冷風

更科ゆう

文字の大きさ
上 下
13 / 22

再会

しおりを挟む
 まさか……。5歳の女の子って…まさか…。

 瑠美ちゃんのこと…?

 美佐子は慌てて、かぶりをふって、嫌な妄想を打ち消した。
 そんなことはない…そんなことはない…。

 気がつくと体が震えていた。
 
 不意に携帯が鳴った。美佐子はゆっくりとけたたましい音のなる携帯の法に向き直った。
 
 ――携帯を取りたくない――――

 鳴り続ける携帯の音を聞いて、美咲が眠そうにめをこすりながら起きてきてしまった。

「…ママ、携帯なってるよ」
と言いながら、美咲が携帯を手にして美佐子に渡そうとする。
 
――――いやだ、来ないで――――
 
 美佐子は、美咲が携帯を持ち、差し出している手を振り払いたい衝動に駆られた。
 しかし、そうしなかった。
 美佐子は観念したかのように、大人しく携帯を受け取った。

 そして…着信のボタンを押した…
 今日子さんの声だった。


 その後、どうやって瑠美ちゃんが搬送された病院に行ったのか、ろくに覚えてない。

 霊安室を案内され、そこには…。
 
 今日子さんがいた…。

 今日子さんは、美佐子の気配に気がつき、振り向いた。
 その顔は、今日子さんであって、今日子さんでなかった。まるで般若の面をかぶったようだった。

 そして、美佐子は生涯耳から離れない言葉を聞くことになる…。

「あんた子供が死ぬば良かったのよー!!!」

 今日子さんの絶叫が部屋中に響いた。



「今日子はあなたに会いたいと言っていました」
 哲夫の言葉で美佐子は我に返った。

 今日子さんが私に会いたがっている……?
 そんな……もう自分のことなど顔も見たくないだろうと思っていたのに……。

 私も今日子さんに会いたい!会って謝りたい!

「今日子さんに会わせてください」
 美佐子は声を絞り出すようにして、言った。

「……わかりました」
 哲夫は、静かに答えた。

 

 タクシーで、哲夫に連れてこられた場所に今日子さんは、いた。

 何年ぶりだろう。もう9年も経つか。

こんな変わり果てた姿で再開するなんて、夢にも思わなかった。
 
 灰色の墓石。
 
 長峰家の墓と彫られている。

 茫然としたまま、立ち尽くしている美佐子を見て、哲夫は言った。

「妻は、先月乳がんで亡くなりました」
 その言葉を聞き、美佐子はハッとして、墓石を凝視していた顔を哲夫の方に向けた。

「いろいろ手を尽くしましたが、残念ながら……。まだ、五十二歳でした……」
 哲夫はそう言って、下を向いた。泣いている……?ように見えた。

「今日子は、あなたに会いたがっていました……」
 
 絞り出すように、普通なら聞きのがしてしまいそうな、か細い声で、語り始めた。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

マクデブルクの半球

ナコイトオル
ミステリー
ある夜、電話がかかってきた。ただそれだけの、はずだった。 高校時代、自分と折り合いの付かなかった優等生からの唐突な電話。それが全てのはじまりだった。 電話をかけたのとほぼ同時刻、何者かに突き落とされ意識不明となった青年コウと、そんな彼と昔折り合いを付けることが出来なかった、容疑者となった女、ユキ。どうしてこうなったのかを調べていく内に、コウを突き落とした容疑者はどんどんと増えてきてしまう─── 「犯人を探そう。出来れば、彼が目を覚ますまでに」 自他共に認める在宅ストーカーを相棒に、誰かのために進む、犯人探し。

リモート刑事 笹本翔

雨垂 一滴
ミステリー
 『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。  主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。  それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。  物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。  翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?  翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!

旧校舎のフーディーニ

澤田慎梧
ミステリー
【「死体の写った写真」から始まる、人の死なないミステリー】 時は1993年。神奈川県立「比企谷(ひきがやつ)高校」一年生の藤本は、担任教師からクラス内で起こった盗難事件の解決を命じられてしまう。 困り果てた彼が頼ったのは、知る人ぞ知る「名探偵」である、奇術部の真白部長だった。 けれども、奇術部部室を訪ねてみると、そこには美少女の死体が転がっていて――。 奇術師にして名探偵、真白部長が学校の些細な謎や心霊現象を鮮やかに解決。 「タネも仕掛けもございます」 ★毎週月水金の12時くらいに更新予定 ※本作品は連作短編です。出来るだけ話数通りにお読みいただけると幸いです。 ※本作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。 ※本作品の主な舞台は1993年(平成五年)ですが、当時の知識が無くてもお楽しみいただけます。 ※本作品はカクヨム様にて連載していたものを加筆修正したものとなります。

マイグレーション ~現実世界に入れ替え現象を設定してみた~

気の言
ミステリー
いたって平凡な男子高校生の玉宮香六(たまみや かむい)はひょんなことから、中学からの腐れ縁である姫石華(ひめいし はな)と入れ替わってしまった。このまま元に戻らずにラブコメみたいな生活を送っていくのかと不安をいだきはじめた時に、二人を元に戻すための解決の糸口が見つかる。だが、このことがきっかけで事態は急展開を迎えてしまう。 現実に入れ替わりが起きたことを想定した、恋愛要素あり、謎ありの空想科学小説です。 この作品はフィクションです。 実在の人物や団体などとは関係ありません。

パラダイス・ロスト

真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。 ※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。

不思議の街のヴァルダさん

伊集院アケミ
ミステリー
仙台市某所にある不思議な古書店で、時折繰り広げられる、小さな事件。「死者の書のしもべ」を自称するシスターの格好をした中二病の女性と、彼女を慕う平凡な大学生による、日常系サスペンス? です。なお、この小説は、世間知らずのワナビの女の子が書いてる小説という設定です。

天使の顔して悪魔は嗤う

ねこ沢ふたよ
ミステリー
表紙の子は赤野周作君。 一つ一つで、お話は別ですので、一つずつお楽しいただけます。 【都市伝説】 「田舎町の神社の片隅に打ち捨てられた人形が夜中に動く」 そんな都市伝説を調べに行こうと幼馴染の木根元子に誘われて調べに行きます。 【雪の日の魔物】 周作と優作の兄弟で、誘拐されてしまいますが、・・・どちらかと言えば、周作君が犯人ですね。 【歌う悪魔】 聖歌隊に参加した周作君が、ちょっとした事件に巻き込まれます。 【天国からの復讐】 死んだ友達の復讐 <折り紙から、中学生。友達今井目線> 【折り紙】 いじめられっ子が、周作君に相談してしまいます。復讐してしまいます。 【修学旅行1~3・4~10】 周作が、修学旅行に参加します。バスの車内から目撃したのは・・・。 3までで、小休止、4からまた新しい事件が。 ※高一<松尾目線> 【授業参観1~9】 授業参観で見かけた保護者が殺害されます 【弁当】 松尾君のプライベートを赤野君が促されて推理するだけ。 【タイムカプセル1~7】 暗号を色々+事件。和歌、モールス、オペラ、絵画、様々な要素を取り入れた暗号 【クリスマスの暗号1~7】 赤野君がプレゼント交換用の暗号を作ります。クリスマスにちなんだ暗号です。 【神隠し】 同級生が行方不明に。 SNSや伝統的な手品のトリック ※高三<夏目目線> 【猫は暗号を運ぶ1~7】 猫の首輪の暗号から、事件解決 【猫を殺さば呪われると思え1~7】 暗号にCICADAとフリーメーソンを添えて♪ ※都市伝説→天使の顔して悪魔は嗤う、タイトル変更

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

処理中です...