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第二話 ②
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「そういう金子はどうなんだよ?バンド、続けてるんだろ?」
「ドラムは続けてるさ、でもバンドは辞めた。どうも俺の好みに合う奴等がいなくてな。どいつもこいつも音楽を分かってない、カッコだけの奴ばっかりだよ」
つまんねぇんだよなとぼやく金子。その表情は暗いまま。寂しげな目でロックグラスを見つめた。
手の中でグラスを回す。氷がコロコロと音を鳴らした。ウイスキーがいい塩梅で水と混ざり合う。
また思い耽った顔をしてグラスに口を付けた。
「拓也の事、許したらどうだ?アイツだって後悔してるとたずだよ。なぁ金子、お前だって思うところがあるから、未だに会おうとしないんだろ?」
当時、拓也と金子の喧嘩を和樹は側で見ていた。
それぞれの音楽性の食い違い。お互いに譲る事が出来なかった。拘りが強い分、ぶつかってしまう事は仕方ない。しかし、あの時は少し訳が違った。
意固地になった二人はその後仲たがいになった。そして5年が経過。
二人が後悔している事、本当はお互いに関係を修復したい事に和樹は薄々気づいていた。
和樹の問いを遮るように、全然ライブ始まんねぇなと呟く。二人がステージ側に目を遣る。聴衆が騒々しくなっていた。
どうやら今夜のライブに何か問題が発生したらしい。すると一人の男がマイクを取り、店内にいる客へ謝罪を始めた。
「すみません、ドラムが渋滞にはまって開催が遅れてます。折角お越しくださったのにありません」
ペコペコと平謝りする男。聴衆からは大ブーイングが沸き起こり落ち着いていた会場は騒然となった。
「うわっ、まじかよ!やっとの思いで予約したのに」
和樹は思わず心の声が漏らした。酷く残念な顔を浮かべた。金子の説得の為とは言え、和樹自身も楽しみにしていたのだ。
見兼ねた金子は、しょうがねぇだろと和樹を気遣う言葉を掛ける。
「久しぶりにお前にも会えたし、まぁいいよ。本音言えば、生演奏聞けねえのは悔しいけどな」
ニヒルに笑いウイスキーグラスを空にした。
バーテンダーに声を掛ける。
さっきと同じやつを、とウイスキーを再注文した。
「相変わらず酒強いな」
飲むペース早すぎだろ、と笑いながら金子に釘を刺す。和樹のグラスにはまだ半分以上残っていた。
お前が弱いだけだ、と和樹を小馬鹿にして鼻で笑う。金子はまだまだ呑み足りない様子だ。
ステージにさっきの男がまた立つ。マイクを持つとまた話出した。
「度々すみません、ドラマーですが…事故渋滞のようで車が進む気配がないそうです。今夜のライブですが、このままだと開催が難しいです」
事情を説明し本当申し訳ないと頭を下げる。ライブ中止を示唆し、その事を深く陳謝した。その後妙竹林な提案を開示した。
「それでなんですが…この中でJAZZドラムを叩ける方いらっしゃいませんか?もし、良ければの話なんですけど…一緒に演奏しません?」
男は、この緊急事態に急遽ドラマーを募り出した。手を挙げる者はいなかった。聴衆の殆どは聞き手専門のようだ。
「あの人、すげー事言い出したな。面白い発想だな~、即興でバンド組もうなんて」
なぁ?と金子の方に顔を向けた。
本当だな、などという気の利いた言葉は返ってこない。金子の横顔は真剣そのものだった。その口を閉ざしたまま、ただ右手を挙げていた。
店内で反応したのは金子一人のみ。店内の視線が集中した。
和樹は突然の出来事に茫然たる顔をする。
「ありがとうございます。そこのあなた、こちらへお願いします」
男は金子をステージに呼んだ。
「ちょっと、俺、行ってくるわ」
金子は一言告げた。その浮かれた表情、まるでサプライズプレゼントをもらった子供のよう。ステージから目を晒す事無く真っ直ぐと男の元へ向かう。
「ドラムは続けてるさ、でもバンドは辞めた。どうも俺の好みに合う奴等がいなくてな。どいつもこいつも音楽を分かってない、カッコだけの奴ばっかりだよ」
つまんねぇんだよなとぼやく金子。その表情は暗いまま。寂しげな目でロックグラスを見つめた。
手の中でグラスを回す。氷がコロコロと音を鳴らした。ウイスキーがいい塩梅で水と混ざり合う。
また思い耽った顔をしてグラスに口を付けた。
「拓也の事、許したらどうだ?アイツだって後悔してるとたずだよ。なぁ金子、お前だって思うところがあるから、未だに会おうとしないんだろ?」
当時、拓也と金子の喧嘩を和樹は側で見ていた。
それぞれの音楽性の食い違い。お互いに譲る事が出来なかった。拘りが強い分、ぶつかってしまう事は仕方ない。しかし、あの時は少し訳が違った。
意固地になった二人はその後仲たがいになった。そして5年が経過。
二人が後悔している事、本当はお互いに関係を修復したい事に和樹は薄々気づいていた。
和樹の問いを遮るように、全然ライブ始まんねぇなと呟く。二人がステージ側に目を遣る。聴衆が騒々しくなっていた。
どうやら今夜のライブに何か問題が発生したらしい。すると一人の男がマイクを取り、店内にいる客へ謝罪を始めた。
「すみません、ドラムが渋滞にはまって開催が遅れてます。折角お越しくださったのにありません」
ペコペコと平謝りする男。聴衆からは大ブーイングが沸き起こり落ち着いていた会場は騒然となった。
「うわっ、まじかよ!やっとの思いで予約したのに」
和樹は思わず心の声が漏らした。酷く残念な顔を浮かべた。金子の説得の為とは言え、和樹自身も楽しみにしていたのだ。
見兼ねた金子は、しょうがねぇだろと和樹を気遣う言葉を掛ける。
「久しぶりにお前にも会えたし、まぁいいよ。本音言えば、生演奏聞けねえのは悔しいけどな」
ニヒルに笑いウイスキーグラスを空にした。
バーテンダーに声を掛ける。
さっきと同じやつを、とウイスキーを再注文した。
「相変わらず酒強いな」
飲むペース早すぎだろ、と笑いながら金子に釘を刺す。和樹のグラスにはまだ半分以上残っていた。
お前が弱いだけだ、と和樹を小馬鹿にして鼻で笑う。金子はまだまだ呑み足りない様子だ。
ステージにさっきの男がまた立つ。マイクを持つとまた話出した。
「度々すみません、ドラマーですが…事故渋滞のようで車が進む気配がないそうです。今夜のライブですが、このままだと開催が難しいです」
事情を説明し本当申し訳ないと頭を下げる。ライブ中止を示唆し、その事を深く陳謝した。その後妙竹林な提案を開示した。
「それでなんですが…この中でJAZZドラムを叩ける方いらっしゃいませんか?もし、良ければの話なんですけど…一緒に演奏しません?」
男は、この緊急事態に急遽ドラマーを募り出した。手を挙げる者はいなかった。聴衆の殆どは聞き手専門のようだ。
「あの人、すげー事言い出したな。面白い発想だな~、即興でバンド組もうなんて」
なぁ?と金子の方に顔を向けた。
本当だな、などという気の利いた言葉は返ってこない。金子の横顔は真剣そのものだった。その口を閉ざしたまま、ただ右手を挙げていた。
店内で反応したのは金子一人のみ。店内の視線が集中した。
和樹は突然の出来事に茫然たる顔をする。
「ありがとうございます。そこのあなた、こちらへお願いします」
男は金子をステージに呼んだ。
「ちょっと、俺、行ってくるわ」
金子は一言告げた。その浮かれた表情、まるでサプライズプレゼントをもらった子供のよう。ステージから目を晒す事無く真っ直ぐと男の元へ向かう。
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