3 / 3
同窓会
しおりを挟む
月日の流れはどんどん早くなる。いつの間にか俺は三十歳になっていた。俺は大学を出て地元のロボット関連企業に就職して職場の後輩と結婚し、それなりに充実した日常を過ごしていた。Yさんはと言うと、卒業後も関東に残って就職したと風の便りで聞いただけだった。
そんなある日実家の母から電話があり、俺宛の同窓会の案内状が届いたと知らされた。三十歳を記念した、高校の学年全体の同窓会が開かれるという。それまでも高校の友人達とは何度か会っていたが大掛かりな同窓会が開かれるのは初めてだった。会場が近かったのもあり、俺は参加に丸をして案内状を返送した。
同窓会当日。俺は早目に受付を済ませてホテル内の会場に入った。開会はまだだったが既に数人が飲み物を飲んだり喋ったりしていた。俺の目は自然とYさんの姿を探した。だが彼女はいなかった。
立食形式だったので立ったまま所在無く飲み物を飲んでいると見知った顔が入って来た。三年間同じクラスだったTだ。彼とはあまり接点が無く話した記憶も数える程だったが、懐かしさのあまりグラスを置いて駆け寄った。Tの外見は全く変わっていなかった。
「久しぶり! T君だよね、俺の事覚えてる?」
「……もちろん。よーく覚えてる」
彼は何故か引き気味に、俺の名前を正確にフルネームで答えた。
それから飲み物を取ったTとテーブルに戻り再会を祝して乾杯した。するとTはグラスを持つ俺の薬指の指輪を見て「結婚したのか」と問うた。
「うん。去年職場の後輩と」
俺が答えると、
「マジか! へぇ……」
とTは指輪をマジマジと、やけに長く凝視していた。どこか含みのある視線に引っかかった俺はTに尋ねた。
「俺、結婚してたら変かな?」
Tは気まずそうな表情を浮かべ少しの間ためらっていたが、
「三年の時さ、教室に残って花火見た夜あったろ?」
と話を始めた。
「うん」
俺の結婚と花火の関連性が見つからず、話の続きを待った。
「花火見ながら俺の手握ってきたから、てっきり女に興味無いと思って……」
思わず笑ってしまった。周囲の注目を浴びたが笑いは直ぐにはおさまってくれなかった。その後怪訝そうなTの十二年越しの誤解を解いたのは言うまでもない。俺の弁明に、Tも膝に手を置いて笑っていた。
あの夜、何かの拍子にYさんとTは入れ替わっていたのだ。恐らく手洗いに行ったとかそういうことだろう。
あの時Yさんがまだ隣にいたのなら。俺がうっかりTの手を握らなかったら。俺達の人生は変わっていたのかも知れない。
結局Yさんは同窓会に現れなかったが、Yさんと仲の良かった女子に彼女はとっくに結婚して子どももいると聞いた。彼女なら良い母親になるだろうとその頃には冷静に考えられるようになっていた。
それにしてもYさんには悪いことをしてしまった。向こうにしてみれば急に俺の態度が変化してさぞかし戸惑ったことだろう。
同窓会からさらに五年経つが、Yさんと会う機会は一度も無い。彼女にもし会えたなら、若かりし日の思い出を一緒に笑い飛ばしてしまいたい。そうして初めて俺の苦い青春は成仏するような気がする。
俺がやらかした例の夜から随分遠く来てしまった。しかし未だに深紅の花火を見ると、いろんな意味で鼻の奥がツンとするのである。
そんなある日実家の母から電話があり、俺宛の同窓会の案内状が届いたと知らされた。三十歳を記念した、高校の学年全体の同窓会が開かれるという。それまでも高校の友人達とは何度か会っていたが大掛かりな同窓会が開かれるのは初めてだった。会場が近かったのもあり、俺は参加に丸をして案内状を返送した。
同窓会当日。俺は早目に受付を済ませてホテル内の会場に入った。開会はまだだったが既に数人が飲み物を飲んだり喋ったりしていた。俺の目は自然とYさんの姿を探した。だが彼女はいなかった。
立食形式だったので立ったまま所在無く飲み物を飲んでいると見知った顔が入って来た。三年間同じクラスだったTだ。彼とはあまり接点が無く話した記憶も数える程だったが、懐かしさのあまりグラスを置いて駆け寄った。Tの外見は全く変わっていなかった。
「久しぶり! T君だよね、俺の事覚えてる?」
「……もちろん。よーく覚えてる」
彼は何故か引き気味に、俺の名前を正確にフルネームで答えた。
それから飲み物を取ったTとテーブルに戻り再会を祝して乾杯した。するとTはグラスを持つ俺の薬指の指輪を見て「結婚したのか」と問うた。
「うん。去年職場の後輩と」
俺が答えると、
「マジか! へぇ……」
とTは指輪をマジマジと、やけに長く凝視していた。どこか含みのある視線に引っかかった俺はTに尋ねた。
「俺、結婚してたら変かな?」
Tは気まずそうな表情を浮かべ少しの間ためらっていたが、
「三年の時さ、教室に残って花火見た夜あったろ?」
と話を始めた。
「うん」
俺の結婚と花火の関連性が見つからず、話の続きを待った。
「花火見ながら俺の手握ってきたから、てっきり女に興味無いと思って……」
思わず笑ってしまった。周囲の注目を浴びたが笑いは直ぐにはおさまってくれなかった。その後怪訝そうなTの十二年越しの誤解を解いたのは言うまでもない。俺の弁明に、Tも膝に手を置いて笑っていた。
あの夜、何かの拍子にYさんとTは入れ替わっていたのだ。恐らく手洗いに行ったとかそういうことだろう。
あの時Yさんがまだ隣にいたのなら。俺がうっかりTの手を握らなかったら。俺達の人生は変わっていたのかも知れない。
結局Yさんは同窓会に現れなかったが、Yさんと仲の良かった女子に彼女はとっくに結婚して子どももいると聞いた。彼女なら良い母親になるだろうとその頃には冷静に考えられるようになっていた。
それにしてもYさんには悪いことをしてしまった。向こうにしてみれば急に俺の態度が変化してさぞかし戸惑ったことだろう。
同窓会からさらに五年経つが、Yさんと会う機会は一度も無い。彼女にもし会えたなら、若かりし日の思い出を一緒に笑い飛ばしてしまいたい。そうして初めて俺の苦い青春は成仏するような気がする。
俺がやらかした例の夜から随分遠く来てしまった。しかし未だに深紅の花火を見ると、いろんな意味で鼻の奥がツンとするのである。
0
お気に入りに追加
3
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【ショートショート】おやすみ
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
◆こちらは声劇用台本になりますが普通に読んで頂いても癒される作品になっています。
声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。
今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
鬼上官と、深夜のオフィス
99
恋愛
「このままでは女としての潤いがないまま、生涯を終えてしまうのではないか。」
間もなく30歳となる私は、そんな焦燥感に駆られて婚活アプリを使ってデートの約束を取り付けた。
けれどある日の残業中、アプリを操作しているところを会社の同僚の「鬼上官」こと佐久間君に見られてしまい……?
「婚活アプリで相手を探すくらいだったら、俺を相手にすりゃいい話じゃないですか。」
鬼上官な同僚に翻弄される、深夜のオフィスでの出来事。
※性的な事柄をモチーフとしていますが
その描写は薄いです。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる