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最終章 サウード夫妻よ永遠に
第41話 架け橋
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部屋を飛び出そうと一歩踏み出したアリス。だがその場にいた全員に引き止められ、再び大人しく席についた。
「アリス奥様、落ち着いてください。あなたまで彼女たちに感化されては困ります」
「す、すみません……」
アラービヤに来て初めてピエールから冷たい目で見られ、その場で肩を小さく丸める。向かい側では彼女たちと一緒くたにされ不満をあらわにする四賢妃が。
「なんか気に入らないわ。まるで私たちがいけないみたい」
「ああ、心外だな」
「ホント、ピエールってば感じ悪いんだから~」
「ちょっとひどいです」
むくれる四人にアリスはぺこぺこと頭を下げ平謝りする。うん、確かに夫の言う通り四人いると少し厄介なのかもしれない。
「皆様、私が悪いんです。申し訳ありません。と、とにかく一度教会には行こうと思います」
「そうね、私たちも現地を確認したいし、行きましょうか!」
「「うん!」」
こうしてアリスとピエール、さらに四人の夫人たちはサウードの屋敷を出て市街地に向かった。到着後、アリスは彼女たちと別れ教会を訪ねた。
「こんにちは、シスター・ティナ」
「伯爵夫人……」
先日通してもらった応接室でさっそく領地改革の道筋や学校の話をする。シスターが不安にならないよう、丁寧にゆっくりと説明し彼女からの返事を静かに待った。
「学校、ですか……」
「はい。母親たちは保育所に子供を預けて保育所に迎えに来ます。なので教会に迎えが来て帰っていく場面を、ここの子供が見ることはありません。授業料や必要な道具は教会の子どもたちの分を含めサウード家で用意いたします」
「教会の子の分もですか?」
「はい。みんな等しく、サウードの子です。シスター、どうかお願いできないでしょうか?」
アリスが頭を下げる。少しの沈黙のあと、シスターがすうと息を吸う音が耳に入る。
「伯爵夫人、どうか顔を上げてください」
「はい」
「私たちのことを、領民の一員として大切に思ってくださって、ありがとうございます。このお話、ぜひお受けさせてください」
顔を上げると、目の前でシスター・ティナが静かに、優しく微笑んでいた。アリスは感極まり、溢れそうになった涙を手で拭い、彼女に満面の笑みを返す。
「シスター! こちらこそ、ありがとうございます!」
それから、領地の視察を終えた四賢妃たちと合流し、アリスは領地を立て直すため奔走した。一度王都に戻ったビアンカやアイシャも部下を連れて戻り、街はゆっくりと整い始めていた。
「それでね、今日はアイシャ様が——」
「アリス、最近君は彼女たちの話ばかり。たまには僕と二人の時間を楽しんでよ」
寝室でいつものように今日あった出来事、主に四賢妃の話をしていると、ウィリアムがそれを遮り、口を尖らせていた。すっかり彼女たちのファンになってしまった妻を見て拗ねているようだ。アリスは慌てて夫の手を握りご機嫌取りをはじめる。
「ごめんなさい、ウィル。そうね、私ったらつい……許してちょうだい?」
「アリスからキスしてくれたら許せそう」
ウィリアムが目を閉じ、こちらを向いて言った。「ん」といって唇を突き出す姿がかわいらしい。アリスは照れながらも、目を閉じて彼の唇にキスをした。
「機嫌、直ったかしら?」
「うん。直った」
嬉しそうに蜂蜜色の目を細める夫に愛おしさが溢れる。アリスは体を横に傾け、ウィリアムの肩に体重をかけた。
「アリス、どうかな。この前の話……考えてみてくれた?」
「ええ、でも……」
考えは変わらなかった。夫人たちから子供の話を聞いたり、保育所のことで領地の母親たちと関わるうちに、むしろ自分の子供が欲しいと強く思うようになってしまった。ただ、これをどう切り出せばいいものか、と思うと考えはまとまらず、話すに至らなかったのだ。
「そうか。そうだよね……」
ウィリアムがため息混じりに呟く。どうやら彼も同じようだ。引き続き話は平行線。アリスは領地の問題が良い方に進むように、自分たちの問題もどうにかならないかと頭を抱えていた——。
>>続く
「アリス奥様、落ち着いてください。あなたまで彼女たちに感化されては困ります」
「す、すみません……」
アラービヤに来て初めてピエールから冷たい目で見られ、その場で肩を小さく丸める。向かい側では彼女たちと一緒くたにされ不満をあらわにする四賢妃が。
「なんか気に入らないわ。まるで私たちがいけないみたい」
「ああ、心外だな」
「ホント、ピエールってば感じ悪いんだから~」
「ちょっとひどいです」
むくれる四人にアリスはぺこぺこと頭を下げ平謝りする。うん、確かに夫の言う通り四人いると少し厄介なのかもしれない。
「皆様、私が悪いんです。申し訳ありません。と、とにかく一度教会には行こうと思います」
「そうね、私たちも現地を確認したいし、行きましょうか!」
「「うん!」」
こうしてアリスとピエール、さらに四人の夫人たちはサウードの屋敷を出て市街地に向かった。到着後、アリスは彼女たちと別れ教会を訪ねた。
「こんにちは、シスター・ティナ」
「伯爵夫人……」
先日通してもらった応接室でさっそく領地改革の道筋や学校の話をする。シスターが不安にならないよう、丁寧にゆっくりと説明し彼女からの返事を静かに待った。
「学校、ですか……」
「はい。母親たちは保育所に子供を預けて保育所に迎えに来ます。なので教会に迎えが来て帰っていく場面を、ここの子供が見ることはありません。授業料や必要な道具は教会の子どもたちの分を含めサウード家で用意いたします」
「教会の子の分もですか?」
「はい。みんな等しく、サウードの子です。シスター、どうかお願いできないでしょうか?」
アリスが頭を下げる。少しの沈黙のあと、シスターがすうと息を吸う音が耳に入る。
「伯爵夫人、どうか顔を上げてください」
「はい」
「私たちのことを、領民の一員として大切に思ってくださって、ありがとうございます。このお話、ぜひお受けさせてください」
顔を上げると、目の前でシスター・ティナが静かに、優しく微笑んでいた。アリスは感極まり、溢れそうになった涙を手で拭い、彼女に満面の笑みを返す。
「シスター! こちらこそ、ありがとうございます!」
それから、領地の視察を終えた四賢妃たちと合流し、アリスは領地を立て直すため奔走した。一度王都に戻ったビアンカやアイシャも部下を連れて戻り、街はゆっくりと整い始めていた。
「それでね、今日はアイシャ様が——」
「アリス、最近君は彼女たちの話ばかり。たまには僕と二人の時間を楽しんでよ」
寝室でいつものように今日あった出来事、主に四賢妃の話をしていると、ウィリアムがそれを遮り、口を尖らせていた。すっかり彼女たちのファンになってしまった妻を見て拗ねているようだ。アリスは慌てて夫の手を握りご機嫌取りをはじめる。
「ごめんなさい、ウィル。そうね、私ったらつい……許してちょうだい?」
「アリスからキスしてくれたら許せそう」
ウィリアムが目を閉じ、こちらを向いて言った。「ん」といって唇を突き出す姿がかわいらしい。アリスは照れながらも、目を閉じて彼の唇にキスをした。
「機嫌、直ったかしら?」
「うん。直った」
嬉しそうに蜂蜜色の目を細める夫に愛おしさが溢れる。アリスは体を横に傾け、ウィリアムの肩に体重をかけた。
「アリス、どうかな。この前の話……考えてみてくれた?」
「ええ、でも……」
考えは変わらなかった。夫人たちから子供の話を聞いたり、保育所のことで領地の母親たちと関わるうちに、むしろ自分の子供が欲しいと強く思うようになってしまった。ただ、これをどう切り出せばいいものか、と思うと考えはまとまらず、話すに至らなかったのだ。
「そうか。そうだよね……」
ウィリアムがため息混じりに呟く。どうやら彼も同じようだ。引き続き話は平行線。アリスは領地の問題が良い方に進むように、自分たちの問題もどうにかならないかと頭を抱えていた——。
>>続く
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