上 下
107 / 230
第四章 ふたりは恋人! オリビア&リアム

108、レオンの策略(後編)2

しおりを挟む
 父の言葉を思い出しながら今後の展開について考えを巡らせる。すると、コンコンとドアをノックする音が聞こえ、レオンはドアに向かって「どうぞ」と声をかけた。

「失礼いたします」

「やあ、オリビア嬢。待っていたよ。空いている席に座って」

「はい……」

 レオンはオリビアに笑顔を向ける。彼女は苛立ちを表に出すまいと唇を固く結び、一番遠くの席についた。

「早速ですがレオン殿下、お話ししたいことがございます」

「ああ、君の婚約の件だね?」

 自分を必死に睨みつけながら、いつもより低い声で話を切り出すオリビアを、レオンは余裕の笑みで受け止めた。彼女の苛立ちがまた募ったのを感じる。
 しかし今回は彼女を怒らせることが目的ではない。立ち上がり、オリビアに向かって歩き出す。

「わかっているということは、やはり……! レオン殿下?」

 レオンはオリビアの席まで歩くと深々と直角に体を折り、頭を下げた。王族が軽々しく頭を下げるなど、公の場では許されない行為だ。頭上から自分の名を呼ぶオリビアの声も狼狽え、わずかに震えていた。

「本当に申し訳ない! 父が君たちの婚約をすぐに許可しなかったのは僕のせいだ!」

「レオン殿下、頭を上げてください!」

「こうする以外、君に誠意を伝える方法が思いつかない……。殴っても罵っても構わない、本当に申し訳ない……。」

 ガタガタと椅子の揺れる音がする。オリビアが慌てて立ち上がったのだろうとレオンは予想した。つかみは上々だ。しっかり頭を下げながら、レオンは状況を冷静に分析していた。

「レオン殿下……。まずは頭を上げて、事情をご説明いただけませんか?」

「ああ、ありがとう、オリビア嬢。僕の話を聞いてくれるんだね?」

「はい。一体どういうことなのでしょうか?」

 レオンは目に涙を浮かべながら、オリビアの隣の席に座った。オリビアも席についたタイミングで、自分の用意した話を展開し始める。

「実は、先日君とリアム・アレキサンドライトの婚約申し込みの書簡が父の元に届いた。それで僕は父に呼び出しされたんだ……ちょうど、リアムの弟サイラスが遊びにきていた日だ。彼とは昔からの友人でね」

「はい、サイラス様からもそう聞いております」

「そう……。あの日、僕はサイラスと別れ父の書斎へ行った。そこで君のことを聞かれたんだ。父は僕が君とダンスしたことを知っていた。誤解がないように年頃の令嬢とは踊らないことにしているのも知っている。どうやらそれで僕が君を想っていると勘違いしたみたいで……。君のことをどう思っているのか聞かれたよ」

「そうですか……」

「それで、僕も「素敵な女性で興味深いですが、彼女はすでに婚約予定だから手が届かない」と言ってしまったんだ。そうしたら父が「それなら一旦婚約を保留にするから君にチャンスをもらえ」と……。本当にすまない! 父にもそんなことしなくていいと言ったが聞き入れてもらえなかったんだ」

「そんな……」

 レオンは目の前でやや俯き瞳を曇らせているオリビアを見て、自分の話を信じてもらえたことに安堵する。第一段階はうまくいきそうだ。引き続き昨夜から考えていたセリフを口にする。

「二ヶ月……。二ヶ月、待ってくれないか」

>>続く
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ご落胤じゃありませんから!

実川えむ
恋愛
レイ・マイアール、十六歳。 黒い三つ編みの髪に、長い前髪。 その下には、黒ぶちのメガネと、それに隠れるようにあるのは、金色の瞳。 母さまが亡くなってから、母さまの親友のおじさんのところに世話になっているけれど。 最近急に、周りが騒々しくなってきた。 え? 父親が国王!? ありえないからっ! *別名義で書いてた作品を、設定を変えて校正しなおしております。 *不定期更新 *カクヨム・魔法のiらんどでも掲載中

騎士様に愛されたい聖女は砂漠を行く ~わがまま王子の求婚はお断り!推しを求めてどこまでも~

きのと
恋愛
大好きな小説の登場人物、美貌の聖女レイシーに生まれ変わった私。ワガママ王子の求婚を振り切って、目指すは遥か西、灼熱の砂漠の国。 そこには最愛の推しキャラ、イケメン騎士のサリッド・アル=アスカリーがいる。私の目的はただ一つ、彼の心を射止めること。前世の知識を駆使して、サリッドの旅に同行することに成功。恋愛テクニックで彼の気を引くつもりが、逆にきゅんきゅんさせられてしまったり。それでも確実に二人の距離は縮まっていった。サリッドが忠誠を捧げた国王陛下までも味方につけ、順風満帆!……だったはずが、とんでもない邪魔が!なんとワガママ王子が旅についてくるという。果たしてこの恋、成就できるの?

【本編完結】五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです!

七海美桜
恋愛
フーゲンベルク大陸で、長く大陸の大半を治めていたバッハシュタイン王国で、最後の古龍への生贄となった第三王女のヴェンデルガルト。しかしそれ以降古龍が亡くなり王国は滅びバルシュミーデ皇国の治世になり二百年後。封印されていたヴェンデルガルトが目覚めると、魔法は滅びた世で「治癒魔法」を使えるのは彼女だけ。亡き王国の王女という事で城に客人として滞在する事になるのだが、治癒魔法を使える上「金髪」である事から「黄金の魔女」と恐れられてしまう。しかしそんな中。五人の美青年騎士団長たちに溺愛されて、愛され過ぎて困惑する毎日。彼女を生涯の伴侶として愛する古龍・コンスタンティンは生まれ変わり彼女と出逢う事が出来るのか。龍と薔薇に愛されたヴェンデルガルトは、誰と結ばれるのか。 この作品は、小説家になろうにも掲載しています。

親友に裏切られた侯爵令嬢は、兄の護衛騎士から愛を押し付けられる

当麻月菜
恋愛
侯爵令嬢のマリアンヌには二人の親友がいる。 一人は男爵令嬢のエリーゼ。もう一人は伯爵令息のレイドリック。 身分差はあれど、3人は互いに愛称で呼び合い、まるで兄弟のように仲良く過ごしていた。 そしてマリアンヌは、16歳となったある日、レイドリックから正式な求婚を受ける。 二つ返事で承諾したマリアンヌだったけれど、婚約者となったレイドリックは次第に本性を現してきて……。 戸惑う日々を過ごすマリアンヌに、兄の護衛騎士であるクリスは婚約破棄をやたら強く進めてくる。 もともと苦手だったクリスに対し、マリアンヌは更に苦手意識を持ってしまう。 でも、強く拒むことができない。 それはその冷たい態度の中に、自分に向ける優しさがあることを知ってしまったから。 ※タイトル模索中なので、仮に変更しました。 ※2020/05/22 タイトル決まりました。 ※小説家になろう様にも重複投稿しています。(タイトルがちょっと違います。そのうち統一します)

紡織師アネモネは、恋する騎士の心に留まれない

当麻月菜
恋愛
人が持つ記憶や、叶えられなかった願いや祈りをそっくりそのまま他人の心に伝えることができる不思議な術を使うアネモネは、一人立ちしてまだ1年とちょっとの新米紡織師。 今回のお仕事は、とある事情でややこしい家庭で生まれ育った侯爵家当主であるアニスに、お祖父様の記憶を届けること。 けれどアニスはそれを拒み、遠路はるばるやって来たアネモネを屋敷から摘み出す始末。 途方に暮れるアネモネだけれど、ひょんなことからアニスの護衛騎士ソレールに拾われ、これまた成り行きで彼の家に居候させてもらうことに。 同じ時間を共有する二人は、ごく自然に惹かれていく。けれど互いに伝えることができない秘密を抱えているせいで、あと一歩が踏み出せなくて……。 これは新米紡織師のアネモネが、お仕事を通してちょっとだけ落ち込んだり、成長したりするお話。 あるいは期間限定の泡沫のような恋のおはなし。 ※小説家になろう様にも、重複投稿しています。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

クラヴィスの華〜BADエンドが確定している乙女ゲー世界のモブに転生した私が攻略対象から溺愛されているワケ〜

アルト
恋愛
たった一つのトゥルーエンドを除き、どの攻略ルートであってもBADエンドが確定している乙女ゲーム「クラヴィスの華」。 そのゲームの本編にて、攻略対象である王子殿下の婚約者であった公爵令嬢に主人公は転生をしてしまう。 とは言っても、王子殿下の婚約者とはいえ、「クラヴィスの華」では冒頭付近に婚約を破棄され、グラフィックは勿論、声すら割り当てられておらず、名前だけ登場するというモブの中のモブとも言えるご令嬢。 主人公は、己の不幸フラグを叩き折りつつ、BADエンドしかない未来を変えるべく頑張っていたのだが、何故か次第に雲行きが怪しくなって行き────? 「────婚約破棄? 何故俺がお前との婚約を破棄しなきゃいけないんだ? ああ、そうだ。この肩書きも煩わしいな。いっそもう式をあげてしまおうか。ああ、心配はいらない。必要な事は俺が全て────」 「…………(わ、私はどこで間違っちゃったんだろうか)」 これは、どうにかして己の悲惨な末路を変えたい主人公による生存戦略転生記である。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...