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整形外科病棟の病室でまどろんでいた林は、気配を感じて細目を開けた。彼は腕を骨折して入院していた。
立っているのは白衣の女である。彼女は林がうとうととしているのを見て、話しかけようかどうか迷っているらしい。
先手を打って林が「何か用?」と尋ねると、女はさらに近づいて来て言った。
「私はここの病棟の担当薬剤師の吉川です、今お時間よろしいですか?」
林は特にすることも無かったので「別にいいよ」とだけ答えた。
吉川という薬剤師は「では失礼します」と言って林に目線を合わせるように屈み込み、質問を始めた。
名札には「薬剤室 薬剤師 吉川由衣子」とある。
「お薬について説明に参りました。まず最初に、お薬でアレルギーが出たり副作用が起こったことは無いですか?」
看護師にも聞かれた事なので二度手間だったが、林は「特に無いけど」と答えた。
次に由衣子は林に写真付きのプリントを渡した。薬の情報が書いてあるものだ。林は寝たままそれを受け取る。
「現在林さんに出されている薬です、まず頓用で痛み止めの坐薬が出ていまして、挿入後すぐに効いてきます。1日2回まで、1回使ったら6時間は開けてください。看護師に言えば持ってきますので」
林は特に興味も無かったので、ふぅんとただ聞いていた。
由衣子は点滴スタンドに掛けられている点滴を指差して続ける。
「それからあれは抗生剤の点滴です。術後の化膿止めですね。朝晩2回、処方されています」
林は由衣子の話を聞き流しながら、彼女を観察した。色白の地味な顔立ちだが良く見ると整っている。おそらく20代半ば。新人だろうか。先ほどの様子やしゃべり方から、押しに弱そうだと思った。
「何かご質問などございませんか?」
由衣子は言い、少し首を傾げた。
林は暇だったし彼女に興味が湧いたので、少し引きとめようと思った。
「吉川さん彼氏いんの?」
すると由衣子は笑った。笑うと八重歯が覗き、林に愛嬌を感じさせた。
「いるように見えないでしょう、モテないですから」
彼女は答え、
「では、また処方に変更などございましたら伺います」
と逃げるように立ち去った。
林はまだ会話を続けていたかったので、残念に思った。
立っているのは白衣の女である。彼女は林がうとうととしているのを見て、話しかけようかどうか迷っているらしい。
先手を打って林が「何か用?」と尋ねると、女はさらに近づいて来て言った。
「私はここの病棟の担当薬剤師の吉川です、今お時間よろしいですか?」
林は特にすることも無かったので「別にいいよ」とだけ答えた。
吉川という薬剤師は「では失礼します」と言って林に目線を合わせるように屈み込み、質問を始めた。
名札には「薬剤室 薬剤師 吉川由衣子」とある。
「お薬について説明に参りました。まず最初に、お薬でアレルギーが出たり副作用が起こったことは無いですか?」
看護師にも聞かれた事なので二度手間だったが、林は「特に無いけど」と答えた。
次に由衣子は林に写真付きのプリントを渡した。薬の情報が書いてあるものだ。林は寝たままそれを受け取る。
「現在林さんに出されている薬です、まず頓用で痛み止めの坐薬が出ていまして、挿入後すぐに効いてきます。1日2回まで、1回使ったら6時間は開けてください。看護師に言えば持ってきますので」
林は特に興味も無かったので、ふぅんとただ聞いていた。
由衣子は点滴スタンドに掛けられている点滴を指差して続ける。
「それからあれは抗生剤の点滴です。術後の化膿止めですね。朝晩2回、処方されています」
林は由衣子の話を聞き流しながら、彼女を観察した。色白の地味な顔立ちだが良く見ると整っている。おそらく20代半ば。新人だろうか。先ほどの様子やしゃべり方から、押しに弱そうだと思った。
「何かご質問などございませんか?」
由衣子は言い、少し首を傾げた。
林は暇だったし彼女に興味が湧いたので、少し引きとめようと思った。
「吉川さん彼氏いんの?」
すると由衣子は笑った。笑うと八重歯が覗き、林に愛嬌を感じさせた。
「いるように見えないでしょう、モテないですから」
彼女は答え、
「では、また処方に変更などございましたら伺います」
と逃げるように立ち去った。
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