4 / 6
沢原先輩と薄層クロマトグラフィーと私
しおりを挟む
そうこうしている内にナス型フラスコ内の沢原先輩の彼氏の気持ちの濃縮が終わったので、先輩は早速それを薄層クロマトグラフィー上に展開した。次いでルーペでじっくり観察している。
「あーね」
彼女はニヤリと笑って言った。何が見えたのか気になる。
「何か分かりましたか?」
「つまり、付き合う女は若ければ若いほど良いってことだね」
沢原先輩の交際相手は、彼女より二十歳近く上だと聞いていた。アプリで知り合ったそうだ。恐らく彼がさらに若い女に鞍替えしたという意味だろう。
「見る?」
先輩は私にルーペを渡した。それを覗き、彼女同様思わず笑ってしまう。そして人の気持ちをあぶり出す粉が本物だということを私は信じた。まぁ科学では解明できないことの一つや二つ、世の中にあっても良いだろう。深夜の非日常の空間だからか、私は怪しい粉の存在を許した。
先輩は薄層クロマトグラフィーをそれ専用のゴミ箱に叩きつけるように捨てた。
「これからどうするんですか?」
「自首するつもりだけど、その前に昔の日記を処分して、兄貴にも一応電話で挨拶しとく」
その後先輩に頼まれ、彼女のアパートまで自転車を押して同行した。彼女は一人でアパートに入って行き、しばらくして出て来て、アパートの前で待っていた私に言う。
「あいつの死体が嫌でも目につくから急いで来た」
小さな植物の鉢と鍵と何冊かのノートを持っている。植物と鍵を渡された。
「これ、可愛がってた多肉植物だけど、預かっといてくれない? 水のやり過ぎに気をつけてね。あとこれ、研究室の鍵。何も言わずにただ渡されたことにしといて」
「日記も私が処分しましょうか?」
「中、見るつもりでしょ。交番に行く途中で自分で適当に処分するよ」
「わかりました」
残念だ。
「夜遅く付き合ってくれてありがとう、気が向いたら、ムショに面会に来てね~」
うちに遊びに来てね、という調子で先輩は言った。既に刑務所が自分の家みたいな言い方だ。彼女のことを気が合うから私と同じくネクラだと思っていたが、実はネアカだったようで、勝手に決めつけていたのを申し訳なく思った。
そして私達は別れた。その翌朝目が覚めて、沢原先輩と会ったのは夢だったのかなと考えた。でも預かった多肉植物は窓際に置いてあったし、研究室の引き出しに粉の入った封筒はちゃんとあったのだった。
その後沢原先輩が逮捕されたとの情報で研究室は大騒ぎになった。どうして小指を切断したかについてと、小指のありかについては宣言通り沢原先輩は黙秘を決め込んだらしい。
沢原先輩は現在、傷害致死及び死体損壊の罪で懲役7年の実刑判決を喰らい、服役中である。
「あーね」
彼女はニヤリと笑って言った。何が見えたのか気になる。
「何か分かりましたか?」
「つまり、付き合う女は若ければ若いほど良いってことだね」
沢原先輩の交際相手は、彼女より二十歳近く上だと聞いていた。アプリで知り合ったそうだ。恐らく彼がさらに若い女に鞍替えしたという意味だろう。
「見る?」
先輩は私にルーペを渡した。それを覗き、彼女同様思わず笑ってしまう。そして人の気持ちをあぶり出す粉が本物だということを私は信じた。まぁ科学では解明できないことの一つや二つ、世の中にあっても良いだろう。深夜の非日常の空間だからか、私は怪しい粉の存在を許した。
先輩は薄層クロマトグラフィーをそれ専用のゴミ箱に叩きつけるように捨てた。
「これからどうするんですか?」
「自首するつもりだけど、その前に昔の日記を処分して、兄貴にも一応電話で挨拶しとく」
その後先輩に頼まれ、彼女のアパートまで自転車を押して同行した。彼女は一人でアパートに入って行き、しばらくして出て来て、アパートの前で待っていた私に言う。
「あいつの死体が嫌でも目につくから急いで来た」
小さな植物の鉢と鍵と何冊かのノートを持っている。植物と鍵を渡された。
「これ、可愛がってた多肉植物だけど、預かっといてくれない? 水のやり過ぎに気をつけてね。あとこれ、研究室の鍵。何も言わずにただ渡されたことにしといて」
「日記も私が処分しましょうか?」
「中、見るつもりでしょ。交番に行く途中で自分で適当に処分するよ」
「わかりました」
残念だ。
「夜遅く付き合ってくれてありがとう、気が向いたら、ムショに面会に来てね~」
うちに遊びに来てね、という調子で先輩は言った。既に刑務所が自分の家みたいな言い方だ。彼女のことを気が合うから私と同じくネクラだと思っていたが、実はネアカだったようで、勝手に決めつけていたのを申し訳なく思った。
そして私達は別れた。その翌朝目が覚めて、沢原先輩と会ったのは夢だったのかなと考えた。でも預かった多肉植物は窓際に置いてあったし、研究室の引き出しに粉の入った封筒はちゃんとあったのだった。
その後沢原先輩が逮捕されたとの情報で研究室は大騒ぎになった。どうして小指を切断したかについてと、小指のありかについては宣言通り沢原先輩は黙秘を決め込んだらしい。
沢原先輩は現在、傷害致死及び死体損壊の罪で懲役7年の実刑判決を喰らい、服役中である。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
【完結】【R18百合】会社のゆるふわ後輩女子に抱かれました
千鶴田ルト
恋愛
本編完結済み。細々と特別編を書いていくかもしれません。
レズビアンの月岡美波が起きると、会社の後輩女子の桜庭ハルナと共にベッドで寝ていた。
一体何があったのか? 桜庭ハルナはどういうつもりなのか? 月岡美波はどんな選択をするのか?
おすすめシチュエーション
・後輩に振り回される先輩
・先輩が大好きな後輩
続きは「会社のシゴデキ先輩女子と付き合っています」にて掲載しています。
だいぶ毛色が変わるのでシーズン2として別作品で登録することにしました。
読んでやってくれると幸いです。
「会社のシゴデキ先輩女子と付き合っています」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/759377035/615873195
※タイトル画像はAI生成です
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
隣の人妻としているいけないこと
ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。
そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。
しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。
彼女の夫がしかけたものと思われ…
JC💋フェラ
山葵あいす
恋愛
森野 稚菜(もりの わかな)は、中学2年生になる14歳の女の子だ。家では姉夫婦が一緒に暮らしており、稚菜に甘い義兄の真雄(まさお)は、いつも彼女におねだりされるままお小遣いを渡していたのだが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる