184 / 230
第七章 オリビアの魔法
185、番外編3 シュワちゃん様と繋がるとき
しおりを挟む
「それにしても不思議。私とノアの時間はまだ転移してから一年ちょっとしか経ってないのに、そっちでは八十年近く経ってるなんて」
「確かに、驚きだわ」
ステファニーと繋がったあの日から、オリビアはたまに彼女と通信し、連絡を取り合うようになった。彼女を愛称の「ステフ」と呼び、姉のように慕った。
教会では確かに新たな魔法に目覚めていることは確認できたが、結局魔法の詳細はよくわからないままだ。またオリビアは魔力が少なく長時間の魔法保持が困難なため、ステファニーとの時間はわずかだったが、自分の知らない世界を垣間見ることができるこの時間はとても刺激的なものだった。
「ねえステフ。ところでこのハピ天てアプリは何かしら? 道具を買えるようなことが書いてあるのだけれど……」
「ああ、そうよ。お店に行かなくても買い物ができて、買ったものは家まで届けてもらえるの」
オリビアはステファニーに教わりながらタブレットを使いこなし、彼女の世界の言葉も理解し始めていた。タブレットの中のアプリを操作して遊んだり、異界の知識を取り込んだりと楽しい毎日を送っている。
「すごいわ! 私も何か買えないかしら?」
「う~ん。本当は異界のものをそっちに横流しするのはいただけないところだけど……。ほどほどにならいいんじゃない? アカウント作ってあげるね~」
「やった! ありがとうステフ!」
ステファニーとの約束で、ジュエリトスで生産が可能なもの限定で買い物を許されたオリビア。特定の魔法が必要だったりコストの問題で出回ってはいないが意外にもほとんどの品物がジュエリトスで生産可能とわかる。そこでオリビアは衣類や化粧品を仕入れ、兄がオープンさせた店で販売し成功を収めた。
物の取引の量が増えたのでステファニーと協力し、異界との繋がりは引き出しから大きなクローゼットに変更し、さらに秘密を守るため隠し部屋を作った。
領地運営も順調に進む中、オリビアはついに彼と出会う。
「あ、そうそう。映画を何本かダウンロードしといたよ~。私明日からノアと旅行で連絡取れなくなるから、暇だったら見てみなよ」
「エイガってなに?」
オリビアは初めて聞く単語に首を傾げた。
「ああ、そこからか~。演劇とかもないものね。そうだ、吟遊詩人はわかる?」
「うん、それなら……」
「あれって物語や実際にあったことを人が歌うじゃない。こちらでの映画や演劇っていうのはそれを何人かで登場人物になりきってお話を一つの作品として残すものよ。だからもし誰かがケガしたり死んだりしてもそれはそう見せているだけだからね。安心して見てよ。オリビアが気に入りそうなの選んでおいたし!」
「ありがとう」
翌日、オリビアはタブレットで映画を見ることにした。タブレットを操作してダウンロードされているいくつかの映画から、おすすめと言われていたタイトルを選ぶ。
「嘘でしょう……なにこの人、すっごく素敵……」
画面の中では、筋肉隆々の男性がカップルを惨殺していた。
オリビアは彼の太くしっかりした首から肩、逞しい腕などにすっかり心を奪われる。
完全に悪役のその男性が実は生身の人間役ではないとわかっても、途中の表皮がなくなってしまうシーンや最後の爆破され木っ端微塵になるシーンには涙した。
「どうしよう、死んじゃった……。戻ってくるって言ってたけど本当かしら?」
オリビアはステファニーが旅行から戻ったのち、この映画に出演した悪役「シュワちゃん様」について質問責めにした。そしてその日から彼の出演作やSNSを追いかけ、最終的には魔力切れで寝込むこととなる。それでも懲りないオリビアは、筋肉が素晴らしい俳優を見つけてはうっとりと映画の世界に浸り、ついに屋敷で働く護衛達を肉体改造すべく動き出す。
オリビアはハピ天で各種トレーニングマシーンやプロテインを購入し、護衛達の肉体改造に成功、さらにはマッチョカフェ開業に漕ぎ着けたのだ。
「ま、私にはよくわかんない趣味だけど……いつかオリビアにもマッチョな恋人ができるといいね!」
「ありがとうステフ。けれどジュエリトスでは難しいでしょうね。私も一応貴族の端くれだから結婚相手も貴族だろうし。結婚と筋肉は別。そう思って生きていくわ」
結婚や恋愛に全く興味がなかったオリビアが理想の男性と婚約するのは、それから約三年後のお話。
終わり
>>第八章へ続く
さらっと番外編でした!
結婚と筋肉は別。
ただそう言わせたかっただけです(笑)
引き続き本編もよろしくお願いします☺️
「確かに、驚きだわ」
ステファニーと繋がったあの日から、オリビアはたまに彼女と通信し、連絡を取り合うようになった。彼女を愛称の「ステフ」と呼び、姉のように慕った。
教会では確かに新たな魔法に目覚めていることは確認できたが、結局魔法の詳細はよくわからないままだ。またオリビアは魔力が少なく長時間の魔法保持が困難なため、ステファニーとの時間はわずかだったが、自分の知らない世界を垣間見ることができるこの時間はとても刺激的なものだった。
「ねえステフ。ところでこのハピ天てアプリは何かしら? 道具を買えるようなことが書いてあるのだけれど……」
「ああ、そうよ。お店に行かなくても買い物ができて、買ったものは家まで届けてもらえるの」
オリビアはステファニーに教わりながらタブレットを使いこなし、彼女の世界の言葉も理解し始めていた。タブレットの中のアプリを操作して遊んだり、異界の知識を取り込んだりと楽しい毎日を送っている。
「すごいわ! 私も何か買えないかしら?」
「う~ん。本当は異界のものをそっちに横流しするのはいただけないところだけど……。ほどほどにならいいんじゃない? アカウント作ってあげるね~」
「やった! ありがとうステフ!」
ステファニーとの約束で、ジュエリトスで生産が可能なもの限定で買い物を許されたオリビア。特定の魔法が必要だったりコストの問題で出回ってはいないが意外にもほとんどの品物がジュエリトスで生産可能とわかる。そこでオリビアは衣類や化粧品を仕入れ、兄がオープンさせた店で販売し成功を収めた。
物の取引の量が増えたのでステファニーと協力し、異界との繋がりは引き出しから大きなクローゼットに変更し、さらに秘密を守るため隠し部屋を作った。
領地運営も順調に進む中、オリビアはついに彼と出会う。
「あ、そうそう。映画を何本かダウンロードしといたよ~。私明日からノアと旅行で連絡取れなくなるから、暇だったら見てみなよ」
「エイガってなに?」
オリビアは初めて聞く単語に首を傾げた。
「ああ、そこからか~。演劇とかもないものね。そうだ、吟遊詩人はわかる?」
「うん、それなら……」
「あれって物語や実際にあったことを人が歌うじゃない。こちらでの映画や演劇っていうのはそれを何人かで登場人物になりきってお話を一つの作品として残すものよ。だからもし誰かがケガしたり死んだりしてもそれはそう見せているだけだからね。安心して見てよ。オリビアが気に入りそうなの選んでおいたし!」
「ありがとう」
翌日、オリビアはタブレットで映画を見ることにした。タブレットを操作してダウンロードされているいくつかの映画から、おすすめと言われていたタイトルを選ぶ。
「嘘でしょう……なにこの人、すっごく素敵……」
画面の中では、筋肉隆々の男性がカップルを惨殺していた。
オリビアは彼の太くしっかりした首から肩、逞しい腕などにすっかり心を奪われる。
完全に悪役のその男性が実は生身の人間役ではないとわかっても、途中の表皮がなくなってしまうシーンや最後の爆破され木っ端微塵になるシーンには涙した。
「どうしよう、死んじゃった……。戻ってくるって言ってたけど本当かしら?」
オリビアはステファニーが旅行から戻ったのち、この映画に出演した悪役「シュワちゃん様」について質問責めにした。そしてその日から彼の出演作やSNSを追いかけ、最終的には魔力切れで寝込むこととなる。それでも懲りないオリビアは、筋肉が素晴らしい俳優を見つけてはうっとりと映画の世界に浸り、ついに屋敷で働く護衛達を肉体改造すべく動き出す。
オリビアはハピ天で各種トレーニングマシーンやプロテインを購入し、護衛達の肉体改造に成功、さらにはマッチョカフェ開業に漕ぎ着けたのだ。
「ま、私にはよくわかんない趣味だけど……いつかオリビアにもマッチョな恋人ができるといいね!」
「ありがとうステフ。けれどジュエリトスでは難しいでしょうね。私も一応貴族の端くれだから結婚相手も貴族だろうし。結婚と筋肉は別。そう思って生きていくわ」
結婚や恋愛に全く興味がなかったオリビアが理想の男性と婚約するのは、それから約三年後のお話。
終わり
>>第八章へ続く
さらっと番外編でした!
結婚と筋肉は別。
ただそう言わせたかっただけです(笑)
引き続き本編もよろしくお願いします☺️
0
お気に入りに追加
68
あなたにおすすめの小説
ご落胤じゃありませんから!
実川えむ
恋愛
レイ・マイアール、十六歳。
黒い三つ編みの髪に、長い前髪。
その下には、黒ぶちのメガネと、それに隠れるようにあるのは、金色の瞳。
母さまが亡くなってから、母さまの親友のおじさんのところに世話になっているけれど。
最近急に、周りが騒々しくなってきた。
え? 父親が国王!? ありえないからっ!
*別名義で書いてた作品を、設定を変えて校正しなおしております。
*不定期更新
*カクヨム・魔法のiらんどでも掲載中
【本編完結】五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです!
七海美桜
恋愛
フーゲンベルク大陸で、長く大陸の大半を治めていたバッハシュタイン王国で、最後の古龍への生贄となった第三王女のヴェンデルガルト。しかしそれ以降古龍が亡くなり王国は滅びバルシュミーデ皇国の治世になり二百年後。封印されていたヴェンデルガルトが目覚めると、魔法は滅びた世で「治癒魔法」を使えるのは彼女だけ。亡き王国の王女という事で城に客人として滞在する事になるのだが、治癒魔法を使える上「金髪」である事から「黄金の魔女」と恐れられてしまう。しかしそんな中。五人の美青年騎士団長たちに溺愛されて、愛され過ぎて困惑する毎日。彼女を生涯の伴侶として愛する古龍・コンスタンティンは生まれ変わり彼女と出逢う事が出来るのか。龍と薔薇に愛されたヴェンデルガルトは、誰と結ばれるのか。
この作品は、小説家になろうにも掲載しています。
騎士様に愛されたい聖女は砂漠を行く ~わがまま王子の求婚はお断り!推しを求めてどこまでも~
きのと
恋愛
大好きな小説の登場人物、美貌の聖女レイシーに生まれ変わった私。ワガママ王子の求婚を振り切って、目指すは遥か西、灼熱の砂漠の国。
そこには最愛の推しキャラ、イケメン騎士のサリッド・アル=アスカリーがいる。私の目的はただ一つ、彼の心を射止めること。前世の知識を駆使して、サリッドの旅に同行することに成功。恋愛テクニックで彼の気を引くつもりが、逆にきゅんきゅんさせられてしまったり。それでも確実に二人の距離は縮まっていった。サリッドが忠誠を捧げた国王陛下までも味方につけ、順風満帆!……だったはずが、とんでもない邪魔が!なんとワガママ王子が旅についてくるという。果たしてこの恋、成就できるの?
親友に裏切られた侯爵令嬢は、兄の護衛騎士から愛を押し付けられる
当麻月菜
恋愛
侯爵令嬢のマリアンヌには二人の親友がいる。
一人は男爵令嬢のエリーゼ。もう一人は伯爵令息のレイドリック。
身分差はあれど、3人は互いに愛称で呼び合い、まるで兄弟のように仲良く過ごしていた。
そしてマリアンヌは、16歳となったある日、レイドリックから正式な求婚を受ける。
二つ返事で承諾したマリアンヌだったけれど、婚約者となったレイドリックは次第に本性を現してきて……。
戸惑う日々を過ごすマリアンヌに、兄の護衛騎士であるクリスは婚約破棄をやたら強く進めてくる。
もともと苦手だったクリスに対し、マリアンヌは更に苦手意識を持ってしまう。
でも、強く拒むことができない。
それはその冷たい態度の中に、自分に向ける優しさがあることを知ってしまったから。
※タイトル模索中なので、仮に変更しました。
※2020/05/22 タイトル決まりました。
※小説家になろう様にも重複投稿しています。(タイトルがちょっと違います。そのうち統一します)
紡織師アネモネは、恋する騎士の心に留まれない
当麻月菜
恋愛
人が持つ記憶や、叶えられなかった願いや祈りをそっくりそのまま他人の心に伝えることができる不思議な術を使うアネモネは、一人立ちしてまだ1年とちょっとの新米紡織師。
今回のお仕事は、とある事情でややこしい家庭で生まれ育った侯爵家当主であるアニスに、お祖父様の記憶を届けること。
けれどアニスはそれを拒み、遠路はるばるやって来たアネモネを屋敷から摘み出す始末。
途方に暮れるアネモネだけれど、ひょんなことからアニスの護衛騎士ソレールに拾われ、これまた成り行きで彼の家に居候させてもらうことに。
同じ時間を共有する二人は、ごく自然に惹かれていく。けれど互いに伝えることができない秘密を抱えているせいで、あと一歩が踏み出せなくて……。
これは新米紡織師のアネモネが、お仕事を通してちょっとだけ落ち込んだり、成長したりするお話。
あるいは期間限定の泡沫のような恋のおはなし。
※小説家になろう様にも、重複投稿しています。
【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。
クラヴィスの華〜BADエンドが確定している乙女ゲー世界のモブに転生した私が攻略対象から溺愛されているワケ〜
アルト
恋愛
たった一つのトゥルーエンドを除き、どの攻略ルートであってもBADエンドが確定している乙女ゲーム「クラヴィスの華」。
そのゲームの本編にて、攻略対象である王子殿下の婚約者であった公爵令嬢に主人公は転生をしてしまう。
とは言っても、王子殿下の婚約者とはいえ、「クラヴィスの華」では冒頭付近に婚約を破棄され、グラフィックは勿論、声すら割り当てられておらず、名前だけ登場するというモブの中のモブとも言えるご令嬢。
主人公は、己の不幸フラグを叩き折りつつ、BADエンドしかない未来を変えるべく頑張っていたのだが、何故か次第に雲行きが怪しくなって行き────?
「────婚約破棄? 何故俺がお前との婚約を破棄しなきゃいけないんだ? ああ、そうだ。この肩書きも煩わしいな。いっそもう式をあげてしまおうか。ああ、心配はいらない。必要な事は俺が全て────」
「…………(わ、私はどこで間違っちゃったんだろうか)」
これは、どうにかして己の悲惨な末路を変えたい主人公による生存戦略転生記である。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる