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賭け
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夢うつつに、柔らかいものに触れた。目覚めると女の寝顔があった。
カーテンの隙間から差し込む光の角度から、朝なのだと気付く。二十時間近くも眠っていたのか、と柊は自分に呆れた。
熱の下がった身体の軽さと、寝過ごした後の気怠さとが混じった妙な心地だった。
「おい起きろ」と仰向けに寝る女の頬を軽く叩くと、彼女はわずかに顔をしかめた。長い睫毛がまた、柊の心を騒つかせる。
肩を揺すろうと毛布をずらして気が付いた。夏帆の上半身は、ただ一枚のキャミソールで覆われているだけなのだった。さらに毛布をめくると、下はショーツのみである。
ぎょっとするが、枕元に脱いだ服や上着、ブラジャーが綺麗に折り畳まれて置いてあるため、柊自身がやったわけではないとわかり胸を撫で下ろす。
それに、いくら熱で朦朧としていたとしても、そのような行為があったのならば記憶に残っているはずだ。
柊は毛布を元通りに掛けなおそうとした。しかしホッとしたのも束の間、夏帆が体の向きを変えた。寝顔が間近に迫る。
柊は睫毛から目を逸らした。
逸らした先にあるもの、肩紐の外れかけた華奢な肩と、胸からウエストにかけての柔らかな曲線、ショーツから伸びる太腿とを順に視線でなぞる。
そして彼の目は最後に、白い胸元に留まった。
キャミソールは黒く何の装飾もない、味も素っ気もないものだったが、包まれた肌を一層白く際立たせていた。その白を黙って見ていられるほど、柊は聖人君子ではなかった。
眼前の胸元は、呼吸に合わせて規則的に浮き沈みしている。
柊は布団を剥ぎ取った。
馬乗りになって両肩を強く掴む。夏帆は目を覚まし、「先生……?」と呟く。
「……後悔するなよ?」
柊は聞いた。夏帆は何度か瞬きをした。
「何があっても後悔するなよ?」
もう一度聞くと、夏帆は返事の代わりに肩に置かれた柊の手を取って、片方の胸を覆うように乗せた。
薄い布地越しに、速い鼓動が伝わってくる。指の動きに合わせて目をつむったり、首をのけぞらせたりする。
柊はキャミソールを一気にたくし上げた。二つの膨らみが、カーテン越しの光に浮かび上がるように姿を現す。
柊はそれらを両の手のひらで包み込む。夏帆がふうっとため息を漏らす。
しばらくその柔らかさを手で味わってから、睫毛に口付けし、次いで、流星の下でしたのよりも深く、より長いキスをした。
唇を首筋、鎖骨と徐々に移動させ胸のあちこちに舌を這わせた。夏帆は身をくねらせ、「せんせっ」と初めて聞く切羽詰まった声を上げた。上げながら柊の髪の毛をぐしゃぐしゃに乱した。
途中、隣の部屋から強烈な壁ドンが聞こえてきたが、夏帆は構わず何度も声を上げた。
柊はキャミソールとショーツをはぎ取り、自身も服を脱ぎ捨てた。夏帆の下半身に手を伸ばす。
夏帆の固く閉じた脚の間の、奥へ奥へと力ずくで指を入れてゆく。入れるにつれ、夏帆は柊の二の腕に深く深く爪を立てた。
夏帆は脚を閉じながらも、既に柊を受け入れる準備ができているようだった。
やがてゆっくりと脚が開かれる。
しかし直前で彼はそれを拒んだ。
夏帆の身体を強く抱きしめ、ただ荒い息を吐いていた。
こんなにも身体は熱を持っているのに、頭の片隅はいつも冷静なのだ。
──どうせ離れて行く癖に。
すると夏帆は柊の下半身に手を差し伸べた。熱を持つそれを手に包み込み、動かし始める。
その動きはぎこちなく控えめなものだったが、柊を導き果てさせるのには充分だった。
そして体液を絡めたまま、再び同じ動作を最初から繰り返す。
消し忘れた水槽の弱い光を背景にして、頭のタガが外れたように、一度目よりも強く深く求め合った。
まだ三月だというのに二人とも汗だくで、しばらく脚をもつれさせながら呼吸をしていた。
交代でシャワーを浴びると、夏帆は言葉少なに帰って行った。
カーテンの隙間から差し込む光の角度から、朝なのだと気付く。二十時間近くも眠っていたのか、と柊は自分に呆れた。
熱の下がった身体の軽さと、寝過ごした後の気怠さとが混じった妙な心地だった。
「おい起きろ」と仰向けに寝る女の頬を軽く叩くと、彼女はわずかに顔をしかめた。長い睫毛がまた、柊の心を騒つかせる。
肩を揺すろうと毛布をずらして気が付いた。夏帆の上半身は、ただ一枚のキャミソールで覆われているだけなのだった。さらに毛布をめくると、下はショーツのみである。
ぎょっとするが、枕元に脱いだ服や上着、ブラジャーが綺麗に折り畳まれて置いてあるため、柊自身がやったわけではないとわかり胸を撫で下ろす。
それに、いくら熱で朦朧としていたとしても、そのような行為があったのならば記憶に残っているはずだ。
柊は毛布を元通りに掛けなおそうとした。しかしホッとしたのも束の間、夏帆が体の向きを変えた。寝顔が間近に迫る。
柊は睫毛から目を逸らした。
逸らした先にあるもの、肩紐の外れかけた華奢な肩と、胸からウエストにかけての柔らかな曲線、ショーツから伸びる太腿とを順に視線でなぞる。
そして彼の目は最後に、白い胸元に留まった。
キャミソールは黒く何の装飾もない、味も素っ気もないものだったが、包まれた肌を一層白く際立たせていた。その白を黙って見ていられるほど、柊は聖人君子ではなかった。
眼前の胸元は、呼吸に合わせて規則的に浮き沈みしている。
柊は布団を剥ぎ取った。
馬乗りになって両肩を強く掴む。夏帆は目を覚まし、「先生……?」と呟く。
「……後悔するなよ?」
柊は聞いた。夏帆は何度か瞬きをした。
「何があっても後悔するなよ?」
もう一度聞くと、夏帆は返事の代わりに肩に置かれた柊の手を取って、片方の胸を覆うように乗せた。
薄い布地越しに、速い鼓動が伝わってくる。指の動きに合わせて目をつむったり、首をのけぞらせたりする。
柊はキャミソールを一気にたくし上げた。二つの膨らみが、カーテン越しの光に浮かび上がるように姿を現す。
柊はそれらを両の手のひらで包み込む。夏帆がふうっとため息を漏らす。
しばらくその柔らかさを手で味わってから、睫毛に口付けし、次いで、流星の下でしたのよりも深く、より長いキスをした。
唇を首筋、鎖骨と徐々に移動させ胸のあちこちに舌を這わせた。夏帆は身をくねらせ、「せんせっ」と初めて聞く切羽詰まった声を上げた。上げながら柊の髪の毛をぐしゃぐしゃに乱した。
途中、隣の部屋から強烈な壁ドンが聞こえてきたが、夏帆は構わず何度も声を上げた。
柊はキャミソールとショーツをはぎ取り、自身も服を脱ぎ捨てた。夏帆の下半身に手を伸ばす。
夏帆の固く閉じた脚の間の、奥へ奥へと力ずくで指を入れてゆく。入れるにつれ、夏帆は柊の二の腕に深く深く爪を立てた。
夏帆は脚を閉じながらも、既に柊を受け入れる準備ができているようだった。
やがてゆっくりと脚が開かれる。
しかし直前で彼はそれを拒んだ。
夏帆の身体を強く抱きしめ、ただ荒い息を吐いていた。
こんなにも身体は熱を持っているのに、頭の片隅はいつも冷静なのだ。
──どうせ離れて行く癖に。
すると夏帆は柊の下半身に手を差し伸べた。熱を持つそれを手に包み込み、動かし始める。
その動きはぎこちなく控えめなものだったが、柊を導き果てさせるのには充分だった。
そして体液を絡めたまま、再び同じ動作を最初から繰り返す。
消し忘れた水槽の弱い光を背景にして、頭のタガが外れたように、一度目よりも強く深く求め合った。
まだ三月だというのに二人とも汗だくで、しばらく脚をもつれさせながら呼吸をしていた。
交代でシャワーを浴びると、夏帆は言葉少なに帰って行った。
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