10 / 13
第二話 ①
しおりを挟む
あの日から六ヶ月間。拓也はバイトに明け暮れていた。
他の人を探す!と、金子に会いたくない一心で和樹の提案を跳ね除けた。ボーカルは元よりドラマーも見つからないまま時間だけが過ぎる。
何も決まらずエレメントはもはやボーカル不在のツーピースバンド。実質活動停止状態だった。
尚人との連絡も付かなくなった。和樹とも連絡は次第に少なくなっていった。SURFに行く事も殆どない。
『引き際が肝心』という言葉が心の中で色を濃くしていった。
「拓也くんお疲れ様」
バイト先である居酒屋の店長である直美は賄い料理を出す。ありがとうございます。と拓也は晩飯に在り付く。
バンドどうなのよ?今一番聞かれたくない事を店長はニコニコしながら質問した。
「まぁ、ぼちぼちです」
そんな訳がなかった。拓也の顔から笑顔が消えた。バンドの事を考えただけで食欲が無くなる。辞めてしまった方が楽かも。などという感情まで過るようになった。
直美はバイトの数が増えた事で何かを察したようだ。拓也の一生懸命に働く姿勢を買っていた。
「ぼちぼちか。っま色々あるわよね~」
無理すんじゃないよ?あたしでよけりゃ話聞くからね。笑顔でそう言うと気を利かせて厨房へ戻っていった。
拓也は釈然としないまま悶々と焼きそばを啜った。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
拓也がそんな事になっているとはつゆ知らず、和樹ら御構い無しに躍起になって動き続けていた。
あの日の夜、拓也に向かってお前の夢は俺の夢だ!などと酔った勢いで言ってしまったが為に引くに引けなくなっていたのだ。
尚人へメールを送り電話も掛けたが音信不通。あれ以来SURFで顔を杯を交わす事もなかった。いつも二人でドンチャンやっているSURFが、今日はまるで葬式の様に静かだった。
金子へも連絡を取るが拓也の名前を出すと会うことを拒絶。食い下がって俺とだけでもいいから久々に会おう!とメールした。
粘った甲斐あって最終的にはお前と会う分には構わないと、約束を漕ぎ着ける事に成功。曲がりなりにも事は進んでいった。
会えればまだ可能性はある!と、和樹はそこに突破口を見出す。そして酒と音楽の力を織り交ぜた方法を案出した。
今日の為にやっとの思いで予約した店。待った期間三ヶ月。和樹は思わず、俺は彼氏か。と自分に突っ込みを入れた。指定した待ち合わせ場所であるJAZZバー" ブルームーン"へ向かった。
JAZZ好きには堪らないこの店。その界隈では知らない者はいない。世界の名高いJAZZプレーヤー達の写真が飾られた装飾、日替わりで色々なバンドが行う生演奏、美味い酒。その全てを楽しめる事が店の売りである。
金子が類を見ない程のJAZZ好きである事、酒好きを知っていた和樹は、予約困難と言われているライブ時間の席を粘りに粘って確保。予約キャンセルの表示が出るのを携帯画面にしがみ付いて得た努力の結果だった。
ここまできたら後は野となれ山となれだ!と、自分を奮い立たせる。
和樹が到着すると金子は既に入り口前に待ちきれない様子で店の入り口からまじまじと店内を眺めていた。
お疲れさん。そう言って肩を叩く。驚いた金子はビクっと身体を震わせて変な声を上げた。
「おぼっ!」
腰を抜かし足を踏み外してよろめく。平常心を装い和樹の方を振り向く。久しぶり、と渋い声で挨拶をした。何事も無かったかのようにクール顔でその場を済まそうとするが目は泳いでいる。
5年振りの再会。多少の心地悪さを感じない訳がない。それは和樹も同じだった。
そうして気不味さを残したまま店の中へと進んだ。
店に入ると予約したカウンター席以外は全て満席。いかに人気が高い店なのかが窺える。
更に夜のライブを聞こうと、ステージ前にはフロアを埋め尽くす程の聴衆が集まっていた。
ステージから少し離れた、一段高い位置にあるバーカウンターの予約席に座る。二人は同じ酒を頼んだ。
ウイスキーとロックアイスの入ったグラスがカウンターに置かれる。二人は手に持ったロックグラスを重ねる。その際に鳴った透明な音色は、二人の再会を祝うかのように重苦しい空気を裂いた。
同じタイミングでテーブルにグラス起き、同じように溜息を吐く。
息の合った行動は思わず二人の頬を緩めた。
「久しぶりだな。元気してたか?」
先に口を開いたのは金子だった。
拓也の一件から連絡を途絶えていたものの、元々仲が良かった和樹との再会は、金子にとっても満更ではない事だった。
「あいも変わらず、サラリーマンやってるよ。勿論、バンドもな」
バンドの話で拓也を思い出した金子は、そうかと一言呟き苦笑い浮かべた。
そしてまた、ウイスキーを口に含むと釈然としない様子で思い耽った。
他の人を探す!と、金子に会いたくない一心で和樹の提案を跳ね除けた。ボーカルは元よりドラマーも見つからないまま時間だけが過ぎる。
何も決まらずエレメントはもはやボーカル不在のツーピースバンド。実質活動停止状態だった。
尚人との連絡も付かなくなった。和樹とも連絡は次第に少なくなっていった。SURFに行く事も殆どない。
『引き際が肝心』という言葉が心の中で色を濃くしていった。
「拓也くんお疲れ様」
バイト先である居酒屋の店長である直美は賄い料理を出す。ありがとうございます。と拓也は晩飯に在り付く。
バンドどうなのよ?今一番聞かれたくない事を店長はニコニコしながら質問した。
「まぁ、ぼちぼちです」
そんな訳がなかった。拓也の顔から笑顔が消えた。バンドの事を考えただけで食欲が無くなる。辞めてしまった方が楽かも。などという感情まで過るようになった。
直美はバイトの数が増えた事で何かを察したようだ。拓也の一生懸命に働く姿勢を買っていた。
「ぼちぼちか。っま色々あるわよね~」
無理すんじゃないよ?あたしでよけりゃ話聞くからね。笑顔でそう言うと気を利かせて厨房へ戻っていった。
拓也は釈然としないまま悶々と焼きそばを啜った。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
拓也がそんな事になっているとはつゆ知らず、和樹ら御構い無しに躍起になって動き続けていた。
あの日の夜、拓也に向かってお前の夢は俺の夢だ!などと酔った勢いで言ってしまったが為に引くに引けなくなっていたのだ。
尚人へメールを送り電話も掛けたが音信不通。あれ以来SURFで顔を杯を交わす事もなかった。いつも二人でドンチャンやっているSURFが、今日はまるで葬式の様に静かだった。
金子へも連絡を取るが拓也の名前を出すと会うことを拒絶。食い下がって俺とだけでもいいから久々に会おう!とメールした。
粘った甲斐あって最終的にはお前と会う分には構わないと、約束を漕ぎ着ける事に成功。曲がりなりにも事は進んでいった。
会えればまだ可能性はある!と、和樹はそこに突破口を見出す。そして酒と音楽の力を織り交ぜた方法を案出した。
今日の為にやっとの思いで予約した店。待った期間三ヶ月。和樹は思わず、俺は彼氏か。と自分に突っ込みを入れた。指定した待ち合わせ場所であるJAZZバー" ブルームーン"へ向かった。
JAZZ好きには堪らないこの店。その界隈では知らない者はいない。世界の名高いJAZZプレーヤー達の写真が飾られた装飾、日替わりで色々なバンドが行う生演奏、美味い酒。その全てを楽しめる事が店の売りである。
金子が類を見ない程のJAZZ好きである事、酒好きを知っていた和樹は、予約困難と言われているライブ時間の席を粘りに粘って確保。予約キャンセルの表示が出るのを携帯画面にしがみ付いて得た努力の結果だった。
ここまできたら後は野となれ山となれだ!と、自分を奮い立たせる。
和樹が到着すると金子は既に入り口前に待ちきれない様子で店の入り口からまじまじと店内を眺めていた。
お疲れさん。そう言って肩を叩く。驚いた金子はビクっと身体を震わせて変な声を上げた。
「おぼっ!」
腰を抜かし足を踏み外してよろめく。平常心を装い和樹の方を振り向く。久しぶり、と渋い声で挨拶をした。何事も無かったかのようにクール顔でその場を済まそうとするが目は泳いでいる。
5年振りの再会。多少の心地悪さを感じない訳がない。それは和樹も同じだった。
そうして気不味さを残したまま店の中へと進んだ。
店に入ると予約したカウンター席以外は全て満席。いかに人気が高い店なのかが窺える。
更に夜のライブを聞こうと、ステージ前にはフロアを埋め尽くす程の聴衆が集まっていた。
ステージから少し離れた、一段高い位置にあるバーカウンターの予約席に座る。二人は同じ酒を頼んだ。
ウイスキーとロックアイスの入ったグラスがカウンターに置かれる。二人は手に持ったロックグラスを重ねる。その際に鳴った透明な音色は、二人の再会を祝うかのように重苦しい空気を裂いた。
同じタイミングでテーブルにグラス起き、同じように溜息を吐く。
息の合った行動は思わず二人の頬を緩めた。
「久しぶりだな。元気してたか?」
先に口を開いたのは金子だった。
拓也の一件から連絡を途絶えていたものの、元々仲が良かった和樹との再会は、金子にとっても満更ではない事だった。
「あいも変わらず、サラリーマンやってるよ。勿論、バンドもな」
バンドの話で拓也を思い出した金子は、そうかと一言呟き苦笑い浮かべた。
そしてまた、ウイスキーを口に含むと釈然としない様子で思い耽った。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
冤罪! 全身拘束刑に処せられた女
ジャン・幸田
ミステリー
刑務所が廃止された時代。懲役刑は変化していた! 刑の執行は強制的にロボットにされる事であった! 犯罪者は人類に奉仕する機械労働者階級にされることになっていた!
そんなある時、山村愛莉はライバルにはめられ、ガイノイドと呼ばれるロボットにされる全身拘束刑に処せられてしまった! いわば奴隷階級に落とされたのだ! 彼女の罪状は「国家機密漏洩罪」! しかも、首謀者にされた。
機械の身体に融合された彼女は、自称「とある政治家の手下」のチャラ男にしかみえない長崎淳司の手引きによって自分を陥れた者たちの魂胆を探るべく、ガイノイド「エリー」として潜入したのだが、果たして真実に辿りつけるのか? 再会した後輩の真由美とともに危険な冒険が始まる!
サイエンスホラーミステリー! 身体を改造された少女は事件を解決し冤罪を晴らして元の生活に戻れるのだろうか?
*追加加筆していく予定です。そのため時期によって内容は違っているかもしれません、よろしくお願いしますね!
*他の投稿小説サイトでも公開しておりますが、基本的に内容は同じです。
*現実世界を連想するような国名などが出ますがフィクションです。パラレルワールドの出来事という設定です。
「鏡像のイデア」 難解な推理小説
葉羽
ミステリー
豪邸に一人暮らしする天才高校生、神藤葉羽(しんどう はね)。幼馴染の望月彩由美との平穏な日常は、一枚の奇妙な鏡によって破られる。鏡に映る自分は、確かに自分自身なのに、どこか異質な存在感を放っていた。やがて葉羽は、鏡像と現実が融合する禁断の現象、「鏡像融合」に巻き込まれていく。時を同じくして街では異形の存在が目撃され、空間に歪みが生じ始める。鏡像、異次元、そして幼馴染の少女。複雑に絡み合う謎を解き明かそうとする葉羽の前に、想像を絶する恐怖が待ち受けていた。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
残響鎮魂歌(レクイエム)
葉羽
ミステリー
天才高校生、神藤葉羽は幼馴染の望月彩由美と共に、古びた豪邸で起きた奇妙な心臓発作死の謎に挑む。被害者には外傷がなく、現場にはただ古いレコード盤が残されていた。葉羽が調査を進めるにつれ、豪邸の過去と「時間音響学」という謎めいた技術が浮かび上がる。不可解な現象と幻聴に悩まされる中、葉羽は過去の惨劇と現代の死が共鳴していることに気づく。音に潜む恐怖と、記憶の迷宮が彼を戦慄の真実へと導く。
暗闇の中の囁き
葉羽
ミステリー
名門の作家、黒崎一郎が自らの死を予感し、最後の作品『囁く影』を執筆する。その作品には、彼の過去や周囲の人間関係が暗号のように隠されている。彼の死後、古びた洋館で起きた不可解な殺人事件。被害者は、彼の作品の熱心なファンであり、館の中で自殺したかのように見せかけられていた。しかし、その背後には、作家の遺作に仕込まれた恐ろしいトリックと、館に潜む恐怖が待ち受けていた。探偵の名探偵、青木は、暗号を解読しながら事件の真相に迫っていくが、次第に彼自身も館の恐怖に飲み込まれていく。果たして、彼は真実を見つけ出し、恐怖から逃れることができるのか?
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる