8 / 46
2章
オーシュランの支配人
しおりを挟む
真っすぐに見つめてくる、落ち着いた紫がかった瞳。
サラサラ流れる銀色の髪が、陽の光に当たってつややかできれい。
上品な茶色の生地で仕立ててあるスーツを着ていて、すごく足が長い。
オーシュランの紋章が胸のポケットにあるから、店の人かな?
ってことは、オーシュランの店員さん=私の敵だ!
にらみつけると、男の人は眉を下げた。
「何かお困りでしょうか?」
「店から締め出されただけです」
ふいっと顔をそむけて言うと、男の人は切れ長の目を少し大きくした。
「失礼いたしました。店の者の無礼、どうかお許しください」
急に深々と頭を下げてきた。……しかも、なかなか頭を上げない。
十秒、二十秒、三十秒……いつまでたっても頭を下げたままだ。
さすがにいたたまれなくなって、声をかけた。
「あ、あの。頭を上げてください。あなたが悪いわけじゃないし」
「いいえ。店の者の教育が不十分でした。私はデリーと申します。この店……オーシュランの支配人をしております」
「支配人? オーシュランのえらい人?」
「まぁ……そんなところですかね」
デリーさんは、くすっと笑った。
「何かお求めになって、ご来店くださったのですか?」
「いえ。私、ミレイ……くんと同じ学校なんですけど、これを返しに来ただけで」
ブローチを取り出して見せると、デリーさんはにこりとほほえんで受け取った。
「真ん中のサンザスの石……確かにミレイ様のブローチですね。ありがとうございます。お返ししておきます。失礼ですが、お名前は?」
「セアラ・リアムです」
答えると、デリーさんは何かを考えるように通りの向こうに目線をやった。
「リアム……もしかして、あの東の森にある魔法道具屋リアムの?」
「……そうです」
思わず、かあっと顔が熱くなる。
しまった。名前、言わなきゃよかった。リアムって名前出さなきゃ、お店のことも知られずにすんだのに。
どうせ、「あのボロボロの店か~、格差ありすぎだぜ」って心の中で笑ってるんでしょ!
後悔してうつむいていると、ポンと頭に手がのった。
デリーさんのつけてる香水なのか、ふわっと花のような香りが漂う。
そのまますうっと頭をなでるように手が下りてきて、デリーさんが私のあごをくいっと上げた。
「誇りをお持ちになってください」
「え? 誇り?」
「リアムはいい道具を置いています。素晴らしい店です」
静かに言って、デリーさんが私のあご先から手を離した。
「実は昔、行ったことがあるんですよ。あなたの父上が店主をされている時に」
「そっ、そうなんですか?」
お父さんがお店をしてる時?
もう何年も前だけど、デリーさん、来てくれてたの?
こんなきれいな人が来たら、きっと覚えてるはずなのに、全然、気づかなかった。
私がまだ小さかったからかな。
「あなたの父上はすばらしい技術の持ち主でした。オーシュランの優秀な職人が束でかかってもかなわないくらいにね」
デリーさんがふふっと笑って、手の中のミレイのブローチに目を落とす。
オーシュランの職人さんが束でかかっても……
思いがけず、お父さんのことをほめられて、私は目をパチパチさせる。
同時に、うれしくてドキドキしてきた。
不思議とさっきのモヤモヤした気持ちが消えていく。
「特に、三日月石のランタンとか星空水晶はリアムさんのセンスを感じる道具でした」
「そうなんです! 星空水晶は、お父さん、すごく時間をかけていて……」
「そうでしょうね。あの球体の磨き加減は絶妙でしたし、中の星屑はなかなか手に入る物ではありませんし」
デリーさんが思い出したように、ふむふむとうなずく。
うわぁ。なんだろう。すごくうれしい。
オーシュランは大キライだけど、こんな風にお父さんのことを、道具のことをほめてくれる人がいるなんて。
思わず、お父さんの道具作りのこだわりや、材料がなかなか見つからなくて私も一緒に探したことを話した。
うれしい気持ちがあふれだしてきて、話が止まらない。
でも、デリーさんは嫌な顔一つせず、うなずきながら聞いてくれた。
結局、太陽が西の空に傾くまで、デリーさんとおしゃべりしてしまった。
サラサラ流れる銀色の髪が、陽の光に当たってつややかできれい。
上品な茶色の生地で仕立ててあるスーツを着ていて、すごく足が長い。
オーシュランの紋章が胸のポケットにあるから、店の人かな?
ってことは、オーシュランの店員さん=私の敵だ!
にらみつけると、男の人は眉を下げた。
「何かお困りでしょうか?」
「店から締め出されただけです」
ふいっと顔をそむけて言うと、男の人は切れ長の目を少し大きくした。
「失礼いたしました。店の者の無礼、どうかお許しください」
急に深々と頭を下げてきた。……しかも、なかなか頭を上げない。
十秒、二十秒、三十秒……いつまでたっても頭を下げたままだ。
さすがにいたたまれなくなって、声をかけた。
「あ、あの。頭を上げてください。あなたが悪いわけじゃないし」
「いいえ。店の者の教育が不十分でした。私はデリーと申します。この店……オーシュランの支配人をしております」
「支配人? オーシュランのえらい人?」
「まぁ……そんなところですかね」
デリーさんは、くすっと笑った。
「何かお求めになって、ご来店くださったのですか?」
「いえ。私、ミレイ……くんと同じ学校なんですけど、これを返しに来ただけで」
ブローチを取り出して見せると、デリーさんはにこりとほほえんで受け取った。
「真ん中のサンザスの石……確かにミレイ様のブローチですね。ありがとうございます。お返ししておきます。失礼ですが、お名前は?」
「セアラ・リアムです」
答えると、デリーさんは何かを考えるように通りの向こうに目線をやった。
「リアム……もしかして、あの東の森にある魔法道具屋リアムの?」
「……そうです」
思わず、かあっと顔が熱くなる。
しまった。名前、言わなきゃよかった。リアムって名前出さなきゃ、お店のことも知られずにすんだのに。
どうせ、「あのボロボロの店か~、格差ありすぎだぜ」って心の中で笑ってるんでしょ!
後悔してうつむいていると、ポンと頭に手がのった。
デリーさんのつけてる香水なのか、ふわっと花のような香りが漂う。
そのまますうっと頭をなでるように手が下りてきて、デリーさんが私のあごをくいっと上げた。
「誇りをお持ちになってください」
「え? 誇り?」
「リアムはいい道具を置いています。素晴らしい店です」
静かに言って、デリーさんが私のあご先から手を離した。
「実は昔、行ったことがあるんですよ。あなたの父上が店主をされている時に」
「そっ、そうなんですか?」
お父さんがお店をしてる時?
もう何年も前だけど、デリーさん、来てくれてたの?
こんなきれいな人が来たら、きっと覚えてるはずなのに、全然、気づかなかった。
私がまだ小さかったからかな。
「あなたの父上はすばらしい技術の持ち主でした。オーシュランの優秀な職人が束でかかってもかなわないくらいにね」
デリーさんがふふっと笑って、手の中のミレイのブローチに目を落とす。
オーシュランの職人さんが束でかかっても……
思いがけず、お父さんのことをほめられて、私は目をパチパチさせる。
同時に、うれしくてドキドキしてきた。
不思議とさっきのモヤモヤした気持ちが消えていく。
「特に、三日月石のランタンとか星空水晶はリアムさんのセンスを感じる道具でした」
「そうなんです! 星空水晶は、お父さん、すごく時間をかけていて……」
「そうでしょうね。あの球体の磨き加減は絶妙でしたし、中の星屑はなかなか手に入る物ではありませんし」
デリーさんが思い出したように、ふむふむとうなずく。
うわぁ。なんだろう。すごくうれしい。
オーシュランは大キライだけど、こんな風にお父さんのことを、道具のことをほめてくれる人がいるなんて。
思わず、お父さんの道具作りのこだわりや、材料がなかなか見つからなくて私も一緒に探したことを話した。
うれしい気持ちがあふれだしてきて、話が止まらない。
でも、デリーさんは嫌な顔一つせず、うなずきながら聞いてくれた。
結局、太陽が西の空に傾くまで、デリーさんとおしゃべりしてしまった。
10
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
どうせ結末は変わらないのだと開き直ってみましたら
風見ゆうみ
恋愛
「もう、無理です!」
伯爵令嬢である私、アンナ・ディストリーは屋根裏部屋で叫びました。
男の子がほしかったのに生まれたのが私だったという理由で家族から嫌われていた私は、密かに好きな人だった伯爵令息であるエイン様の元に嫁いだその日に、エイン様と実の姉のミルーナに殺されてしまいます。
それからはなぜか、殺されては子どもの頃に巻き戻るを繰り返し、今回で11回目の人生です。
何をやっても同じ結末なら抗うことはやめて、開き直って生きていきましょう。
そう考えた私は、姉の機嫌を損ねないように目立たずに生きていくことをやめ、学園生活を楽しむことに。
学期末のテストで1位になったことで、姉の怒りを買ってしまい、なんと婚約を解消させられることに!
これで死なずにすむのでは!?
ウキウキしていた私の前に元婚約者のエイン様が現れ――
あなたへの愛情なんてとっくに消え去っているんですが?
継母の心得
トール
恋愛
【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート☆書籍化 4巻発売中☆ コミカライズ連載中、2024/08/23よりコミックシーモアにて先行販売開始】
※継母というテーマですが、ドロドロではありません。ほっこり可愛いを中心に展開されるお話ですので、ドロドロが苦手の方にもお読みいただけます。
山崎 美咲(35)は、癌治療で子供の作れない身体となった。生涯独身だと諦めていたが、やはり子供は欲しかったとじわじわ後悔が募っていく。
治療の甲斐なくこの世を去った美咲が目を覚ますと、なんと生前読んでいたマンガの世界に転生していた。
不遇な幼少期を過ごした主人公が、ライバルである皇太子とヒロインを巡り争い、最後は見事ヒロインを射止めるというテンプレもののマンガ。その不遇な幼少期で主人公を虐待する悪辣な継母がまさかの私!?
前世の記憶を取り戻したのは、主人公の父親との結婚式前日だった!
突然3才児の母親になった主人公が、良い継母になれるよう子育てに奮闘していたら、いつの間にか父子に溺愛されて……。
オタクの知識を使って、子育て頑張ります!!
子育てに関する道具が揃っていない世界で、玩具や食器、子供用品を作り出していく、オタクが行う異世界育児ファンタジー開幕です!
番外編は10/7〜別ページに移動いたしました。
父の浮気相手は私の親友でした。
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるティセリアは、父の横暴に対して怒りを覚えていた。
彼は、妻であるティセリアの母を邪険に扱っていたのだ。
しかしそれでも、自分に対しては真っ当に父親として接してくれる彼に対して、ティセリアは複雑な思いを抱いていた。
そんな彼女が悩みを唯一打ち明けられるのは、親友であるイルーネだけだった。
その友情は、大切にしなければならない。ティセリアは日頃からそのように思っていたのである。
だが、そんな彼女の思いは一瞬で打ち砕かれることになった。
その親友は、あろうことかティセリアの父親と関係を持っていたのだ。
それによって、ティセリアの中で二人に対する情は崩れ去った。彼女にとっては、最早どちらも自身を裏切った人達でしかなくなっていたのだ。
転生チートは家族のために~ユニークスキルで、快適な異世界生活を送りたい!~
りーさん
ファンタジー
ある日、異世界に転生したルイ。
前世では、両親が共働きの鍵っ子だったため、寂しい思いをしていたが、今世は優しい家族に囲まれた。
そんな家族と異世界でも楽しく過ごすために、ユニークスキルをいろいろと便利に使っていたら、様々なトラブルに巻き込まれていく。
「家族といたいからほっといてよ!」
※スキルを本格的に使い出すのは二章からです。
アラフォー料理人が始める異世界スローライフ
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
ある日突然、異世界転移してしまった料理人のタツマ。
わけもわからないまま、異世界で生活を送り……次第に自分のやりたいこと、したかったことを思い出す。
それは料理を通して皆を笑顔にすること、自分がしてもらったように貧しい子達にお腹いっぱいになって貰うことだった。
男は異世界にて、フェンリルや仲間たちと共に穏やかなに過ごしていく。
いずれ、最強の料理人と呼ばれるその日まで。
料理がしたいので、騎士団の任命を受けます!
ハルノ
ファンタジー
過労死した主人公が、異世界に飛ばされてしまいました
。ここは天国か、地獄か。メイド長・ジェミニが丁寧にもてなしてくれたけれども、どうも味覚に違いがあるようです。異世界に飛ばされたとわかり、屋敷の主、領主の元でこの世界のマナーを学びます。
令嬢はお菓子作りを趣味とすると知り、キッチンを借りた女性。元々好きだった料理のスキルを活用して、ジェミニも領主も、料理のおいしさに目覚めました。
そのスキルを生かしたいと、いろいろなことがあってから騎士団の料理係に就職。
ひとり暮らしではなかなか作ることのなかった料理も、大人数の料理を作ることと、満足そうに食べる青年たちの姿に生きがいを感じる日々を送る話。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」を使用しています。
左遷されたオッサン、移動販売車と異世界転生でスローライフ!?~貧乏孤児院の救世主!
武蔵野純平
ファンタジー
大手企業に勤める平凡なアラフォー会社員の米櫃亮二は、セクハラ上司に諫言し左遷されてしまう。左遷先の仕事は、移動販売スーパーの運転手だった。ある日、事故が起きてしまい米櫃亮二は、移動販売車ごと異世界に転生してしまう。転生すると亮二と移動販売車に不思議な力が与えられていた。亮二は転生先で出会った孤児たちを救おうと、貧乏孤児院を宿屋に改装し旅館経営を始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる