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第三章 アレキサンドライト領にて

91、デートがはじまる2

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「ほとんどってことは、見たことはあるんだ?」

 オリーブが「はあ」と声に出すようにはっきりとため息をつくのを見て、ジョージはニヤリと白い歯を覗かせた。
 やっぱり彼女に聞いてよかった。
 女将になる前は街にいくつかあった娼館の娼婦たちの頂点に立っていた元高級娼婦オリーブ。王都に住む高位な貴族や王族の縁者などが、あの辺境の領地に彼女に会うためにわざわざ会いにきていたのは噂ではなく事実だ。

「アンタって子は……。言っておくけど、今も取り扱いがあるかはわからないし、一見じゃ売ってもらえないよ」

「充分だ。お嬢様からドレスや小物を仕立てていいって言われてる。姐さんにプレゼントさせてよ」

「遠慮しないよ。それだけの価値があるからねえ。ところで、小娘ちゃんと黒豹ちゃんは元気かい?」

「ああ、相変わらずだよ」

 小娘はオリビア、黒豹はリタのことだ。領主の娘とその侍女をそう呼べるのは領地内ではオリーブだけだろう。ジョージはビールを一口飲みながら頷いた。

「へえ、小娘ちゃんだけど……二股疑惑があるんだって?」

「おおっと。人聞き悪いなあ。一体どこで?」

「情報源を明かすなんてバカやるわけないだろ? けど恋愛の「れ」の字も知らないような小娘ちゃんには無理な話だよねえ」

「おっしゃる通り。まあ最近「れ」の字くらいは知ったみたいだけど」

 ジョージはそう言ってビールを煽り、瓶から琥珀色の液体を飲み干す。
 オリーブが「ふうん」と言って赤い唇を開いた。
 少ない情報を瞬時に繋ぎ合わせる頭の回転の速さ。彼女には一生頭があがらないなとジョージは思った。

「じゃあ本命は領地で見かけた厳つい美丈夫だね。あの赤い髪は……ルビー公爵家かアレキサンドライト公爵家よね。玉の輿じゃないか」

「その辺はまだ内緒ね。さて、もうひとつお願いがあるんだけどいい?」

「新しいレースの手袋」

「抜かりないねえ。わかったよ」

「素直でいい子だねえ、ジョージ。で、願い事ってのはなんだい?」

 オリーブが口角を上げグラスに口をつけ、空にした。彼女からグラスを受け取り、自分の瓶を一緒に持って一旦席を立つ。

「待ってて。姐さん、同じのでいい?」

「ああ、気がきくねえ」

「それほどでもあります。なんたって姐さん仕込みだからね」

 ジョージはカウンターへ向かい、店員から酒のおかわりをもらってオリーブの元へ戻った。彼女にカクテルの入ったグラスを渡し着席する。

「実は領地の人の流れを確認したい。お店の子たちに、なるべく「どこから来たか」と「なぜこの領地と店を選んだのか」を聞くように伝えてほしい。姐さんはそれを集計しといてくれない?」

「なるほど……。ちなみにどこから来た客がいると嬉しいんだい?」

 またもオリーブがお願い事の真の目的に気づいたとジョージは判断し、小さく笑みを浮かべた。そして、まっすぐ正面の彼女を見つめた。

「例えば国外の人とか? 近くでいいんだ、例えば……マルズワルトとか」

「……わかった。伝えておくよ」

「さっすが姐さん、頼りになるよ」

 ジョージはオリーブと本日二度目の乾杯をするべく、麦酒の瓶をグラスに寄せた。

>>続く
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