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慎也とエバポレーターとあたし
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真夜中。
大学の研究室の片隅であたしは立ったまんま、ロータリーエバポレーターに接続されたナス型フラスコの回転をただ見つめてる。
エバポレーターに接続されたナス型フラスコは、ウォーターバス内で温められた水を纏ってひたすら回転している。回転速度を遅く設定しているので、くるぅりくるぅりとアンニュイな風情。今日はどうしても切りの良いところまで実験を進めたくて、研究室に最後まで残っていたのだ。
一年前のあの事件以来うちの研究室は「呪いの研究室」と噂されていて、研究室員の内二人が精神的に病んで休学、さらに志望者も減って、三台しか無いエバポレーターを使う順番が回ってきやすくなった。とっても良いことだと思う。ま、犯罪者を二人出した上に惨殺現場となったのだから当然でしょうけど。
あたしは目に見えないものは信じない質なので、片目が空洞になった慎也の幽霊が出るなんていう、まことしやかな噂も怖くない。ただでさえ沢原先輩の事件で教授も准教授もピリピリしてた上に、また教え子が事件を起こしたから、その話題は研究室内では禁句となっているんだけど。
あたしは最近になって家族に「やっと笑顔が戻ってきて安心した」と言われていた。婚約者を頭のおかしな女に殺された悲劇のヒロインモードを徐々に解除した結果だ。
柴田さんには、本当に感謝してるのだ。あの女たらしで巨乳フェチの馬鹿男が地球上から消え失せて、ホントに清々してるんだから。
婚約者だった真木慎也は言ったのだ、「お前の胸がデカかったらパーフェクトなのにな」と。よりにもよって結婚が決まって、初めてあたしを抱いた後に。それまでは便利アイテムでなんとかまな板を隠していたのだ。彼は続けて、「背中かと思った」とか「俺より小さいんじゃない」とも言った。本当なら甘い時間を過ごすはずだったのに、全てを否定されたような気がした。
あたしは柴田さんとは比べるまでもないくらい恵まれている。「結城さんって女子アナみたいだよな」と噂される自分の外見を気に入っているし、一生働かなくても良いくらいの財産をいずれ相続することも決定してる。自分に付随するものに対して、おおむね満足しているのだ。ただし、一点を除いては。
Aカップの胸は、あたしの唯一の、しかも致命的なコンプレックスだった。
男は寝ると本性を出すことを身をもって知ったあたしは、これから男と寝まくって彼らの本心を見極めた上で、心の底からこの貧乳を愛してくれる人と結婚しようと決めている。
とりあえずあたしは学部生の杉下君を誘惑した。マンションに呼ぶとホイホイ付いてきた。あっけないくらいだった。既婚者である准教授達は置いておくとして、でも教授は独身だからついでに抱かれてみようかしら。彼は還暦前だけど、何か新しい発見があるかも知れないし。
研究室の人間関係は今以上にぐっちゃぐっちゃになるだろうけど、もうすぐ修士課程も修了するし、後のことなんてどうでもいいって感じ。
あたしのまな板に対して、柴田さんはボソボソ喋って暗いし少し太っているし腫れぼったい瞼で全体的に垢抜けない感じだけど、素晴らしい胸を持っていた。
男達はみんな、柴田さんの胸元をチラチラ見るのだ。もちろん、慎也も。その度にあたしは何も言われていないのに、自分の胸が文字通りとてつもなくちっぽけな物だと指摘されてるような気がしてイライラした。でも鈍感な彼女は彼らの視線にちっとも気づいてないようで、それもあたしをイラつかせた。
慎也はあたしの初めての相手だ。あたしは結婚する相手にしか身体を許さないと決めていたし、中高一貫の女子校出身だからそもそも男性との交際経験がなかった。彼には、あたしの方が惚れていた。彼は私のストライクゾーンど真ん中のルックスだった。平行二重で少し垂れた目や、笑うと鼻に皺がよる所なんてたまらなかった。
あたしは理系の男の人がタイプだから、わざわざ理系の学部に進んだ。入学直後に廊下ですれ違った慎也に目をつけて、彼を追いかけるために同じテニスサークルに入り、数々の告白を断りまくり、彼のことを監視した。でも慎也はやっぱりモテるみたいで、交際相手が途切れない。大体は他の大学との合コンやバイト先で出会った子らしい。
配属する研究室も、ただ慎也が所属しているという理由で決めた。そして彼の近くにいるためだけに院に進んで、その夏彼女と別れたという噂を聞いた直後に猛アタックした。それでやっと彼と付き合うという夢が叶った上に、付き合ってすぐに彼は「俺が院を出ると同時に結婚しよう」と言ってくれた。
その時はすっかり舞い上がって脳内花畑状態で気づかなかったけど、結局のところ彼の目的はあたしの財産と、女子アナ的ルックスを周囲に見せびらかすことだったのだと思う。その証拠に、婚約と同時に彼のあたしに対する態度はぞんざいになった。慎也は、「釣った魚に餌を与えない」を地でいく男だっのだ。
要領が良く容姿にも恵まれている彼は、研究室の他の女子にも手を出していたことをあたしは知ってる。
例えば博士課程一年だった溝口先輩。あたしは彼女に、英語で書かれた論文を読んでいてどうしても分からない所を聞いたのだった。彼女は丁寧に教えてくれたのだけど、途中何の脈絡もなく「私、真木君と寝たよ」と真っ正面からあたしを見て真顔で言った。そして何事もなかったように論文の翻訳に戻った。あたしは動揺しては負けだと思って必死にたえて、お前は絶対に結婚式に呼んでやらない、と誓った。慎也と婚約した後のことだ。
溝口先輩とのことを慎也に問いただすと「じゃあ、結婚やめようか?」と彼は言った。婚約を破棄するなんて、もう皆んなに結婚のことが知れ渡った後ではプライドが許さない。彼はそんなあたしの性格を良く把握していた。
それ以来彼は開き直ったのか、あたしにいちいち今日は誰とやったと報告するようになった。彼のずるい所は、大学を去る数ヶ月前に学部内の女子に手を出し始めたことだ。それまでは男女関係の問題に煩わされるのが面倒で、学外の子とばかり交際していたらしい。あたしはここにあと一年以上いなければならないのに、後は野となれ山となれという態度だった。
慎也は手当たり次第に研究室内の女子と寝まくったくせに何食わぬ顔で研究を続け、あたしは彼のそんな動じない性格を以前は頼もしく感じていたのに、厚顔無恥だと憎むようになる。「俺は研究室の全女子を制覇するぜ!」と、事あるごとに彼は言った。彼が言うと冗談に聞こえなかったし、実際冗談なんかじゃなかった。
あたしは飲み会に絶対に参加しなくなった。本当は彼を見張るべきなのかも知れないけど、もう半分は諦めていた。入籍前なのに既にあたし達の関係は、不倫を繰り返す夫と絶対に離婚するまいと意地を張る妻みたいだった。
大体、慎也と寝る方も寝る方なのだ。婚約者がいる男の誘いに乗るのはどういう心理なんだろう。他人の不幸は蜜の味という奴だろうか。あたしは恵まれた色々なもののお陰か知らないけど、初対面でも女性に邪険にされることが多い。そんな狂った研究室の飲み会になんて行きたくなかった。
柴田さんの胸に関しては、慎也は「思いっきり握り潰したくなるおっぱいだよな」と評していて、彼女と寝たという報告の後はしきりに「実に最高の揉み心地だった」とか「人生史上最高の脂肪組織だった」とか、あたしへの当てつけのように口にした。そしてあたしの前で、他のどの女の話よりも柴田さんの胸を話題にした。
被害者の関係者として、また悲劇のヒロインごっこの一環として、あたしは柴田さんが起こした事件の公判全てを傍聴した。殺意の有無や死後薬指を切断した理由や薬指の行方、慎也との関係などが争点となったようだけど、柴田さんは「私が殺しました」と言う以外は黙秘を続けた。彼女は余分な肉が削げて最適なBMIになったような感じで、良かったじゃん、と思った。そして痩せたにも関わらず、素晴らしい胸は健在だった。
あたしは、あの夜慎也が柴田さんに迫ったのだと思ってる。たぶん遅くまで残っていた彼女を襲って、返り討ちにあったか揉み合いになって運悪く死んだんじゃないだろうか。何しろあんなに彼女の胸に執着していたのだから。つまり正当防衛って訳だ。
でもそれじゃ、薬指切断の理由がわからない。結局彼女は殺人と死体損壊の罪で懲役十三年の判決を言い渡され現在服役中だ。
それにしても、柴田さんの事件は沢原先輩の時と共通点が多過ぎる。
回転を続けるナス型フラスコをぼーっと眺めながら考え事をしていたら、いつの間にか溶媒が全て飛んで、受けフラスコ内に溜まっていた。ナス型フラスコの中の試料から除去された余分な溶媒は蒸発後再び冷却され、受けフラスコに溜まる仕組みだ。それを廃棄しようと一旦エバポを停止させる。
そこであたしはまた、慎也が死んだ翌朝研究室の中で見たエバポレーターを思い出す。
警官が大勢訪れていてもちろん立ち入り禁止だったけど、関係者であるあたしは現場検証に立ち会った。そこで慎也の惨たらしい遺体も見た。あたしはしゃがんで顔を覆って泣く振りしながら、必死に声を殺して笑ってた。ほうらね、ろくな死に方しなかった、とおかしくて仕方がなかった。
そして帰り際、研究室の片隅のエバポレーターの受けフラスコに、薄緑色の液体が溜まっているのを見た。同じような色の液体を前にもどこかで見た記憶があった。その日一日考えて、やっと思い出した。沢原先輩が彼氏を殺した翌朝に研究室で見たんだった。
あの液体は何だったのだろう、彼女達は一体何を濃縮していたんだろう。何となくそれに二つの事件の鍵があるのではないのかと感じている。
すごく気になるし、慎也を消してくれた謝礼も兼ねて、来週にでも研究室をサボって柴田さんに面会に行ってみようかな。
大学の研究室の片隅であたしは立ったまんま、ロータリーエバポレーターに接続されたナス型フラスコの回転をただ見つめてる。
エバポレーターに接続されたナス型フラスコは、ウォーターバス内で温められた水を纏ってひたすら回転している。回転速度を遅く設定しているので、くるぅりくるぅりとアンニュイな風情。今日はどうしても切りの良いところまで実験を進めたくて、研究室に最後まで残っていたのだ。
一年前のあの事件以来うちの研究室は「呪いの研究室」と噂されていて、研究室員の内二人が精神的に病んで休学、さらに志望者も減って、三台しか無いエバポレーターを使う順番が回ってきやすくなった。とっても良いことだと思う。ま、犯罪者を二人出した上に惨殺現場となったのだから当然でしょうけど。
あたしは目に見えないものは信じない質なので、片目が空洞になった慎也の幽霊が出るなんていう、まことしやかな噂も怖くない。ただでさえ沢原先輩の事件で教授も准教授もピリピリしてた上に、また教え子が事件を起こしたから、その話題は研究室内では禁句となっているんだけど。
あたしは最近になって家族に「やっと笑顔が戻ってきて安心した」と言われていた。婚約者を頭のおかしな女に殺された悲劇のヒロインモードを徐々に解除した結果だ。
柴田さんには、本当に感謝してるのだ。あの女たらしで巨乳フェチの馬鹿男が地球上から消え失せて、ホントに清々してるんだから。
婚約者だった真木慎也は言ったのだ、「お前の胸がデカかったらパーフェクトなのにな」と。よりにもよって結婚が決まって、初めてあたしを抱いた後に。それまでは便利アイテムでなんとかまな板を隠していたのだ。彼は続けて、「背中かと思った」とか「俺より小さいんじゃない」とも言った。本当なら甘い時間を過ごすはずだったのに、全てを否定されたような気がした。
あたしは柴田さんとは比べるまでもないくらい恵まれている。「結城さんって女子アナみたいだよな」と噂される自分の外見を気に入っているし、一生働かなくても良いくらいの財産をいずれ相続することも決定してる。自分に付随するものに対して、おおむね満足しているのだ。ただし、一点を除いては。
Aカップの胸は、あたしの唯一の、しかも致命的なコンプレックスだった。
男は寝ると本性を出すことを身をもって知ったあたしは、これから男と寝まくって彼らの本心を見極めた上で、心の底からこの貧乳を愛してくれる人と結婚しようと決めている。
とりあえずあたしは学部生の杉下君を誘惑した。マンションに呼ぶとホイホイ付いてきた。あっけないくらいだった。既婚者である准教授達は置いておくとして、でも教授は独身だからついでに抱かれてみようかしら。彼は還暦前だけど、何か新しい発見があるかも知れないし。
研究室の人間関係は今以上にぐっちゃぐっちゃになるだろうけど、もうすぐ修士課程も修了するし、後のことなんてどうでもいいって感じ。
あたしのまな板に対して、柴田さんはボソボソ喋って暗いし少し太っているし腫れぼったい瞼で全体的に垢抜けない感じだけど、素晴らしい胸を持っていた。
男達はみんな、柴田さんの胸元をチラチラ見るのだ。もちろん、慎也も。その度にあたしは何も言われていないのに、自分の胸が文字通りとてつもなくちっぽけな物だと指摘されてるような気がしてイライラした。でも鈍感な彼女は彼らの視線にちっとも気づいてないようで、それもあたしをイラつかせた。
慎也はあたしの初めての相手だ。あたしは結婚する相手にしか身体を許さないと決めていたし、中高一貫の女子校出身だからそもそも男性との交際経験がなかった。彼には、あたしの方が惚れていた。彼は私のストライクゾーンど真ん中のルックスだった。平行二重で少し垂れた目や、笑うと鼻に皺がよる所なんてたまらなかった。
あたしは理系の男の人がタイプだから、わざわざ理系の学部に進んだ。入学直後に廊下ですれ違った慎也に目をつけて、彼を追いかけるために同じテニスサークルに入り、数々の告白を断りまくり、彼のことを監視した。でも慎也はやっぱりモテるみたいで、交際相手が途切れない。大体は他の大学との合コンやバイト先で出会った子らしい。
配属する研究室も、ただ慎也が所属しているという理由で決めた。そして彼の近くにいるためだけに院に進んで、その夏彼女と別れたという噂を聞いた直後に猛アタックした。それでやっと彼と付き合うという夢が叶った上に、付き合ってすぐに彼は「俺が院を出ると同時に結婚しよう」と言ってくれた。
その時はすっかり舞い上がって脳内花畑状態で気づかなかったけど、結局のところ彼の目的はあたしの財産と、女子アナ的ルックスを周囲に見せびらかすことだったのだと思う。その証拠に、婚約と同時に彼のあたしに対する態度はぞんざいになった。慎也は、「釣った魚に餌を与えない」を地でいく男だっのだ。
要領が良く容姿にも恵まれている彼は、研究室の他の女子にも手を出していたことをあたしは知ってる。
例えば博士課程一年だった溝口先輩。あたしは彼女に、英語で書かれた論文を読んでいてどうしても分からない所を聞いたのだった。彼女は丁寧に教えてくれたのだけど、途中何の脈絡もなく「私、真木君と寝たよ」と真っ正面からあたしを見て真顔で言った。そして何事もなかったように論文の翻訳に戻った。あたしは動揺しては負けだと思って必死にたえて、お前は絶対に結婚式に呼んでやらない、と誓った。慎也と婚約した後のことだ。
溝口先輩とのことを慎也に問いただすと「じゃあ、結婚やめようか?」と彼は言った。婚約を破棄するなんて、もう皆んなに結婚のことが知れ渡った後ではプライドが許さない。彼はそんなあたしの性格を良く把握していた。
それ以来彼は開き直ったのか、あたしにいちいち今日は誰とやったと報告するようになった。彼のずるい所は、大学を去る数ヶ月前に学部内の女子に手を出し始めたことだ。それまでは男女関係の問題に煩わされるのが面倒で、学外の子とばかり交際していたらしい。あたしはここにあと一年以上いなければならないのに、後は野となれ山となれという態度だった。
慎也は手当たり次第に研究室内の女子と寝まくったくせに何食わぬ顔で研究を続け、あたしは彼のそんな動じない性格を以前は頼もしく感じていたのに、厚顔無恥だと憎むようになる。「俺は研究室の全女子を制覇するぜ!」と、事あるごとに彼は言った。彼が言うと冗談に聞こえなかったし、実際冗談なんかじゃなかった。
あたしは飲み会に絶対に参加しなくなった。本当は彼を見張るべきなのかも知れないけど、もう半分は諦めていた。入籍前なのに既にあたし達の関係は、不倫を繰り返す夫と絶対に離婚するまいと意地を張る妻みたいだった。
大体、慎也と寝る方も寝る方なのだ。婚約者がいる男の誘いに乗るのはどういう心理なんだろう。他人の不幸は蜜の味という奴だろうか。あたしは恵まれた色々なもののお陰か知らないけど、初対面でも女性に邪険にされることが多い。そんな狂った研究室の飲み会になんて行きたくなかった。
柴田さんの胸に関しては、慎也は「思いっきり握り潰したくなるおっぱいだよな」と評していて、彼女と寝たという報告の後はしきりに「実に最高の揉み心地だった」とか「人生史上最高の脂肪組織だった」とか、あたしへの当てつけのように口にした。そしてあたしの前で、他のどの女の話よりも柴田さんの胸を話題にした。
被害者の関係者として、また悲劇のヒロインごっこの一環として、あたしは柴田さんが起こした事件の公判全てを傍聴した。殺意の有無や死後薬指を切断した理由や薬指の行方、慎也との関係などが争点となったようだけど、柴田さんは「私が殺しました」と言う以外は黙秘を続けた。彼女は余分な肉が削げて最適なBMIになったような感じで、良かったじゃん、と思った。そして痩せたにも関わらず、素晴らしい胸は健在だった。
あたしは、あの夜慎也が柴田さんに迫ったのだと思ってる。たぶん遅くまで残っていた彼女を襲って、返り討ちにあったか揉み合いになって運悪く死んだんじゃないだろうか。何しろあんなに彼女の胸に執着していたのだから。つまり正当防衛って訳だ。
でもそれじゃ、薬指切断の理由がわからない。結局彼女は殺人と死体損壊の罪で懲役十三年の判決を言い渡され現在服役中だ。
それにしても、柴田さんの事件は沢原先輩の時と共通点が多過ぎる。
回転を続けるナス型フラスコをぼーっと眺めながら考え事をしていたら、いつの間にか溶媒が全て飛んで、受けフラスコ内に溜まっていた。ナス型フラスコの中の試料から除去された余分な溶媒は蒸発後再び冷却され、受けフラスコに溜まる仕組みだ。それを廃棄しようと一旦エバポを停止させる。
そこであたしはまた、慎也が死んだ翌朝研究室の中で見たエバポレーターを思い出す。
警官が大勢訪れていてもちろん立ち入り禁止だったけど、関係者であるあたしは現場検証に立ち会った。そこで慎也の惨たらしい遺体も見た。あたしはしゃがんで顔を覆って泣く振りしながら、必死に声を殺して笑ってた。ほうらね、ろくな死に方しなかった、とおかしくて仕方がなかった。
そして帰り際、研究室の片隅のエバポレーターの受けフラスコに、薄緑色の液体が溜まっているのを見た。同じような色の液体を前にもどこかで見た記憶があった。その日一日考えて、やっと思い出した。沢原先輩が彼氏を殺した翌朝に研究室で見たんだった。
あの液体は何だったのだろう、彼女達は一体何を濃縮していたんだろう。何となくそれに二つの事件の鍵があるのではないのかと感じている。
すごく気になるし、慎也を消してくれた謝礼も兼ねて、来週にでも研究室をサボって柴田さんに面会に行ってみようかな。
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