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第二章 王都にお引越し! クラスメイトは王子様
68、名探偵オリビア4
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「オリビア様、ただいま戻りました」
「リタ! おかえりなさい」
放課後。空腹だというジョージに食堂へと連れ出されたオリビアの元に、帰宅したリタが挨拶にやってきた。
大規模お見合い会場の貴族学院では男女の寮が完全に分かれており出入りは禁じられている。そのため放課後は食堂、談話室、クラブ棟が生徒たちの出会いと交流の場となっていた。
授業が終われば従者たちも出入りが可能となる。
「本日はお休みをいただきありがとうございます」
「当然の権利よ。どう? 楽しめた?」
深々と頭を下げるリタに、オリビアは笑顔で声をかけた。すると顔を上げ「はい」と言う彼女の表情がいつもとは違うことに気づいた。
この表情は、今までも何度か見たことがある。いつだったか思い返す。オリビアは記憶を遡って視線を頭の上方へ持っていった。
そして思い出した。口の端を上げ、含み笑いでリタを見つめる。
「なるほど……何かいいことがあったわね。もしかしてエルの店に行った?」
「は、はい……。偶然会って、そのあと彼の店に行きました」
肌の色が褐色なのでわかりにくいが、リタは明らかに頬を染めていた。
まるで自分の兄でリタ憧れの男性エリオットと話している時のようだ。
こうなるとオリビアは根掘り葉掘り聞かずにはいられない。ちらりと横目でジョージを見ると、同じようにニヤニヤと薄ら笑いを浮かべていた。
「へえ、偶然ねえ……」
「ほ、本当に偶然なんです! あ、これはエルからのお土産です!」
リタが真っ赤な顔でオリビアに紙の箱を差し出した。オリビアは笑みを浮かべたまま受け取り、箱を開けた。
「ありがとう、開けるわね。何かしら……。あ、アップルパイ? 美味しそう!」
「え、俺のもある?」
すかさずジョージも箱を覗き込む。中にはアップルパイが二つ入っていた。甘酸っぱい香りがオリビアとジョージの鼻腔をくすぐる。
「二人でどうぞ。今度、感想を聞かせてほしいと言っていました」
「嬉しい! じゃあ早速いただきましょう!」
「やったね! いただきまーす!」
オリビアは早速フォークでアップルパイを口へ運んだ。
甘く爽やかなリンゴとシナモンの香りが口の中に広がる。隣ではジョージが手づかみで一気に半分をほどを口に含み、目を細めていた。
「美味しい! 甘さと爽やかさが絶妙だわ。生地もサクサクだし!」
「んんー。うまい。最高」
「それはよかったです。エルが「また三人で来てください」と言っていましたよ」
リタが笑顔で紅茶を淹れ、オリビアとジョージの前にカップを出した。
彼女の声は心なしか弾んでおり、誰もいなければ鼻歌でも歌い出すのではないかと思うほどだった。オリビアは嬉しそうなリタを見て目元が緩んだ。
「ええ。行きましょう。大丈夫、邪魔にならないよう私とジョージはテーブル席で大人しくしているから」
「オリビア様! な、何をおっしゃるのですか! 邪魔なんてそんな……」
再び顔を真っ赤に染めるリタ。オリビアは彼女の普段はなかなか見せないその表情を微笑ましく思った。
「ふふっ。さあ、お茶を飲んだら行きましょうか。ね、ジョージ」
そう言いながら、オリビアはテーブルに一枚のメモを差し出す。ジョージがメモを見て「了解っす」と言って小さく頷いた。
メモにはこう書かれていた。
『消灯の一時間前に私の部屋に集合。鍵は置いてくること』
>>続く。
「リタ! おかえりなさい」
放課後。空腹だというジョージに食堂へと連れ出されたオリビアの元に、帰宅したリタが挨拶にやってきた。
大規模お見合い会場の貴族学院では男女の寮が完全に分かれており出入りは禁じられている。そのため放課後は食堂、談話室、クラブ棟が生徒たちの出会いと交流の場となっていた。
授業が終われば従者たちも出入りが可能となる。
「本日はお休みをいただきありがとうございます」
「当然の権利よ。どう? 楽しめた?」
深々と頭を下げるリタに、オリビアは笑顔で声をかけた。すると顔を上げ「はい」と言う彼女の表情がいつもとは違うことに気づいた。
この表情は、今までも何度か見たことがある。いつだったか思い返す。オリビアは記憶を遡って視線を頭の上方へ持っていった。
そして思い出した。口の端を上げ、含み笑いでリタを見つめる。
「なるほど……何かいいことがあったわね。もしかしてエルの店に行った?」
「は、はい……。偶然会って、そのあと彼の店に行きました」
肌の色が褐色なのでわかりにくいが、リタは明らかに頬を染めていた。
まるで自分の兄でリタ憧れの男性エリオットと話している時のようだ。
こうなるとオリビアは根掘り葉掘り聞かずにはいられない。ちらりと横目でジョージを見ると、同じようにニヤニヤと薄ら笑いを浮かべていた。
「へえ、偶然ねえ……」
「ほ、本当に偶然なんです! あ、これはエルからのお土産です!」
リタが真っ赤な顔でオリビアに紙の箱を差し出した。オリビアは笑みを浮かべたまま受け取り、箱を開けた。
「ありがとう、開けるわね。何かしら……。あ、アップルパイ? 美味しそう!」
「え、俺のもある?」
すかさずジョージも箱を覗き込む。中にはアップルパイが二つ入っていた。甘酸っぱい香りがオリビアとジョージの鼻腔をくすぐる。
「二人でどうぞ。今度、感想を聞かせてほしいと言っていました」
「嬉しい! じゃあ早速いただきましょう!」
「やったね! いただきまーす!」
オリビアは早速フォークでアップルパイを口へ運んだ。
甘く爽やかなリンゴとシナモンの香りが口の中に広がる。隣ではジョージが手づかみで一気に半分をほどを口に含み、目を細めていた。
「美味しい! 甘さと爽やかさが絶妙だわ。生地もサクサクだし!」
「んんー。うまい。最高」
「それはよかったです。エルが「また三人で来てください」と言っていましたよ」
リタが笑顔で紅茶を淹れ、オリビアとジョージの前にカップを出した。
彼女の声は心なしか弾んでおり、誰もいなければ鼻歌でも歌い出すのではないかと思うほどだった。オリビアは嬉しそうなリタを見て目元が緩んだ。
「ええ。行きましょう。大丈夫、邪魔にならないよう私とジョージはテーブル席で大人しくしているから」
「オリビア様! な、何をおっしゃるのですか! 邪魔なんてそんな……」
再び顔を真っ赤に染めるリタ。オリビアは彼女の普段はなかなか見せないその表情を微笑ましく思った。
「ふふっ。さあ、お茶を飲んだら行きましょうか。ね、ジョージ」
そう言いながら、オリビアはテーブルに一枚のメモを差し出す。ジョージがメモを見て「了解っす」と言って小さく頷いた。
メモにはこう書かれていた。
『消灯の一時間前に私の部屋に集合。鍵は置いてくること』
>>続く。
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