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第九章 幕引き

225、閉廷

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「判決、被告人ジョルジュ・ペリドットと妻エヴァ・ペリドットを有罪とする。しかし事件には多くの疑問が残り、引き続き審理が必要と判断した。ペリドット夫妻は収監し、審理が全て終わり刑が確定するまでは奉仕活動をすること」

 騒がしくなる傍聴席を副裁判官が抑え込む。もう何度目だろう。オリビアは証言席に並び立ち判決を聞くペリドット夫妻に目を向ける。

「被告人は判決や刑罰に異議があるか?」

「いいえ、ありません。ありがとうございますっ」

 夫のジョルジュはひとまず極刑を免れた安堵からか、涙を流しながら裁判席を見上げ返事をした。妻のエヴァは表情を一切変えることなく、前を見ている。だが、彼女の目元が一瞬だけぴくぴくと引きつった。その仕草にオリビアの胸はざわつき、嫌な予感がした。

「異議があります」

「判決は不服かね、ペリドット夫人?」

 国王が優しい口調でエヴァに問いかけた。彼女は虚な瞳で上方を見上げる。

「はい。私は生まれてからも、子供の頃も、大人になってからも、自分の人生に自由も選択肢もありませんでした。だから……」

 オリビアは裁判席を見ていたはずのエヴァと目が合った。彼女の夫越しでわからないが、彼女はこちらを見て笑っていたように見える。

「ぐう!!」

「きゃあああ!!」

 呻き声とともに、オリビアとエヴァを隔てていたペリドット伯爵の姿が見えなくなった。傍聴席から悲鳴が聞こえる。エヴァの手が真っ赤に染まっていた。

「死ぬ時くらい、自分で決める!」

「オリビア嬢! 見るな!!」

 隣にいたリアムに抱きしめられ、オリビアの視界は暗くなった。エヴァの声と貴族たちの悲鳴が耳に突き刺さる。一体何が起きたのか。予想はついていたし間違いはなさそうだが、知りたくないという気持ちが理解の妨げになる。

「リアム様、離してください」

「だめだ、しばらくこうしていなさい。見てはいけない」

 身動きできないほど強い力。オリビアは恋人が自分を守ろうと必死になっていることに感謝した。そして同時に、この事件の証人としてことの顛末を確かめなければいけないと思った。

「リアム様、何が起きたのかは見当がついています。どうか離してください」

「しかし」

「大丈夫です。手を、握っていてくださいますか?」

 渋々、といった様子でリアムの腕が緩む。証言席には真っ赤な血溜まりと、その上にペリドット夫妻がうつ伏せで倒れている。ふたりは全く動く気配がない。エヴァの傍には、銀色の短剣が血に塗れていた。

「リアム様、回復魔法は……」

「法廷には魔封じが施されていて、誰も魔法が使えないんだ」

 リアムが俯いて首を横に振った。オリビアも知っていた。不正防止のために裁判所では魔法が使えないことを。医務室もあり医者もいるが、きっともう間に合わないことも。

「静粛に! 皆さん席を立たずに法廷から出てはいけません! 騎士団の到着を待ってください!」

 副裁判官の声が法廷内に響く。混乱の中、ペリドット夫妻の裁判はあっけなく終わりを迎えたのだった。

>>続く
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