深紅の花火

たんぽぽ。

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同窓会

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 月日の流れはどんどん早くなる。いつの間にか俺は三十歳になっていた。俺は大学を出て地元のロボット関連企業に就職して職場の後輩と結婚し、それなりに充実した日常を過ごしていた。Yさんはと言うと、卒業後も関東に残って就職したと風の便りで聞いただけだった。

 そんなある日実家の母から電話があり、俺宛の同窓会の案内状が届いたと知らされた。三十歳を記念した、高校の学年全体の同窓会が開かれるという。それまでも高校の友人達とは何度か会っていたが大掛かりな同窓会が開かれるのは初めてだった。会場が近かったのもあり、俺は参加に丸をして案内状を返送した。

 同窓会当日。俺は早目に受付を済ませてホテル内の会場に入った。開会はまだだったが既に数人が飲み物を飲んだり喋ったりしていた。俺の目は自然とYさんの姿を探した。だが彼女はいなかった。

 立食形式だったので立ったまま所在無く飲み物を飲んでいると見知った顔が入って来た。三年間同じクラスだったTだ。彼とはあまり接点が無く話した記憶も数える程だったが、懐かしさのあまりグラスを置いて駆け寄った。Tの外見は全く変わっていなかった。
「久しぶり! T君だよね、俺の事覚えてる?」
「……もちろん。よーく覚えてる」
彼は何故か引き気味に、俺の名前を正確にフルネームで答えた。

 それから飲み物を取ったTとテーブルに戻り再会を祝して乾杯した。するとTはグラスを持つ俺の薬指の指輪を見て「結婚したのか」と問うた。
「うん。去年職場の後輩と」
俺が答えると、
「マジか! へぇ……」
とTは指輪をマジマジと、やけに長く凝視していた。どこか含みのある視線に引っかかった俺はTに尋ねた。
「俺、結婚してたら変かな?」
Tは気まずそうな表情を浮かべ少しの間ためらっていたが、
「三年の時さ、教室に残って花火見た夜あったろ?」
と話を始めた。
「うん」
俺の結婚と花火の関連性が見つからず、話の続きを待った。
「花火見ながら俺の手握ってきたから、てっきり女に興味無いと思って……」
思わず笑ってしまった。周囲の注目を浴びたが笑いは直ぐにはおさまってくれなかった。その後怪訝そうなTの十二年越しの誤解を解いたのは言うまでもない。俺の弁明に、Tも膝に手を置いて笑っていた。

 あの夜、何かの拍子にYさんとTは入れ替わっていたのだ。恐らく手洗いに行ったとかそういうことだろう。

 あの時Yさんがまだ隣にいたのなら。俺がうっかりTの手を握らなかったら。俺達の人生は変わっていたのかも知れない。

 結局Yさんは同窓会に現れなかったが、Yさんと仲の良かった女子に彼女はとっくに結婚して子どももいると聞いた。彼女なら良い母親になるだろうとその頃には冷静に考えられるようになっていた。

 それにしてもYさんには悪いことをしてしまった。向こうにしてみれば急に俺の態度が変化してさぞかし戸惑ったことだろう。
 同窓会からさらに五年経つが、Yさんと会う機会は一度も無い。彼女にもし会えたなら、若かりし日の思い出を一緒に笑い飛ばしてしまいたい。そうして初めて俺の苦い青春は成仏するような気がする。

 俺がやらかした例の夜から随分遠く来てしまった。しかし未だに深紅の花火を見ると、いろんな意味で鼻の奥がツンとするのである。
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