品な茶色の生地で仕立ててあるスーツを着ていて、すごく足が長い。
 オーシュランの紋章が胸のポケットにあるから、店の人かな?
 ってことは、オーシュランの店員さん=私の敵だ!
 にらみつけると、男の人は眉を下げた。

「何かお困りでしょうか?」

「店から締め出されただけです」

 ふいっと顔をそむけて言うと、男の人は切れ長の目を少し大きくした。

「失礼いたしました。店の者の無礼、どうかお許しください」  
 
 急に深々と頭を下げてきた。……しかも、なかなか頭を上げない。
 十秒、二十秒、三十秒……いつまでたっても頭を下げたままだ。
 さすがにいたたまれなくなって、声をかけた。

「あ、あの。頭を上げてください。あなたが悪いわけじゃないし」

「いいえ。店の者の教育が不十分でした。私はデリーと申します。この店……オーシュランの支配人をしております」

「支配人? オーシュランのえらい人?」

「まぁ……そんなところですかね」

 デリーさんは、くすっと笑った。

「何かお求めになって、ご来店くださったのですか?」

「いえ。私、ミレイ……くんと同じ学校なんですけど、これを返しに来ただけで」

 ブローチを取り出して見せると、デリーさんはにこりとほほえんで受け取った。

「真ん中のサンザスの石……確かにミレイ様のブローチですね。ありがとうございます。お返ししておきます。失礼ですが、お名前は?」

「セアラ・リアムです」

 答えると、デリーさんは何かを考えるように通りの向こうに目線をやった。

「リアム……もしかして、あの東の森にある魔法道具屋リアムの?」

「……そうです」

 思わず、かあっと顔が熱くなる。
 しまった。名前、言わなきゃよかった。リアムって名前出さなきゃ、お店のことも知られずにすんだのに。
 どうせ、「あのボロボロの店か~、格差ありすぎだぜ」って心の中で笑ってるんでしょ!
 後悔してうつむいていると、ポンと頭に手がのった。
 デリーさんのつけてる香水なのか、ふわっと花のような香りが漂う。
 そのまますうっと頭をなでるように手が下りてきて、デリーさんが私のあごをくいっと上げた。

「誇りをお持ちになってください」

「え? 誇り?」

「リアムはいい道具を置いています。素晴らしい店です」

 静かに言って、デリーさんが私のあご先から手を離した。

「実は昔、行ったことがあるんですよ。あなたの父上が店主をされている時に」

「そっ、そうなんですか?」

 お父さんがお店をしてる時?
 もう何年も前だけど、デリーさん、来てくれてたの?
 こんなきれいな人が来たら、きっと覚えてるはずなのに、全然、気づかなかった。
 私がまだ小さかったからかな。

「あなたの父上はすばらしい技術の持ち主でした。オーシュランの優秀な職人が束でかかってもかなわないくらいにね」

 デリーさんがふふっと笑って、手の中のミレイのブローチに目を落とす。
 オーシュランの職人さんが束でかかっても……
 思いがけず、お父さんのことをほめられて、私は目をパチパチさせる。
 同時に、うれしくてドキドキしてきた。
 不思議とさっきのモヤモヤした気持ちが消えていく。

「特に、三日月石のランタンとか星空水晶はリアムさんのセンスを感じる道具でした」

「そうなんです! 星空水晶は、お父さん、すごく時間をかけていて……」

「そうでしょうね。あの球体の磨き加減は絶妙でしたし、中の星屑はなかなか手に入る物ではありませんし」

 デリーさんが思い出したように、ふむふむとうなずく。
 うわぁ。なんだろう。すごくうれしい。
 オーシュランは大キライだけど、こんな風にお父さんのことを、道具のことをほめてくれる人がいるなんて。
 思わず、お父さんの道具作りのこだわりや、材料がなかなか見つからなくて私も一緒に探したことを話した。
 うれしい気持ちがあふれだしてきて、話が止まらない。
 でも、デリーさんは嫌な顔一つせず、うなずきながら聞いてくれた。
 結局、太陽が西の空に傾くまで、デリーさんとおしゃべりしてしまった。
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