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「覗きとは違います、これは使命なのです!」※

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私にとって一度の人生とは巨大な時計の振り子のようなものです。
といっても、年若いご主人には分からないかもしれませんね。
その振り子が、何百回も何千回も往復する時間を、私は生きてきたのですから。

……それにしても一度肉体を離れる私たちの現象を、『脱皮』と形容する獣人のセンスはいかがかと思います。
セイゲル様がそう伝えた時のご主人の怒りようが、私には目にみえるようです。


「……ふう」

私は大きく息をつきました。
まだ体が出来たてなので、湿っていて多少気持ちが悪いですが、今度の私は栗毛のようでした。


属性が近しく種族的に上位となる獣人は魂の私の飼い主であり。
人間は意思上での私の飼い主です。
私は獣人世界を存続させることを使命として、この世に生まれ落ちました。

今から八年前の春。
私は人間世界の、供花が少なく参列者も僅かな寂しい、葬儀場の前で足を止めました。 
そこには制服を着た、背の高い少女が立っていました。
涙も言葉もなく硬い表情で、通る人通る人に深々と頭を下げていた、それがご主人でした。





一つの使命を終えた私は、再び人間の世界に向かおうと思いましたが、最後に一目だけご主人の様子を観察してから行くことにしました。
あることが気になっていたからです。

セイゲル様の家に戻り寝室の位置を確かめました。
木登りは得意ではないのですが、建物の隣に物置があり何とか上を目指します。

「………!!」

ご主人の声が聞こえます。
ベランダに到着した私はガラス戸越しに室内の様子を伺いました。

「だから脱皮って言い方は止めて!  シンは爬虫類じゃないって言ってるでしょう」

「あーうん、まあ。  理屈では似たようなモンだけどな。 ところで……お前……大丈夫か?  言ったがシンは死んだわけじゃないし、単に役割を果たしただけだ」

セイゲル様に八つ当たり気味に接しているご主人の目は赤く、顔色も良くありません。
跪き、ご主人を心配そうに見つめるセイゲル様に、ご主人は慌てて俯きました。

「だ、大丈夫です。 セイゲルさんが話してくれましたし……それでシンが納得してるなら」

「ん……あれはそういう習性だ。  飼い主が新しい家族を見付けたら古い体を捨て、また新たな飼い主を探しにいく。 一説によると、犬が去るのは妻側に獣人の子種が宿ってるとか」

「……家族」

ぼんやり呟いたご主人は、しばらく何かを考えるように目を彷徨わせていましたが、やがてそろそろとセイゲル様の肩に手を置きました。

「そう…ですね。 そうなんですね。 セイゲルさんが私の家族なんですね。 わ、私の家族……」

ブツブツ口を動かすご主人をセイゲル様が抱きしめます。

「そうだ。 お前は死ぬまで俺の嫁だからな」

ご主人は安堵して少しばかり顔を綻ばせます。

「セイゲルさん……では、もっと子種を下さい」

セイゲル様は少しの間ご主人に見入っていましたが、やがて夜着を身に着けているご主人の胸に顔を埋めました。

セイゲル様の手が夜着の裾を捲りあげます。
足首からふくらはぎ、腿へと移動をし、ご主人の尻に着くと指先が下着の中へと消えていきます。
小さな声を上げたご主人の背中が、僅かに震えました。

薄い夜着越しに、胸先を吸われたその部分の生地が透けています。
桃色に膨らんだ敏感な粒をセイゲル様は舌先で解し転がします。

「……っ……ふ」

獣人の大きな舌は時おり直接的な刺激を避け、乳房の周りや臍に移動して遊んでいるようでした。

「あっ…そこ、触っ……ちゃ」

ご主人がそんな風に言ったのはおそらく、下着に潜っている指のことでしょう。
夜着の裾から覗いているショーツに割り入っている、セイゲル様の指先がご主人を愛撫しているようです。

つま先立ちになり、セイゲル様に寄りかかって細かく震えるご主人。
豊かな乳房を殿方の顔や肩に擦り付け喘ぐその姿は堪らなく雄を誘うことでしょう。
その証拠に、セイゲル様の男根は既にはちきれんばかりにズボンを持ち上げていました。

「ん……あっ、ぁはあっ…!」

両の眉を眉間にきつく寄せたご主人は絞り出すような喘ぎを漏らしました。

「足を開け。 奥まで慣らすから」

セイゲル様は優しくご主人に囁きましたが、ご主人は首を横に振りました。
足の間を責めているセイゲル様の手はゆっくりですが下からピストン運動をしています。
膣道を刺激しているの指の太さは、かなり小さ目の人間の陰茎という所でしょうか。
それでも、硬く節くれだったそれに責められるのは、少しばかり苦痛なのかもしれません。

「ン……っはぁ、はぁ…っ」

瞼が閉じられたままのご主人の体は明らかに強ばっていました。

「舌のがいいか?」

セイゲル様も気遣ってご主人に訊きます。
ご主人はただ首を横に振りました。

「い……いん……き、気持ち……っです……」

もっと楽な体勢でと思ったのでしょう。 セイゲル様はご主人を引き寄せて横抱きにし自分の膝に乗せました。

「……痛ければちゃんと言えよ」

背中を支えている手を前に回し、やわやわ胸を揉みしだき、入っている指は膣壁を刺激しているのでしょうか。
ひっきりなしにあがる吐息交じりの喘ぎと同時に、ご主人の足先は床の上を意味もなくさ迷ってしまうようです。

「ふ……あっ…はあっ」

それとも両胸を一緒くたに揉まれるのがいいのでしょうか。
ご主人の乳房が頼りなく形を変える際、乳房の先は布地に擦られるだけでなく、自らの乳首同士も擦り合わせてしまうようでした。

「はっ…はぁ、ぁ…あんっ」

そんなことをしているうちに、間もなくご主人の反応が段々と変わってきました。
声を始め、表情や動きに角が取れてトロリとしたさまが見てとれます。
白い肌も、性の快楽によって拡張する血管のお陰で、血色良く色付いていきます。
セイゲル様はそんなご主人に対して根気よく愛撫を加え続けました。


それにしても今日のセイゲル様は、いつものように饒舌でも、獣人らしく荒々しくもありません。

交尾というもの。 それは男女両者において、大変重要な位置を占めるため、私はいつも詳細にそれを観察していました。

ご主人は男性不信気味ですが、他方で、性交に至るまで心を許した相手に対しては、そうでもありません。
むしろ以前お付き合いをしていた人間相手には、若干の物足りなさを感じていたように思えます。
ご主人はセイゲル様と出会うまでは、自慰以外で絶頂を得たことはありませんでした。
こういってはなんですが、ご主人とは実は可愛がられたい願望が強く、ややMよりの性癖なのです。

そういう意味でもセイゲル様は最適で、私は自分の審美眼に改めて信頼を置い────と、考えごとをしている場合かと、はっと気付いたので、再び寝室へと目を移しました。



その時に私は、こちらを見ているセイゲル様とガラス越しに目が合いました。
私の見た目は多少変わりましたが、セイゲル様には特段驚いた様子はなく、ただ片方の口の端を上げただけでした。
いつものように好きにしろ、とでも言いたげな表情でした。

「セイ…ゲルさ……わ、私」

ご主人が蕩けた声をセイゲル様の耳に吹きかけます。
ピク、とセイゲル様の耳が反応しましたがそれを避けるように裏側へと向けました。
その代わりにセイゲル様は、表情に余裕さえ見せてご主人を可愛がります。

「悦くなってきたか。 クリトリスの裏側も腫れてきたな。 ここを舌で押した時も」

「……っひあ!」

「そうやってお前の腰が跳ねていた。 感じやすいお前は可愛い」

顔を下げ、ご主人の髪の生え際やこめかみを舐めるその姿はまるで父娘のようです。
ただしセイゲル様の指はご主人の官能を引き出すのに余念はありません。
夜着の裾がはらりと捲れ、秘部を弄んでいる様子が見えました。
挿入している中指で膣粘膜を刺激し、親指の先はクリトリスの周りをくすぐっています。
滑らかなその動きから、ご主人の感度は上がりつつあると予測しました。

「あっあっ…ゆ、指…ダメっ」

「こんなに夢中で咥えこんでるのに?」

浅く早い息を吐き始めたご主人は再び眉根を寄せて、セイゲル様の胸に縋り付きます。

「んっ、や…もう……ナカ苦し…お願い…っ」

「疼くか。 だが琴乃?  こないだ教えただろ。 ちゃんと言うんだ」

さすがにそれは恥ずかしいのか、ご主人はセイゲル様の胸に顔を埋めたまま激しく頭を横に振りました。
その仕草は可愛らしく、セイゲル様に甘えているのが見て取れます。

「ま、今回はいいか。 でもな」

ご主人の両脇に手を入れたセイゲル様はそのままご主人を目線の上に持ち上げました。
セイゲル様は愛おしそうにご主人の目を見つめています。

「出来れば俺にはちゃんと言って欲しい。 俺が無神経だとお前が傷付くんだろ?  体にしても心にしてもだ。  俺はお前をしっかり見るし、何を感じてるのか必死で考える。  だが俺はお前じゃねえ。  きっとそこには見落としがある。 俺はそれが知りたいし、そういうものを積み重ねた先に本当の家族があると信じてる」

目を見張っていたご主人は、やがて伏せた長いまつ毛に影を落としました。

「……セイゲル、さん…ごめん、なさい」

「お前、謝ってばかりだな」

微笑んだセイゲル様はご主人の脚を誘導し自分の膝の上に跨らせました。
そしてご主人の身体をゆっくりと沈めていきます。

「んん!」

しばらくぶりに身を開かれる感覚に、ご主人の息が苦しそうに詰まりました。

「……っ……うっ…ぁ…あっ…ぁぁぁあっ」

喉を晒し仰け反るご主人が緩やかに上下しています。
ご主人の腰を掴み、抽挿を調整するセイゲル様は時おり息を大きく吐き、自制しているようでした。

「あうっ、ひぁあ”っあっ───…っうぁぁっ…んあっ」

ご主人の目から、次から次へと涙が零れ落ちて頬を伝いました。
頬の輪郭や顎まで辿り着いたそれは行き場をなくし、パタパタパタパタと、セイゲル様の腕や衣服に滴り落ちました。

「やぁぁ…あっ…いやっ、い、行かない、で」

ご主人の視線はセイゲル様に注がれていましたが、その瞳は違う者を追っているようでした。
そもそも意地っ張りで恥ずかしがりのご主人の方から誘うのは珍しいことです。
ご主人は早くセイゲル様と本当の家族になりたいと思ったのかもしれません。
ですが他方で、身の内に溢れそうになるご自身の悲しみから逃れたかったのでしょう。

セイゲル様はご主人の頬を舌で撫で、塩辛い体液を吸い取ろうと試みます。

「……俺はきっとお前が泣ける場所になる。 こんなことをしなくってもだ。 だが、今はいい」

ご主人にはセイゲル様の声は耳に入ってないようでした。

「いや…ど、うして……あっ、どうして…っあっぁあ……」

「好きなだけ泣けばいいんだ」

一定の速さで波立つ快楽の中で、ご主人は悲しみに浸ります。
涙の間に吐かれる浅い息は忙しなく、穿たれる熱は、心が沈み切る前にすくい上げる腕のごとく、ご主人を踏みとどまらせます。
愛され、抱かれるという現実に。

獣人の大きな体に完全に身を委ね、泣きじゃくるご主人は幼く見えますが、夜着の中ではさぞかし淫靡な光景が繰り広げられているに違いありません。
緩やかな動作でしたがセイゲル様はご主人に休息を与えず、その身体に悦びを刻み続けるのを止めません。

「………っあ!!」

セイゲル様がご主人の片脚を高くあげて腕に乗せ、天井を仰いだご主人は上半身を大きく反らしました。

「ぁんっ、ひっ…ひっ………んんぅっ!!」

感じる部分に当たっているのか、室内にひと際淫らな嬌声が響きました。
辺りはあっという間に性的な色味を帯び始めます。
今までは睦み合いという言葉に近かった行為が、快楽を追求する共同作業へと様変わりしたようです。

ご主人のもう片方の脚もピンと伸びます。
セイゲル様はご主人の背中を手のひらで支えて結合部を軸にし、掴んでいる尻を回してゆさゆさと揺らしました。

「あ…………あっ! いっ……ああっ!」

「子宮口が完全に降りてる。 前に言ったとおり弄ってやるからな……っ」

「ひっ、イゃ……あっ!! はぁん、……っんふ!」

泣いていた子供が瞬く間に女性となった瞬間でした。
セイゲル様から与えられる快感を受け入れ、伸ばされた長く白い脚は、まるで開く花のようです。
後ろへ流れた黒髪が小刻みに揺れています。
セイゲル様の宣言どおりに、逞しい楔の先端は、ご主人の奥を余すことなく突いているようでした。



ところで、獣人の陰茎というものは他のイヌ科のように根元に亀頭球を持ちません。
力の強い彼らにとっては、何もそれで雌を押さえ付ける必要はありませんし、最中に外敵に襲われるわけでもありませんから、進化の過程で不要になったといわれています。
併せて、体の大きさの比率と比べて陰茎のサイズは若干小さく出来ています。
とはいえ人間に較べると、間違いなく巨根となりますが。
人間のような形状の亀頭は無く、その代わりに先が柔らかく尖っており、体位にもよりますが射精の時などには、これを子宮口に差し込み直接子宮に精液を注ぎます。
ですが充分に快感を得ていないと入らなかったり、大きさのミスマッチで女性が嫌がる羽目になり、通常の膣内射精を行う夫婦も大勢います。

ご主人は高身長のせいか私の予想どおりセイゲル様を受け入れられたようでした。
そして初回から子宮口までをも差し出しました。
あれはこの世界では、体の相性の善し悪しを図る尺度とされます。
あの光景を見た私はドアの陰で年甲斐もなく両手をあげて喜んだものです。



そしてまた私の気が逸れていたのに気付いて再び寝室を視線を戻しました。
セイゲル様はその準備をすべく、ご主人の子宮口やその周りを存分に解しているようです。
今にも達しそうなご主人に集中しているのか、今のセイゲル様はこちらを見る余裕など、とてもなさそうでした。

「あっ…す、好き……っ!  はあ…っ、セ…イゲルさんが……好き!!」

セイゲル様の腕に爪を立て漏らしたご主人の初めての告白に、セイゲル様は動くのも忘れて金色の瞳を見開きました。
その後、ご主人以外には見せたことのない締まりのない表情で、

「そうか……そう…か」

と呟き、お礼とばかりにご主人の身体を強く引き寄せました。
ご主人はしっかりとセイゲル様の背中に腕を回してしがみつきます。
セイゲル様は小さく身体を揺らしているだけですが、体格差のためにご主人は全身をガクガクと揺さぶられていました。

「お前は本当に可愛い……」

「あぅっ…か、可愛…く……なんか……っはぁ、あ」

「俺がどんなに欲情してるか、お前には最初っから分かってたはずだ」

「あっ……あ、あっ、ふぁっ……あっ、ふぅっ」

「否定するな。 俺が選んだ。 俺の女だ」

「んぅ…いくい、イく……ぅっ……!!」

愉悦に蕩けきった表情で、悩ましく喘ぎ続けるご主人のまつ毛に盛り上がっているのはもはや悲しみの涙ではないでしょう。



私は安堵しました。
いずれ子をもうけ家族になる────それはどちらの世界でも当たり前なのですが、ご主人にとって私の存在は不要なものでしょう。
ご主人は他人の前では涙をみせません。
そしてセイゲル様はそんなご主人に寄り添ってくれるようです。

ベランダから離れた私は元の道を辿り地面に足を着けました。
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