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第一章 クリスタル領で再会
26、空気が読める男、ジョージ3
しおりを挟むリアムの目が点になっていた。おそらく予想外の返答だったのだろう。学院に従者を連れて行けるのは一名のみ。護衛をつけられるのは王族だけだ。ジョージには彼の心情が手に取るようにわかった。
しかしオリビアは全く気付く様子はなく笑顔を浮かべて頷いている。
「はい。従者としてついてくるのはリタだけです。ジョージは生徒として一緒に入学します」
「に、入学? 彼は一体……」
困惑の表情を隠せないリアムを見て、ジョージは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。きっと彼の中の古い記憶を遡っても、自分が貴族だった情報は出てこないのだろう。
何より、ジョージは貴族の証である自家の紋章を、どこにも身につけていない。リアムの視線が自分の服の隅々に突き刺さり気まずくて仕方なかった。
それでもジョージの主人は、この微妙な空気を読むことなくリアムの質問に答えた。
「ああ、ジョージはヘマタイト男爵家の三男ですの。ヘマタイト家は男爵家の中でも領地はないですし、どちらかというと子爵家寄りですので……ご存じないかと思いますが……」
「そうだったのか。それは失礼なことを言った」
ジョージはバツの悪そうな顔で「いいえ」とリアムに軽く会釈をする。
せっかく話がうまく逸れたはずなのに、またもや空気が重くなりかけている。もうこの場から一刻も早く去りたい気持ちだった。しかしここで諦めたら最悪職を失うと自分を奮い立たせた。
「お気になさらず。自分は婚外子ですし、控えめに言っても没落寸前ですから。そんな自分ですが、妹のように思っているお嬢様とリタのために、今さら学生になることにしまして……。お嬢様はアレキサンドライト公の大切な婚約者でもありますので、在学中も全力でお守りいたします」
よくやった。我ながら誤解を解きつつ、主人の婚約者への忠誠を誓うパーフェクトな解答だと、ジョージは今日一番の笑顔をリアムに向けた。彼もホッと息を漏らし、安堵しているようだった。
——恋愛偏差値底辺なジョージの主人が口を開くまでは。
「あら、ジョージが兄なんて嫌だわ。ねえリタ」
「はい。同意します」
「ちょっと、今そういうこと言うとややこしくなるから! 申し訳ありません、アレキサンドライト公」
「いや……気にするな。よくわかった」
射殺すような視線を受け、ジョージは主人とその侍女を少しばかり恨んだ。
>>続く
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